第961話 チビ神の反撃

 出発してから約1時間。


 魔導具を使っているので寒さに凍える事はないのだが、視覚情報として入ってくる雪と風、それに凍った木々、等々が精神にありもしない寒さを感じさせている。


 そうなると、昨日の夕食を思い出してしまう。


 夕食は手の込んだ物を食べれると言っていたので、魔導具の調整が終わってからかなり楽しみにしていた。気になったのは、魔導具が完成してからすぐにみんなが外に行ってしまったのだ。俺も付いていこうとしたら「ご主人様は来たら、めっ! なの」とシェリルに言われたので、渋々コンテナに居残りしていた。


 シルキーやダマの魔導具の調整も終わったので、する事が無くなってしまった。まぁ、愛用のソファーに座って、ブッ君を取り出して読みかけの小説を起動する。


 のんびり本を読みながらくつろいでいると、急遽設置した暖炉の温かさが心地よくて寝てしまったようで、肩を叩かれる感触で目が覚めた。


「ご主人様、夕食の準備ができましたので、一緒に来てください」


 眠気眼をこすりながら、起こしに来てくれたソフィーにお礼を言って、後ろについていく。えっ!? なんで食事なのに外に出る必要があるの? 俺が驚いているのもお構いなしに進んでいくソフィー、慌てて魔導具を起動して防寒対策をとる。


 少し進むと、大きな雪山か? 到着した時には無かった、雪山がドドンとそこに存在していたのだ。だけどよく見ると、雪山には穴が開いておりそこから光が漏れている。大きなかまくらってとこか?


 ソフィーに案内されて、そのままかまくらの中へ入っていく。


 中に入ると、すでに食事は準備されており、かまくらの中は魔導具を切っても温かく感じる程だった。


「お~趣向を凝らすって言ってたけど、そういう事か!」


 机の上に並べられた鍋をみて納得した。1つの机に4種類の鍋が置かれている。それが10、40種類の鍋が準備されたことになる。とはいえ、全く違う鍋を40種類も準備するのは、シルキーにも至難の業であったらしい。


 味を変えて同じ素材だったり、味を変えずに素材を変えたりと、飽きないような工夫はされている。特に、海の幸、山の幸、お肉と同じ味でも中身が違うとここまで味が違うのか! と驚くほどだった。


 そもそも、系統の違う鍋を2種類も食べる事なんて普通ないからな。大家族で、鍋を2~3つ用意しなきゃいけない家ならともかく、俺の家族なら1つの鍋で事が足りてしまうから、比べた事もなくここまで味に違いが出るとは知らなかった。


 っと回想が長くなったが、昨日の夕食は身も心も温まるような最高の一品だったのだ。こんな寒々しい景色をずっと見ていたら、思い出してもしょうがないと思うんだ。


 というか、この階層はまだいい方だろう。次の42階に行けば、魔物まで出現して面倒な状況になるっぽいからな。


 今までのダンジョンの状況を考えれば、次の階に出現する魔物はLv150を超えているはずだ。昨日食事の時にミリーが寒い地域にいる魔物の特徴として、防御力というか、かなりタフなようで、同じLv帯の魔物に比べて倒すのに時間がかかるらしい。


 後、普通なら火属性の攻撃に弱いのだが、この環境で有効打を与えようとすれば、魔力を余計に消耗するだろうとの事。上の階に比べると、倍以上の魔力を込めないと同じ効果が出なかったことを確認している。


 そうなると一番有効なのは、アリスの得意技である魔法剣で炎を纏わせるのが一番なのではないだろうか? 魔法の実験の時にアリスの魔法剣も試したが、魔力消費量は変わっていなかったらしい。一応全員が魔法剣を習得しているが、普段使っていないので実戦となると難しいかもしれない。


 そう言っているうちに42階への階段へ到着する。ちなみに、この階から下の地図は無い。俺の召喚したウィスプがこの階では全く役に立たないから、探索していない場所はマップ先生も表示できないのだ。


 もともと、40階もあまり探索できてなかったからな。グレンがいなかったら進むのがもっと遅くなっていた。


「みなさん、一旦休憩をしながら聞いて。グレンの情報によると、この下の階から魔物が出現します。空を飛んで移動するグレンなので、地上の敵はあまり覚えていないようですが、雪男……おそらくイエティの事だと思いますが、それが氷の塊を投げて来ていたとの事です。


 後、空にはアイスバードがいて、氷魔法やブレスを使ってきたそうです。地上にはイエティ以外の魔物もいると思いますので注意してください。みんなで声掛けをしていきましょう」


 ピーチの簡単な説明で、みんなが状況を再確認する。地上の魔物には弓が有効打にならない可能性が高いが、空にいるアイスバードには有効打を与えられるだろう。どうせ前に出る事はあまりないのだから、俺は弓を、シューティングスターを取り出しておく。


 年少組の4人が不穏な動きというか、準備をしているのがとても気になる。


 4人とは、シェリル・ネル・サーシャ・メルフィだ。この4人、シェリルとネルは両手に金属などで補強されたグローブを、サーシャとメルフィは盾を持っていない方の手に同じく金属などで補強されたグローブを装着していたのだ。


 状況から見て、魔法剣があまり得意ではない4人は、魔法剣より圧倒的に得意である徒手格闘を選択したようだ。そしてタフな敵の相手をする時に、有効な攻撃が、スキルがある。浸透勁だ。この4人はそれを武器に戦うのだろう。4人の会話の中にもそう言う話が出ていたので間違いない。


 そして、ピーチもそれを問題無いと考え、立ち位置だけには注意するようにと指示を出している。


 俺も前に出たいな。戦闘らしい戦闘をあまりしてないから、欲求不満になるんだよな。たまには魔物をボコボコに殴ってスカッとしたいジャン! そんな事を考えていると耳元で、


「そんなに欲求不満でしたら、1日休みをとって私たちが1日中お相手しますよ?」


 いつの間にか俺の後ろに立っていたライラから不穏な発言が……いや、嫌いじゃないよ? むしろ、俺だって健全な男の子ですから、可愛い娘にせまられればね? でもね、1人で姉御組、年長組の合わせて11人を相手にするのは大変なんだよ!


 出歯亀をしていたチビ神が神託とでも言わんばかりに、妻たちに精力剤の話をしてから特に精神的に疲れるんだよ。せっかく隠していたのに、あの駄女神が!


『ちょっと、あんた! 私に当たらないでくれる? 私は、あの娘たちが満足できるように神託をしただけなんだから! ヤってる時はあんたも気持ちいいんでしょ? じゃなきゃね……ムフフ』


 ムフフじゃねえよ! そりゃみんなの事は嫌いじゃないけど、あれ飲まされてからすると本当に大変なんだよ。体の中のエネルギーを持ってかれるような感じがするんだからな!


『あ~それは気の所為よ。あの薬は、本当に元気にするだけの効果しかないから。もしそう感じているのであれば、愛が足りないのかもね!』


 ふざけんな! 俺はするたびに物理的に出すもの出してるんだから、疲弊するはボケ!


『そんな事言ってると、知り合いのそう言う事を司る女神にチクるわよ!』


 それは本当にやばい気がする。何がやばいのか分からないけど、やばい……


『ふっふっふ、初めてあんたをいい負かせた気がするわね! なんか気持ちいわ! 今日はお茶が美味しくなるわね』


 と言って走り去っていく足音が聞こえる……あの駄女神め!

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