第960話 寒冷地仕様

「うぅ~……さぶっ!」


 昨日ここまで到着して野営コンテナを建ててから、すぐさま室内に入って暖をとってそのまま寝てしまい、改めて外に出て言ってしまった一言。


 氷山フロアとでも呼べばいいのだろうか? とにかく雪と氷の世界なのだ。それにふさわしく風も強い、なのでかなり冷えるのだ。


 こんな所に長時間はいられない。すぐに野営コンテナの中に引き返す。


「ご主人様、私たちは寒冷地用の装備がありませんが、いかがいたしましょうか?」


 そうなんだよね。暑い場所用の装備はあるんだけど、寒い所用の装備は無いんだよね。


「上の階で使っていた冷やす魔導具と同じような物で、今度は温める魔導具を作ろうか。構造は似ているからすぐ作れると思う。ただ調整が必要だから、今日はこのまま野営地で待機かな」


「了解しました。先程シルキーたちがちょっと趣向を凝らせた夕食にしようと、張り切っていたのでちょうどいいかもしれませんね」


 ん? シルキーたちが食事に力を入れているのか? それは楽しみだ。


「了解。みんなはゆっくりしてて。俺は、朝食食べたら工房で魔道具作りに入るからさ。多分試作品は、1時間もしないうちに出来るだろうけどね。そしたらみんなにも意見聞きたいからよろしく」


 ピーチは「了解しました」と言って、食堂のある野営コンテナへ移動している。俺もそれを追って移動する。


 シルキーのキングダム、食堂の野営コンテナに入ると、いつもながら良いにおいを漂わせている。今日も食欲を誘う美味そうな食事が並んでいる。


 毎食サラダを食べるのは簡単に出来る事だろうけど、毎回違うサラダを3~4種類作って出してくれるのは本当にありがたい。普通に考えて、1人暮らしだったら絶対に無理な食事だな。


 さて、食事も終わったし魔導具の試作品を作るか。前に今使っている冷やす魔導具を解析して、コピーする事には成功しているのだ。


 今度は、冷やすではなく温める効果にすればいいだけなので、問題ないだろう……と思ってた時期がありました。


 簡単に言えば、冷やす効果を温める効果に書き換えて、作り直せばいいと思っていたのだが、予想以上に融通の利かない魔導具だという事に、今更ながらに気付かされたのだ。


 なので、方向性を変える事にした。ここまでたどり着ける奴は当分いないと思うので、その間に魔導具を完成させればいい。今回は、魔導具でも魔核を使った、半永久的に使える俺たち専用の防寒魔導具の作成にする事にした。


 こうなってしまえば、調整も簡単にできるようになるため、作成時間は大幅に短くなる。念のためAランクの魔石を使用して魔核を作成したが、容量がかなり余ってしまったので、防寒だけじゃなく耐熱効果と冷却機能も備えた魔導具を作った。


 問題はこれをどうやって身に着けるか。収納の腕輪をみんな持っているため、基本的に武器防具以外を装備してないのが、俺たちのパーティーの特徴なんだよな。バックパックでも背負ってれば、備え付けれるように改造するだけだったのにな。


「さて、どうしたものか?」


「ご主人様? どうなさいましたか?」


 突然、後ろから声をかけられたためビクッとして、後ろを振り返ってしまった。作成に集中していて、外敵に襲われることも無いので、油断していた所に声をかけられて……そこ、笑うな! 俺だってびっくりする事はあるんだよ!


「まぁいいや。魔導具を作ったんだけど、今まで使った奴を改造すればどうにでもなると思ってたのが、どうにもならなくてね。結局クリエイトゴーレムで作ったんだよ」


 と、簡単に今までの経緯を話して、昨日まで使っていた魔導具のように腰に着けるタイプにしようか、どうしようか悩んでいたんだよ、と説明する。


「その魔導具は、どの位の大きさですか?」


 アリスにそう質問されて、魔核にしたものを見せる。大体、拳ほどの大きさだ。


「結構大きいんですね。でもその位であれば、加工して何かに出来ないのですか?」


 ん~正直、半分も容量を使っていないので、クリエイトゴーレムで加工すれば、ちょっと大きめのブレスレット位には出来るのだが、腕には収納の腕輪を着けているし、両手に物を着けるのってどうなんだろう?


 それなら、ネックレスとかはどうなのか? と聞かれた。


 ちょっと試して見る事にした。魔核に書き込んだプログラムを壊さないように、魔核を切り分ける。サイズにすると4分の1くらいの大きさになった。


 それでもまだ大きいよな。さすがにチェーンを魔核で作るのは無理だったので、頑丈で軽いミスリル合金のチェーンを作り、トップの部分にはちょっと豪華な飾りみたいな物と魔核で作ってみる。


 みんなには好評だったが、常に身に着けるには大きすぎるため却下となった。


「となると、装備の一部に組み込む必要があるかな? バランス的に考えると重心に近い所がいいから、鎧のどこかに……あぁ! 胸のあたりにお揃いの模様か何かつけようか? 簡単に着脱できるなら、壊れても新しくすればいいだけだしな!」


 Aランクの魔石はかなり高価な物なので、本来こういった無駄使いをできる程安くない物なのだが、DPで無限に召喚できるシュウにとっては、みんなにオシャレを! みたいなノリでお揃いの飾り式魔導具を作ってしまった。


 温度の調節は魔導具に触れなくても、魔力を流す事によって調整できるようにプログラムしている。まぁ魔法はイメージって事で、どうにかなってしまったのだ。今までスイッチやらなにやらで、いじれるようにしていたのが馬鹿らしくなってしまう。


 このお揃いのアタッチメントは、特に年少組に喜ばれた。みんなとお揃いというのもあるだろうが、俺とお揃いという所に一番反応して、はしゃいで小躍りをするくらい喜んでもらえたので、意匠を凝った甲斐があったという物だ。


 午後は使い心地を確認するため、みんなで外に出たりして問題ないことを確認した後に防具にしっかりと装着している。


 次の日、


「さて、下の階に向かおうか。グレンの頭が本当の意味で鳥頭でなければ、49階まではこの氷山フィールドが続くという事らしい。だけど、魔物がいないエリアはこの階だけみたいだね。42階までは一気に進もうか」


 そう言ってコンテナ野営地を片付けてから出発する。

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