第1260話 違う意味で頭が痛い……

 罪人があの場所に送られてから1週間、グリエルに呼ばれて庁舎に来ている。


「お待ちしていました。今日は報告のために来ていただきました」


 そう言って、俺の執務室にある空間投影型ディスプレイに各種報告書を表示してくれる。しばらく説明をしてもらって、気になることを聞いてみた。


「未だに戦争に参加した人への報酬があまり支払われていないようだけど、なんで?」


「街の声を職員に集めてもらった所、どうやらもらいに来る気が無いようです。兵士についても同じで、私たちが何度も言っているのですが、全く効果がありませんでしたね。どうしますか?」


「これが日本の政治家なら泣いて喜ぶシチュエーションだろうな。余計な金を払わなくてよかった、みたいな」


「政治家から見れば使わないで済むのであれば、自分の利益になる事にお金を使いたくなりますからね。とはいえ、今回はシュウ様から資金が出されているので、シュウ様の気持ち次第という形ではあるのですが、どうなさいますか?」


「よし、決めた! 取りに来ないなら、強制的に受け取らせよう。今庁舎で働いている人や、軍の幹部の仕事って忙しいか?」


「少々お待ちいただいてよろしいですか?」


 グリエルが執務室から退出した。調べて来てくれるようだ。


 20分後に戻ってくると、急いでしないといけない事は全て終わっているので、しばらくは日常業務もかなり余裕でこなせる状態だとの事。


 戦争の所為で忙しかったようだが、一段落して日常業務もある程度前倒しして終わっているようだ。


「じゃぁ、仕事が増えて悪いけど、直接本人に渡しに行ってもらっていいかな? 俺からの感謝の気持ちみたいなのと一緒に渡したら、受け取り拒否されないかな?」


「そうですね。お金だけですと、拒否する方が多いかもしれませんが、シュウ様からの感謝の気持ちの品が一緒であれば、拒否されにくいでしょう。お渡しする物はどうしますか?」


「そうだな、食べ物にしようか。普段なら食べられない様な物を送ろうか? と言っても俺に選ぶのは無理だから、いくつか候補を挙げて貰ってそこから選んでもらう形でもいいかな?」


「そうですね。自分でこれがいいと選んだ物であれば、受け取りを拒否し辛いですね」


 こんな感じで、報酬押し付け作戦が始まった。


 正直俺の場合、ゼニスが勝手に稼いでくれている分だけでも使いきれていないのだ。これがDPで生み出したお金であるなら何の問題も無いのだが、この世界に元々あるお金を一ヵ所に集めてしまっている状態があまり良くないのだ。


 なので、可能な限り俺の懐から出て行くように仕向けないとその内、俺の管理する街以外が金貨不足に陥ってしまう可能性が高いのだ。


 今でさえ、無駄使いだと思われる美術品や工芸品を結構な量買い付けているし、特に中立地域以外にある街では、無駄に公共工事を行っている。その公共工事に日雇い労働者やスラムの人を使い行っている。


 公共工事に使う資材を近くの街から取り寄せるのにも、かなりのお金を使っている。それで何とか商会の稼ぎを使いきっているのだ。


 じゃぁ俺の収入がないじゃん? とか思うだろうけど、俺の収入ってなくても問題ないんだよね。だってさ、食料品はダンジョン農園やディストピアの畑エリアから無償で入手できるからな。


 衣服に関しては、妻たちの下着や外行きではない服はDPで出しているし、外行きの服に関しては妻たちが仕立ててくれるからな。


 その他も全部無償で手に入るので、手元にお金がなくても問題なく生活ができるのだ。


 領主の仕事はほとんどグリエルとガリア、その他領主代行に回しているので、街からはお金を受け取っていない。


 じゃぁ手元にあるお金は? といえば、ゴーストタウンの工房で商品開発した際に出た利益だ。


 正直な話、手元にあるお金で言えば、妻たちや土木組よりも圧倒的に少ない。商会にまだまだ使いきれていないお金はあるが、それは必要となる時があるかもしれないので多少確保している形だ。


 俺の中では、既に支払う事となっている戦争の報酬を受け取ってもらわないと困るので、意地でも参加した人にはお金を支払う。


 話は戻り報告が続いていく。


「最後に、シュウ様に相談したい事があるのですが」


 そう前置きをして、グリエルが相談の内容を話してくれた。


 内容は、ディストピアでも税金を取りましょう! という物だった。ディストピアに関しては、この街だけで完結できるだけの物が揃っているだけに、わざわざ税金、この場合は所得税に近い物だな。この世界では、人頭税、家族の人数で払う金額が決まっている。


 税金をとってないのに庁舎などで働いている人の給料はどこから出ているのかと言えば、初めは俺のポケットマネーだったのだが、いつの間にか街の産業、特に畑エリア・家畜エリア・湖エリアは、街が管理しているので、そこの利益の一部が給料として支払われる形になっている。


 認識としては、消費税に近い物だというべきだろう。純粋な利益の一部なので、消費税とは違うのだが。


 まぁ細かい事はどうでもいい。今更必要も無いのに税金をとる必要があるのか? と聞いた所、こんな言葉が返って来た。


「現状、税金の代わりに住民が寄付をしてくれています。この街ができてから、そのお金には一切手を付けていないので、かなりの金額になっているのです。これからも増えていくでしょう。なので、寄付を止めさせるためにも、少額でいいので人頭税を設けましょう。そうすれば、税金をもらっているので寄付を受け付けない、という形にすればどうでしょうか?」


 という物だった。


 そもそもの話、住民が何故寄付をしてくるのかと言えば、税金が無いのにどうやって街の運営をしているのか理解できておらず、説明しても納得してもらえないというのが大きな原因なのだとか。


 なら、少額でも税金をとれば住民には納得してもらえるという寸法だ。


 この考えは悪くないので、早急に内容をまとめてディストピアで公布する流れとなった。公布してから戦争の報酬を支払っていく事も決まった。


 税金を取るので寄付は受け付けないというルールを先に出しておかないと、命懸けで戦った兵士や身を危険にさらしてまで戦場の近くで働いてくれた人が、もらったお金をそのまま寄付しかねない、と秘書から話があったため、公布を先にする事にしたのだ。


 この公布は、効果覿面だった。それでも寄付しようとする人は後を絶たなかったが、税金をもらっているので! と言い、完璧に拒絶する事ができたので、その内寄付する人がいなくなったとか。

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