第1271話 迷走

「グリエル! 勇者召喚の儀式って知ってるか?」


『突然どうなされたのです? シュウ様の天敵の事でも調べているのですか?』


「グリエル、すまないが、時間も余裕もないんだ。勇者召喚の儀式について知っている事を教えてくれ」


『了解しました。えっと、勇者召喚の儀式ですね。私も詳しい事は知らないのですが、神から神託があって儀式の間? とか呼ばれる場所で儀式をする事によって勇者が召喚されると聞いています』


 召喚の間、そこに何かがあるって事か?


「それがどこにあるか知ってるか?」


『詳しい事は分かりませんが、王国でも第二の都市にあるとかないとか、本当にどうされたんです?』


「今は、話している時間が惜しいから、後でもう1度連絡する」


 そう言ってグリエルとの会話を打ち切る。


 とりあえず、国王に連絡してみるか。


「おぃ、国王! いるか?」


 しばらく待っていると、走っている音が聞こえてくる。


『ハァハァ、寝ておったのに、急に連絡をしてきてどうしたのだ?』


「すまんが急用だ。王国に勇者召喚の間はあるか?」


『もちろんあるが、それがどうしたんだ?』


「見せろ」


『それがものを頼む態度なのかね?』


「押し問答している時間が惜しい。こっちには本当に余裕がない。あまり時間をかけたりはぐらかすようなら、今から王城を襲撃する。そして、お願いではなく命令だ」


『王城を襲撃か、実際に出来てしまうだけの実力があるだけに手に負えないな。本来なら簡単に見せる物では無いが、どうせ壊せないし現状では起動する事も出来ないのだからいいだろう。王都から東に10キロメートル程行った場所に祠がある。その中に召喚の間がある。使いを今から走らせておくから好きな時に向かうといい』


「助かる。今からそこに向かう。できれば、篝火でも建てておいてくれると助かる」


『伝えておこう』


 うっし、とりあえず召喚の間を見る事ができるな。


 護衛に聖獣の3匹を連れて、従魔たちが普段過ごしている部屋へ向かう。


 中に入ると、全員が全員殺気立っているのが分かる。俺がしている事を説明して、何に対して威嚇しているか分からないが、足をバンバン床に叩きつけているバッハの首根っこを掴み外へ連れて行く。


「バッハ、王都に向かって全速で飛んでくれ。王都に到着したら東に10キロメートル位の位置に火が見えると思うから、そこまで運んでくれ」


 一声吼えて元のサイズになった。籠を装着してバッハには飛んでもらう。


 移動を開始してからすぐに、家で待機している妻たちへ連絡を入れ、俺がひらめいた事を伝える。そしてそのままグリエルに連絡を入れる。


「グリエル、すまん。状況を説明する」


 そう言って嫁達が消えた事、召喚された可能性が高い事、そしてそれに使われた物と同じであろう勇者召喚の間に向かっている事を手短に伝える。


『大丈夫なのですか?』


「大丈夫じゃないから慌てているんだよ。おそらくこの大陸にはいない。神から違う大陸で召喚されたような事をにおわせた発言があったから、どういう原理で召喚が行われているのか知りたいから、王国の召喚の間に向かってるんだ」


『なるほど。召喚の間は恐らくですが、少なくとも後2つはある場所が分かると思います。そこにも行ってみますか?』


「1つだけよりは、複数の召喚の間を見れた方が何かわかるかもしれないか、残りの2つは何処にあるんだ?」


『帝国と聖国にはあるはずです。他の国にもあると思いますが、召喚された勇者が大々的に公表されるのが、三大国だけですので小国にあっても把握は出来ないですね』


「確かに大国には勇者がいるもんな。聖国の方は俺が連絡を付けるから、帝国の方はグリエルにお願いしていいか?」


『任せてください』


 さて召喚されたとして、この星の何処にいるのか? 探す事は出来るのか? 衛星があれば大陸の位置位は把握できると思うが、この星の大きさが分からない状態で闇雲に探すのは難しいな。


 どうすればいい?


『主殿、少し落ち着いてください。気持ちは分かりますが、そんなに焦っている様子ではいい考えは浮かびませんぞ』


 ダマが胡坐をかいて座っている俺の膝に前足を置いてそう諭してくれる。


『主よ、頭の中だけで考えるのではなく、言葉にしてみてはどうですか? 我々も一緒に何か考えられるかもしれませぬ』


「そうだな。召喚されたとしてだ、その場所をどうやって特定するか悩んでいる。この大陸のほぼ全域を掌握しているのに、反応が無いという事はこの大陸にはいないって事だと思う。神もそんな感じの事を言っていたからな」


『この星をすべて掌握する事は無理なのですか?』


「ダンジョンマスターのスキルで掌握できるのが、海だと水深50メートル位までなんだ。それより深くなると掌握できないから、星をすべて掌握する事ができないんだよ」


 地下を掘って掌握しながら掘り進めればできない事も無いが、陸がどこにあるか分からないのに穴だらけにしてもな……


『海ですか? リバイアサンの力を使えば、陸の位置位は特定できるかもしれません』


 シエルがそんな事を言う、リバイアサンならできるのか?


『リバイアサンの司る属性は水、私も水の属性です。海や湖の中に入れば、ある程度の範囲を把握する事ができるのです。あそこまで力のある魔物であれば、あるいは』


 シェリルたちを起こしてもらい、リバイアサンに今の事を伝えてもらうようにお願いする。話し終わったらこちらに連絡が欲しい事を伝えた。


 10分後に連絡が入り、リバイアサンの返答は『陸の大体の位置であれば調べる事は可能だ』との事。


 どうやらある一定の大きさの大陸には、必ず同族が住み着いているのだとか、遥か昔には同族はいなかったのだが、ある日世界が揺れた後、急に同族の気配を感じるようになったのだと。


 リバイアサンには、陸のある方角を調べてもらう事にして、俺は聞いた話を口に出して何度も確認する。


「ある日世界が揺れて、同族の気配を感じるようになった?」


 この言葉がひっかかるのだ。それまでは感じていなかった同族の存在を感じ取れるようになった。今までいなかったのが急に現れた?


 近いけど正解では無い気がする。何がひっかかっているんだ?


 ある一定の大きさの大陸には同族がいる。世界が揺れて、今までなかった大陸ができたって事か? さすがに世界が揺れただけで、天災級の魔物が生まれて大陸が出現するわけが無い。


 出現? 現れた? というか、そんな大きな大陸や天災級の魔物が自然に発生するわけが無い! これは神が関わっているんじゃないか?


 そう考えると、現れたではなく、作り出された、が近いんじゃないか? 他にもたくさん同じような世界があるんだから、島の1つや2つは簡単に作りそうだ。


 そこでも俺のように呼び出された人間が駒として存在しているんだろうな。


 あれ? そういえば、1つの世界に神のダンジョンが3つしかないんだよな? どういう感じで繋がっているかは分からないが、俺が攻略した事によって他の世界では、その神のダンジョンが無くなったって言ってなかったっけ?


 この星の他の大陸には神のダンジョンが無いのか?


 えっ? まさか?


 俺は、大きな勘違いをしていたのではないか?

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