第1274話 問題は色々あるが出発

 勇者召喚に対する消費が明らかに少ない事に疑問を感じている。


 Aランクの魔石と聞けば、Lv200程の魔物でこの世界で見れば、明らかに危険な存在である。だけど、このLvの魔物が街の近くに来ることは少ない。大体、魔物の領域の中心部にいる事が普通である。


 街の近くまでくる魔物と言えば、基本的にはゴブリンやオーク、後は知能の低い低ランクの魔物だけだ。


 理由は解明されていないが、強い魔物であれば食うに困らないからだろうと俺は考えている。


 例外として考えるなら、○○キングと言った種族を率いるタイプの魔物だろう。こいつらは、ランクが高くても普通に街の近くまでくるが、経験の蓄積の結果、集落が大きくなる前に殲滅すればキングは生まれないと分かっているため、最悪緊急依頼で殲滅している。


 まぁ、Aランク冒険者がパーティーを組んで倒す魔物の魔石8個と考えると、結構な価値があるように感じるが、どう考えても異世界から勇者の称号をつけるために呼ぶにしては少なすぎる。


 32個全部を埋めたからと言ってちょうどいいかと言われると、それでも異世界を渡るには少ないとおもう。内包魔力をすべて使いきる形でいえば、俺の魔力がAランク魔石10個分くらいだろう。Sランク魔石で言えば、2個分位かな?


 魔石の中にすべての魔力が詰まっているわけでは無いので、魔石ではこの程度なのだ。


 その程度で異世界からの召喚ができるのであれば、俺がその召喚の間を使えば際限なく召喚が可能である。まぁそんなことしないけどな。異世界召喚って言えば何かロマンがあるがその実は、異世界に拉致だからな。


 拉致……あ゛あ゛あ゛っ!!


 妻たちが拉致されたと思うと腹立たしさが再燃してきた。


「シュウ、暴れるなら外で暴れなよ。この部屋、かなりのDPがかかってるし大切な情報もあるんだからね」


 綾乃にそう言われて落ち着けなかったので、発散するために部屋から出て、近くの壁に八つ当たりする。


 ダンジョンの壁は、壊すのは大変だと言われているが、俺のぶっ壊れステータスの体をもってすれば、素手で壁が壊せてしまう。


 それはどうでもいいだろう。ふ~落ち着いたとは言い難いが、それは妻と娘たちが見つかるまでは収まらないだろう。


「あ~戻って来たわね。今、バザールと話していたんだけど、クリエイトアンデッドってあるでしょ? あれを最大まで魔力をためると、大体Sランク魔石10個分ほどだって話なんだけど、多いのか少ないのか判断に困るわ」


「あのスケルトンを作るにはSランク魔石10個分の魔力でできるのか? 物質、体を構成する骨も作る事を考えれば、多いのか少ないのか?」


「分からないわよ。ただAランク魔石8個で私が呼ばれたのが基準で考えると、多いと思うけどね」


 それは勇者召喚を基準にした場合だけどな。勇者ね、勇者?


「あ~神が異世界から呼び出す部分を負担しているのであれば、Aランクの魔石8個は勇者の称号をつけるために使われる魔力って事じゃないかな? 他にも勇者特有のスキルを付けるのに使っているとか」


 綾乃もバザールもそれはあり得るかも? と、


「で、妻たちを拉致した奴らが勇者召喚と同じように魔石を準備して儀式の間を使ったとすれば、今回は同じ世界から妻たちを連れ去るのに使った魔力ってことか?」


 何となく真実に近付いてきた気がする。


 そんな事をしていると、キリエから連絡が入った。


『ご主人様! シェリルたちから報告がありました。その話では、リバイアサンが感知できた大陸は、ここを除くと5つだとの事です。その内4つは東西南北に大体同じ距離で、その倍位離れた所に最後の1個があるそうです』


「大陸の感知に成功しただけだよな? 妻たちの位置が分かったりはしないよな?」


『そうですね。リバイアサンが言うには、海に繋がる川なんかに誰かの魔力が混ざれば感知ができるかも? との事です』


「連絡ありがと、リバイアサンにはそのまま調べるように言ってくれ」


 こうなると、直接乗り込むしかないか? 5個の大陸、5分の1か。どれくらいの距離があるんだろう? そもそも、北や南にある大陸って、極寒の世界だったりするのか? あの神共が作った世界だと考えると、そこら辺も適当になっている気がするな。


「さて、どうするべきだ?」


「リバイアサンが感知できるまで待つか、直接行くしかないんじゃない?」


「大陸についてエリア掌握できたとしてでござるが、その範囲内にいなかったら分からないでござるよ」


「やっぱりそこが問題だよな。距離も気になるけど、掌握エリアにいなかった場合がな」


「そういえばさ、スカーレットさんがダンジョンを作っていたとして、シュウが掌握したエリアとくっ付くの?」


 綾乃に言われて、その可能性を考えてなかった。


「バザール、ちょっと実験するぞ!」


 ここら辺一帯は掌握しているが、一部を解放してバザールに掌握させる。バザールが掌握した後に、俺がそのエリアにかぶるように掌握しなおすと、問題なくエリアがくっついた。


 これでスカーレットがダンジョンを作っている事を願って飛び立つ事もありかもしれないな。


「後は、魔導無線が通じればでござるな」


「呼び出されたメンバーに魔導無線を持っているかどうか……後は、距離の問題か」


 さて、どうするべきだ?


「ここで考えててもしょうがないから、シュウとバザールが別々の大陸に向かえばいいんじゃない?」


「そうすれば、手間は半分になるでござるな。こっちはスケルトンを連れて行けば問題ないでござる」


「私がここに残って解析を担当して情報送るから、2人はリバイアサンが感知した大陸に向うのがいいんじゃないかな?」


 確かにここで考えているよりは、そっちの方が建設的か?


 リバイアサンに方向を教えてもらうか。


 ただここで1つ問題が、方角を調べるために方位磁石を召喚すると、方向が定まらずにクルクル回り続けてしまったのだ。


 出始めから躓いてしまった。


 だけど、ここで万能クリエイトゴーレムが距離と方角の問題を解決してくれた。


 ジャルジャン・ミューズ・グレッグ・ヴローツマインに起点となる魔核を置いて、そこからの距離と方向で大体の居場所を特定する方式だ。


 移動する側がそれぞれの距離を示す魔導具を持って移動をする。そこに表示された数字をこの部屋で、情報を処理する綾乃に伝えて大体の位置を伝える事で方向を決める形だ。


 俺は、従魔と妻たちを連れてリバイアサンに連れて行ってもらう事になった。バザールは、バッハに飛んでもらい移動をする事になった。


 リバイアサンに連れて行ってもらうのは速度の問題でどうかと思ったのだが、そこは水属性の最強の魔物という事もあり、水を直接動かして高速移動が可能になっている。音速を越える馬鹿げた速度で移動が可能なのだとか。


 俺達が移動に使うのは、湖で遊んだ時に使ったクルーザーだ。大きかったのだが、こいつを持って行くためだけに、ディストピアから一番近くの海岸線まで洞窟を掘りそこをリバイアサンに頼み運んでもらっている。


 出発するまでにかかった時間、妻と娘たちがさらわれて40時間、俺が領主の仕事をほとんどしていなかったから可能だったスピード出発だろう。

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