第1273話 謎が深まる

 次の日のお昼までに、王国・聖国・帝国にあった勇者召喚の間への訪問は終了した。


 妻たちがいなくなったのが、昨日の17時頃、既に20時間近くが経っている。焦る気持ちを押さえながら、どうしようもない気持ちが暴走しそうになっている。


 もし妻や娘たちに何かあったら……はっ! そんな事を考えるとフラグになるから駄目だ! 年長組が全員いて、シルキーのスカーレットにニコを中心としたスライム、ケットシーにシルクちゃんやツィード君がいるんだ。すぐにどうにかなるわけが無い。


 特に今回は、ニコたちスライムが一緒だという事が安心材料だな。もし相手を倒す事ができなくて手詰まりになっていたとしても、スライムがいるから休む事は問題ないはずだ。あいつら普段は寝ているっぽいけど、本来は寝る必要なくずっと動けるからな。


 それでも、ずっと周りを囲まれていたら、妻たちだって色々厳しいよな。それに娘たちがそんな状況で大丈夫かという心配がある。


 3ヶ国を回ってからディストピアに帰る際に落ち着いて考えた所、シルキーたちには、ダンジョンマスターのスキルを行使できるように付与していた事を思い出す。


 人種には付与できなかったから、タブレットを使ってマップ先生の機能を使えるようにしていたが、精霊であるシルキーには付与できたので、四大精霊と同じように付与しているのだ。もともと、食の面を全面カバーしてくれているので、食材や調味料を呼び出せるように付与しようと考えたのがきっかけだな。


 実験で試してなかった事だからあれだが、ダンジョンコアを呼び出して新しくダンジョンを作った時には、俺のスキルに同期されるのだろうか?


 今まではダンジョンコアを新しく召喚する事なく支配領域を広げていたため、新しく作った際の事はよく分かっていなかった。


 これまでに奪取したダンジョンもすぐに俺の支配領域と繋げてしまっていたため、検証していなかったのだ。


 まず帰ったら誰かにお願いして試してみよう。


 俺が各国を訪問している間に、バザールと綾乃が召喚の間の魔法陣や模様について、大体の外観は調べてくれていた。


 その報告によると、手入れの関係で、多少模様の形が違ったりするが、原形は全く一緒だと思っていいとの事だ。


 そういえば、召喚の間はダンジョンマスターのスキルでも掌握する事ができなかった。普通に考えて、ダンジョンマスターのスキルの上位能力によって支配されていると考えていいだろう。おそらく神が作った物で間違いないからな。


 そのせいで心配が増えてしまったんだけどな。


 召喚の間に呼び出されていたのであれば、スカーレットがダンジョンコアを取り出しても掌握できないって事なんだよね。召喚の間から出る事ができたのならダンジョンをすぐに作れるだろうけど。


 腹立たしくなっていると、膝に感触がある。


 見てみると俺は貧乏揺すりをしており、そこにダマの前足が置かれていた。


『落ち着くのです。気持ちは分かりますが、焦った状態では本懐を達成する事は出来ませんぞ』


 こうやって何度もダマに諭されているな。


 頭を撫でながら、調査するのに最適な物がないか探してみる事にした。


 確かどこかのプログラマーだか映像クリエイターだかが、映像から3Dモデルを作って本物の人が会話をしている様な映像を作って問題になった事件があったはず。その時に使われていた技術がプログラム化されているのであれば、DPでその技術を呼び出す事ができるはず。


 俺は必死にパソコン関係のタブを探すが、それらしき物はあるのだがクオリティーが低くDPで魔改造をしても、俺が求めているような映像から3Dモデルを作ることが出来ない。


 そんな事をしている内にディストピアへ戻って来た。


 俺はすぐにダンジョン農園の一画にバザールと作った、ロマン部屋へ向かう。


 DPで何でもできるなら、作ってみたくなるものってたくさんあるジャン? その1つがこのロマン部屋。地球の最先端技術を有り余るDPで魔改造して作られた、近未来的な空間だ。イメージするなら、生身で電脳世界に入っている感じだろう。


 それでも補助するソフトや機能が無いと無駄な空間でしかないんだけどね。戦争前位にやっと実用できるレベルのソフトと機能を入れる事に成功した部屋だ。作ったのは良いけど、この部屋で完結しているため作ってから何に使えばいいのだろう? と思い放置していた部屋である。


 量子コンピューターは、まだ実用レベルの物が呼び出せないのでここには無いが、スーパーコンピューターをDPで魔改造した物を100機近く同期させている。これでも、理論上の量子コンピューターには全く及ばないのだが……


 っと、それはいい。その部屋に向かうと、


「あれ? 何で3Dモデルが?」


 そこには、俺が必死に探して見つけられなかったソフトで作りたかった物が映し出されていた。


「シュウお帰り。何でって、差異を比べるのにいちいち目視で確認なんて短時間でできないわよ。バザールが、研究者のプログラムからそれっぽい物を召喚して、ここのパソコンに入れて映像から3Dモデルを作成したのよ」


 そう言って、半径50センチメートル程の半球体の3Dモデルを俺の目の前に差し出してきた。空間投影型を採用していて、思考による操作が可能になっている無茶苦茶な空間だ。


 それが目の前に3つ、


「これが王国、こっちが聖国、最後が帝国ね。これを重ねると、99.99パーセント以上一致ね。残りの0.01パーセントは、魔法陣や模様が彫り込まれた部分に砂や埃が溜まってできた違いだと思うわ」


 重ねられた3つの3Dモデルで、際のある部分が赤く表示されているが、綾乃の言った通り彫り込まれた部分の隅っこに存在しているだけだ。


 大まかな魔法陣と模様は一緒とみて間違いないレベルである。


「バザールと一緒に調べてみたんだけど、私たちじゃないな、シュウやバザールが使っている魔物を呼び出す魔法陣とは似て非なる物だと分かったけど、精霊を呼び出す魔法陣に関しては類似点が発見できたよ」


 そう言って綾乃が精霊を召喚する際に現れる魔法陣の3Dモデルを呼び出す。


 そこからはバザールが代わりに話し始めた。


 類似点で気になるのは、模様が陣が一緒と言うだけでなく、その位置が同じ位置にあるという事だ。精霊を呼び出す場合は、召喚の間にある魔法陣程大きいわけでは無いが、サイズを同じにすると形も場所も一緒だというのだ。


 おそらくこの部分が召喚に関わる部分ではないかと推測した。


 そして、その模様が魔法陣の中心部分に存在しており、王国で兵士が話していた魔石をセットする場所が、その模様の中にある。その窪みの数は32個、綾乃が他の3人と一緒に呼び出された時はどう使われたんだろう?


 皇帝に聞いたらすぐに判明した。普段召喚に使われる魔石の数はAランクが8つ程らしい。なので32個すべての窪みに魔石をセットする理由が分からなかったが、女神から神託があったので、かき集めたのだとか。


 普段の4倍だから4人の召喚ができた?


 だけどさ、Aランクの魔石8個で召喚ができるって、勇者の価値って低くね?


 女神が絡んでいるとはいえ、魔石の数が少ないように思える。


「だけどさ、私はあの間で召喚されたけど、シュウはほぼ強制的に連れてこられたんでしょ? 異世界から呼ぶ部分は神が関わってるなら魔力は関係なくない?」


 そう言われると、神が関わっていないと、異世界からの召喚は不可能らしいからな。

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