第962話 雪の上の戦闘
チビ神とのやり取りに若干疲れた俺は、両頬を軽くたたき気合を入れなおす。
雪山にぽっかり空いた洞窟へ入り階段を降りていく。階段を降りた先も同じ雪山、いや今度は木の量が増えている気がするな。場所にもよるだろうけど、視界が悪くなっている。
イエティは視覚に頼る戦闘を行うタイプだと俺は考えている。ただ、ダンジョンが視界を悪くして自分の体内とも呼べるダンジョンで、自分を守る魔物を不利にするとは考えられない。となれば、視覚に頼らないタイプの魔物もいると判断していいと思う。
俺と同じ事をみんなも考えたようで、斥候班が索敵に力を入れている。と言ってもこの島に来てから、フィールドダンジョンでもこのダンジョンでも、索敵にひっかからない魔物が存在しているので、視界による索敵もしっかりとしていく。
どれだけやっても足りないという事はない。遠距離攻撃組、魔法はある程度の範囲を薙ぎ払える魔法を待機させ、俺を含む弓使いのメンバーは主に上空の敵に対する警戒をしている。そしてヒーラー組、ネルは前線に出るので、ピーチとキリエなのだが2人は防御に徹するようだ。
42階に入り200メートル程進んだ時、斥候班の1人ライラが異常を感知したようだ。方向や距離は分かっていないようだ。ライラ以外が異常を感知したメンバーがいないため、円陣を組んで外側へ向き移動を開始する。
円陣を組んですぐに状況が変化した。何かが吹雪を切り裂いて飛んできているような音が聞こえた。
ただ方向が分からないため、ピーチがいち早く対応した。
「物理結界を張りました。攻撃は魔法で! 後、魔物からの魔法に注意してください」
強度を高めるために、内側からの物理攻撃も防ぐタイプにしたようだ。俺は弓と杖を交換して、何の魔法を使うか思案する。火を強引に使う位なら、魔力を多少多めに消費しても攻撃力が高い魔法がいいか?
そうするとピーチの張った結界に、ゴンゴンッと何かがぶつかった音がした。ぶつかったモノはどうやら氷のようだ。となるとイエティか?
視界に頼る戦闘だけじゃないのか? 少なくとも50メートルは離れた位置から、正確に2発ここに着弾している。この吹雪の中で50メートル先なんて見えないのに、さらにその先から氷投げて命中させるとかありえんだろ!
「3時の方向、距離は分かりませんが、キリエ! シュリとアリス、シェリル、マリーを連れて迎撃に行ってきてください」
ピーチが次の指示を出して結界を解除すると、キリエを中心に迎撃部隊が出発する。
俺が気になっているのは、異変に気付いたライラがまだ険しい顔をしている事だ。物理的なモノが飛んでくるだけなら、異常を感知したとは言い難いのでは?
吹雪の中警戒をして周りを見ていると、地面となっている雪が気になった。これだけ吹雪いているのにここ雪って柔らかくなく硬いんだよな。でもダンジョンの壁や床みたいな硬度ではない。強く踏み込めば多少凹む。
雪と氷の間みたいな感じだ。滑らないように全員のブーツには滑り止めの加工がしてあるくらいには、滑るのだ。
そんな事を考えていると、雪の一部がボコッと押し上げられた、まさか!
「みんな! 足元に注意! この雪の中に魔物がいる可能性がある!」
俺はそう声をあげた。マグマの中で行動できる魔物がいるんだから、この雪の中で行動出来る魔物がいてもおかしくないはず。それに、硬い地面を普通に移動する魔物だっているのだから……
俺は雪が盛り上がった所へ、圧縮したファイアボールを放つ。寸分の狙いも違わず着弾する。イメージによって放たれる魔法は、たかだか15メートル程先の視認できる位置の目標を外すわけがなかった。
ファイアボールは、着弾と同時に爆発をして周囲をえぐるように吹き飛ばして溶かした。
1メートル位えぐれた雪の地面には、拳大の穴がいくつも空いていた。サイズ的には大きくない魔物なのか?
次に動いたのはライムだった。何やら集中している様子だったが、一気に魔力を練り上げ両手を雪の地面にたたきつける。そうすると、雪の中からグッと何かを圧縮したような音が聞こえた。
次の瞬間、雪の中から小さなウサギが飛び出てきた……何でここでウサギ?
「シュウ君! 気を付けて! そのウサギは魔物よ! 名前は雪ウサギって言って、名前の通り雪の中を移動する厄介な魔物だよ。特に前歯による噛みつきは危険です!」
何処が名前の通りだよ! 俺の知ってる雪ウサギって、冬の間は雪のように白くて綺麗なウサギの事なんですけど!
それにしても、雪の中を移動できるウサギか。雪は雪でも氷みたいに硬い場所でも問題なく移動できるって事か。足元からの不意打ちは危険だ。特にあの前歯ヤバくね? あのサイズでLvが150超えてる魔物って事は、よほどステータスが高いか特殊能力があるか。
そんな事を考えている間にもウサギの数が増えている。ぱっと見20匹くらいはいるだろうか? その中の1匹に矢が放たれる。
あたると思っていた矢がウサギの横に逸れた……違うな、あのウサギがかわしやがったのだ。思ったより機動力が高いな、ならっ!
【クァグマイア】
ウサギたちの足元を泥沼化した。雪と泥が混じったシャーベットみたいな泥が出来上がり、ウサギたちの足がとられる。そこに矢と魔法が突き刺さり、瞬く間に半数のウサギがドロップ化した。あ、肉が泥沼に……あれは食べれないかな?
戦闘と関係ない思考をしていたら、お尻を蹴られた。どうやら、俺の思考がピーチにはバレていたようで活を入れられてしまったようだ。まぁ、ボケっとドロップしたアイテムを見てたら、何となく考えている事なんてわかるか。
程なくしてウサギは全滅したけど、泥沼化した地面がカチンコチンになっていた。泥が混ざっているおかげで、氷みたいにツルツルしていないが、せっかくの白い大地に汚い泥。まぁ、しょうがないよな。まぁダンジョンだからその内綺麗になるだろう。
あたりを警戒しながら迎撃組の帰りを待っていると、不意に大きな音がして木が倒れる。木の間から迎撃に向かった5人が飛び出してきた。
「ご主人様! イエティですが、思っていた以上に数が多かったので、こっちに連れてきました。手伝ってください!」
5人で処理しきるのが大変だったのだろう、ここまでイエティを連れてきたようだ。
そして5人を追ってくるようにイエティが姿をあら……わした?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます