第935話 魔法組の頑張り

「さて、今日も張り切って島の中心に向かおうか!」


 素っ気無い拠点、いや、これは休憩エリアというべきか? 本当に休むだけの場所だからな。


 そんな休憩エリアで夜を過ごして、そこから外へ出る準備をしている。


「一応、この周りには魔物の反応はありません。昨日のクモみたいな魔物がいるかもしれませんので注意しながら進みましょう」


 年少組の斥候ソフィーが、壁沿いに歩き索敵で魔物の有無を調べて報告してきた。


「ソフィー、クモだけではないわよ。昨日の最後の方で、ヘビやトカゲも私たちの索敵にかかりにくかったのを忘れたの? 他にも昆虫系には、擬態して私たちが気付けない魔物はいるのよ」


 ソフィーは、年長組の斥候マリーに注意されて、ハッとなり自分が失念していた事に気付いた。


「マリーのいう事はもっともだけど、気付けない魔物はみんなで対処するしかないから、そこまで気にする事じゃないさ。そんな魔物でもあぶりだせる方法があれば一番いいんだけどね」


 そんな事を言ったもんだから、魔法組が歩きながら警戒もそこそこに考え始めてしまったのだ。いうタイミング失敗した。


 魔法組は考えに没頭しているので、俺は昨日より更に警戒レベルをあげて進んでいる。俺も人のこと言えないけどな。俺の影響を受けてこうなってしまったのだろうか?


 ハッ! いかんいかん、俺がしっかり警戒せねば!


 いつも以上に神経を張り詰めているせいか、俺の消耗が激しい、それでも妻たちを守るために!


 っ!!


 何か前方の地面に感じたので短槍を突き刺す。昨日の反省点を踏まえて、三つ叉にしてる。1本で左右にズレる事があったので昨日改造したのだ。本当は、左右だけでなく上下にもつけたかったのだが、そうすると刺さりが甘くなったり操りにくくなったので、三つ叉にしている。


 俺の短槍の先には昨日と同じようにクモが刺さっており、しばらくするとドロップ品に変わった。


 そういば、切ったり突き刺したりしてすぐに魔物がドロップ品になる事って無いよな。まぁ即死って言っても本当にすぐに死ぬわけじゃないし、生き延びれないとはいえ、多少のラグはあるんだっけ? 魚なんて活け造りにされても骨の状態で、ピクピクするっていうしな。


 昨日より神経を研ぎ澄ましているせいか、面白いように地面の下にいる隠れた魔物を排除できている。でも、地面に集中しすぎて、木の上から襲ってくるヘビを見落としてしまっていた。ピーチ、ナイスだ!


 1時間程進むと、イリアが何か思いついたのか、試したい事があると言ってピーチにお願いしていた。


「みんな見ててね! イリアが隠れている魔物をあぶりだしてあげるんだからね!」


 どうやら精霊魔法、しかも樹魔法を使うようだ。でも、樹魔法でどうやるつもりなんだろうな? 結構な魔力を込めている気がするけど、大参事になったりしないか?


【ローズガーデン】


 イリアの魔法が発動する。ローズガーデン、直訳すると薔薇の庭って事だろう。確かに薔薇の庭みたいになっている。それに薔薇の棘を使って、隠れている魔物にダメージを与えてあぶりだしてるんだけど……


「やり過ぎじゃない?」


 この一言に集約される惨事が起きている。想像できる薔薇の庭とはかけ離れているのだ。だってさ、薔薇の茎が直径10センチメートルを優に超えてるんだぜ? 咲いている薔薇の花も1メートル近い物がゴロゴロしているのだ。


 進むためにはこれを処理しないといけないのだが、その苦労を考えると警戒しながら進んだ方が楽と言えるだろう。


「む~いい案だと思ったのにな~」


 イリアは口を尖らせて拗ねたように言っている。規模を小さくすると、魔物にダメージを与えられないからあの位がラインになってくると、精霊たちが話しているらしい。


 さすがにこの状態で放っておくことはできないので、今回は切り刻んで焼き尽くす事にした。


 薔薇が生えた一帯に風魔法の【カッタートルネード】を使い薔薇共々切り刻んでから、【ファイアーストーム】で焼き払った。


「うへぇ、せっかく結界で囲んでからやったのに、蒸し暑くなった。水魔法で冷やしてもいるのにな、って水魔法のせいか?」


 まわりがジャングルみたいな木になってから、気候が変わったかのように俺がイメージしているジャングルみたいな、ジメッと蒸し暑い環境になっていたのだ。それがさらにきつくなってしまった。


「さっきのは、薔薇で植物だったから処理に時間がかかったって事は! ピーチお姉ちゃん! 私も試したい事が出来たからお願い!」


 今度は年少組魔法アタッカーのレミーが、何かを思いついたようでピーチの許可をもらっていた。


【アイスガーデン】


 今度は、あたり一面氷の世界になった。


 氷の世界が一瞬みえた後は、一面が霧に覆われた。なんだこれ? ただ一気に冷えただけじゃ、霧って発生しなかったよな? どういう原理か分からないが、ファンタジーの世界でダンジョンの中で起きる意味不明な現象として、処理するしかない事案だった。


「意味が分からないけど、霧が消えないからこの方法もあまりよくないかな?」


 俺が思った事を口にすると、


「そんな~」


 と言って、レミーがふにゃふにゃその場に座ってしまった。座ったら装備品が汚れると怒られて慌てて立っていた。


「みんな、気を張って進めばいいだけだから、あぶりだす方法なんて考えなくてもいいよ」


 と言っても、考える事を止めなかった。とりあえず、霧が鬱陶しいので氷の世界だった場所に、ファイアーボールをいくつも打ち込んで溶かしていく。ローズガーデンよりは後始末が楽だが、それなりに手間がかかった。


 出発して2時間半が経過した頃に、今度は年中組魔法アタッカーのジュリエットが何かを思いついたようでピーチに許可をとっていた。またか、大丈夫だろうか?


【アースクエイク】


 地面を揺らしたり、隆起させたりする魔法を使ったのだった。


 でも結果は……


「ジュリエット、ここがフィールドダンジョンじゃなくて、普通の密林だったらもっと効果があったと思うよ」


 そう、ダンジョンだったので、魔法による干渉がかなり抑えられてしまい、期待する効果が得られなかったのだ。ちょっとフォローしたけど、結構へこんでしまっている。大丈夫かな?


 そんな事を考えていると、私の出番ね! と言わんばかりにライムが、思いついた魔法を使う許可をとっていた。


「要は、少しでもダメージを与えられれば、擬態や隠れるスキルが解除されるわけだから、それに索敵範囲の外をあぶりだしても、また隠れられてしまう可能性がある。だったら規模を抑えて魔力消費も抑えて」


クライ・オブ・ザ・バンシー


 ん? 何か訳が違う気がするが、俺の知らない魔法をライムが使った。そうすると、隠れていた魔物たちが索敵にひっかかるようになった。俺は慌てて近くにある気配に攻撃を仕掛けていく。


 始めの2人は、魔法を発動すると同時に殺してしまっていて索敵の意味がなかったが、今回のライムの魔法は本当に敵をあぶりだしたため、急に索敵にひっかかり数が多くて慌ててしまった。俺たちが通り過ぎた所にもまだ隠れていたのだ。


 倒せないと分かっていて、攻撃をしてこなかったのだろうか?


 ライムの魔法は、どうやら闇魔法の1種でツィード君に教えてもらったそうだ。


 効果は、範囲内にいる敵の精神にダメージを与える物らしい。障害物も関係なく、環境破壊も無いクリーンな魔法と言っていたが、耐えられないと発狂するらしい。下手をすると狂死するとか、どこがクリーンだよ! あぶねえな闇魔法!

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