第936話 深部到着?

 闇魔法の効果に少しビビりながら、隠れていた魔物たちを処理し終える。


「これって俺たちに、本当に悪影響が無いの?」


「ツィード君とシルクちゃんが言うには、仲間には問題ないそうです。正確には、ターゲットを指定できるのが強みだと聞いています。使う機会が無くてさっきまで忘れていました。ツィード君だけの言葉だったら疑いましたが、シルクちゃんも太鼓判を押してくれたので問題ないかと」


 確かに、ツィード君だけだと信頼性が皆無に近くなるからな。前に闇魔法を教えてもらった時にえらい目にあったからな。それでも懲りずに悪戯するんだから、本当に困る。でも、能力は高いから無下にもできない、本当に困る存在だ。


 というか、闇魔法ってそんなに万能だったっけ? 結構厄介な縛りや条件があった気がするのだが、そこら辺を聞いてみると、


「魔力で威力が上げられないみたいです。魔力によって変化があるのは、効果範囲ですね。それに発動中はキャンセルするまで、通常の魔法より多くの魔力を消費しますね。後、一定以上の強さを持つものや、精神耐性の強いものには効果が薄いそうです」


 うん、一応縛りはあるみたいだけど、おもったより緩いな。使う気はないけど、敵国の街中で使ったら大半の住人が狂乱状態になるんだろうな。しかも遮蔽物はお構いなしって事は、地下からの発動でも効果があるって事だよね。とにかくヤバいな。


「効果が薄いって事は、多少なりともダメージが入るって事か?」


「えっと、確かシルクちゃんの話では、どんなに強くても多少のダメージは入るそうです。肌に砂粒が軽く当たったようなもの、みたいなこと言ってましたね。だから隠れている魔物にはちょうどいいかなって思ったんです」


 なるほど、使い方によっては確かに便利ではあるな。市街地戦で隠れている敵をあぶりだすには持って来いか。って、市街地戦なんて俺たちはする機会ないか。


 さっきの魔法は、短時間の発動ならそこまで魔力を使わない感じか尋ねてみると、答えはイエスだった。となると定期的に発動しながら進めば、鬱陶しい不意打ちが減るって事か。俺も使えるように教えてもらうか。


 っとその前に昼食なので休憩エリアの作成に入らねば! 3回目の作成となれば、手慣れたものだ。25分程で作成が終わり昼食となる。


 休憩エリア作成中にバッハに中心までの距離を見てもらうと、頑張れば午後にはたどり着ける距離ではないかという事だ。


 この島の大きさが、多少歪ではあるが楕円形の形をしていて、最短距離到着できるように対岸まで一番距離が短い所を選んで一応上陸している。


 その距離約100キロメートル。


 という事は、その半分で50キロメートル、昨日約22キロメートル。今日の午前中で約8キロメートル。残り約20キロメートルか? あの闇魔法があれば、進む速度が上がるけど、20キロメートルはいけるのか? だから頑張ればってことか。


 昼食後の休憩でどうするか話し合った所、少し無理しても一気に移動する方針で決まった。ライムの負担を減らすために魔法組と俺は、休憩時間中に【クライ・オブ・ザ・バンシー】を覚える事に成功した。


 魔法の構造的には簡単だったのだ。一種の精霊魔法だったようで、イリアが話を聞いてひらめいたのだ。下級の闇精霊に魔力を渡して、発動してもらうという至ってシンプルな構造だった。


 翻訳で精霊の嘆きって言ってるくらいだから、少し考えれば分かる事だったな。それより、ツィード君とシルクちゃんに教わったのに、精霊魔法と理解しないで使っていたライムにびっくりだよ! 魔法陣を通して行われる魔法だから、スキルがあれば使えてしまうみたいなんだよね。


 まぁそんなこと、今はどうでもいい! さっさと先へ進もう。


 順番で【クライ・オブ・ザ・バンシー】を使いながら進んでいく。隠れていない魔物たちはダマが指揮する従魔部隊に任せて、警戒は斥候班とタンク、それ以外は近くの隠れていた魔物を倒して進んでいく。


 ここまで進んでくると、魔物が変わってきた。というか、新種追加された感じかな? 魔物のLvもあがってきているが、それでも樹海には届かない程度であった。


 新しく追加になった魔物は、今まで出ていたヘビやクモ等の上位種と、ゼリー状の厄介な魔物……スライムだった。


 基本的に雑魚しかいないはずのスライムが、Lv60台。そして、こいつらは単細胞のせいか精神という物が無いようで、【クライ・オブ・ザ・バンシー】にも反応せずに擬態を続けていて、不意打ちをくらって初めて存在に気付けたのだ。


 臭いでも分からず苦労したが、弱い火魔法を放つ事であぶりだす事が出来た。


 島の中央までもう少し、という所で異変を感じた。


「ご主人様、1回止まりましょう。先ほどから隠れている魔物を見当たらなくなりました。これは明らかにおかしいです」


 うん、俺もそう思う。だって、島の中心まではまだ4キロメートル位残っているのに、ちょっと前までいた魔物が全く見当たらなくなったんだからな。そして、ジャングル風の森から、神聖な森をイメージするような静謐な森に変わっていたのだ。


 木々の間隔は一番近い所で10メートル、遠い所で20メートル位だろうか? さっきまでのジャングル風の森は、この半分以下の距離しかなかった。


 こっちの森であれば、四足歩行の獣型の魔物であれば、5メートル程の体長であれば動けるだろうか? ちょっと窮屈でも、魔物の身体能力をもってすれば問題ない気もする。それに、倒したっていいわけだし。


 しばらく様子を見ても状況に変化は無かった。だけどこの気持ち悪さを放置して休む事もできないと判断し、全員で進む事を決めた。


 島の中心まで後2キロメートルを切った所で、不穏な気配が森の中駆け巡る。


 左右から何かが迫ってくる気配がする。かなり離れていると思われるのに、感じ取れる。気配を隠す技術が拙いのか、それ以上に強敵なのか……


 30秒後に俺たちの前にそいつらは姿を現した。

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