第889話 ドワーフの脅威!

 船を造り始める前に船のサイズを決める事になった。


「ねぇシュウ、本当に100人以上乗る船を造るつもり? いきなりそのサイズは難しいと思うんだけど……」


 カエデに言われて、いきなり100人サイズの船を造るのは無謀なのかと思い、どうするか考える。


「でもさ、さすがに俺たちの船と同じものを造るのは、あり得ないからな。どうするのがいいかな?」


「そうね、距離的に考えて、動力は魔導具にする予定なら、30人位のれる船を造ったらどうかしら? そのサイズの船なら、改造すれば漁船としても、使いやすいサイズになると思うんだけど」


「30人乗り? それでも結構大きくないか? 漁船ってそんなに大きかったっけ?」


「30人乗りでも、そこまで大きくする必要はないと思うよ。船の上で何日も過ごすわけじゃないから、多少窮屈でも十分でしょ。それに漁船にする場合は、船の周りを金属で補強すればおそらく問題ないし、船員が休めるスペースを少し広めにして、魚を乗せる場所を準備すれば十分でしょ。


 他にもそのスペースに荷物を積める船にしておけば、食料を運ぶ船にもなるでしょ? 収納の箱を使ってもいいだろうしね」


「なるほど、移動だけに限定するなら、30人が休めるスペースは必要ないから、多少窮屈に感じても我慢してもらえばいいのか。俺たちの船みたいなのは、よくよく考えれば普通じゃないもんな。ベットまで準備されてるんだから、小さな豪華客船みたいなもんだもんな。よし! 30人が乗れるくらいの船を造ろう」


 造る大きさも決まったので、作業を開始しようとしたが、


「シュウ、ちょっと待って!」


 リンドからストップがかかった。


「造るサイズが決まったからって、図面も無しに造るのかい?」


 リンドにそう言われて、参考にするものも図面も無しに造り始めようとしていた事に気付いた。


「前にあの船を召喚して改造した時に、設計図も出してくれたじゃない? あれを見る限り、シュウの世界の機械式だとかなり複雑になるけど、魔導式であれば船の装備はかなり簡略化できるでしょ?


 極端な話、船体を強化して浮力とバランスさえ問題なければ、家をそのまま載せるのも問題ないからね。だから、図面と言ってもそんなに難しい物は必要ないよ」


 なるほど、船って思っている以上に複雑なんだな。あの船を改造する時に、何でああいう機械が設置されているか分からない物が多かったからなあ。なんとなく言わんとしていることが分かった。要は、魔導具は機械よりコンパクトにできるし、俺が初めに思っていたサイズより小さくてもいいって事か。


 それを元に話し合いが進む。


 サイズが決まった。大きさ的には、地球の金持ちが個人で持つようなクルーザーサイズの船位なきがする。使用用途が決まっているから出来るサイズかな? で、参考用に1台そのサイズに近い船を召喚している。


「この船には30人は厳しいけど、邪魔な物を魔導具に入れ替えれば問題なさそうね」


「漁船だっけこれ? 重心が問題なければ多少高くしても問題なさそうだから、30人以上乗れるかもね」


 カエデとリンドの評価はそんな感じだった。さすがに移動だけで4~5時間かかるのに、すし詰め状態はどうなんだろうか? そこら辺を聞いてみると、


「馬車はもっと狭いわよ?」


 真顔でそう答えられた。そういえば、俺たちの馬車はそうでもないけど、普通に使われている馬車はもっと狭い気がするな。


 そんな事を考えていたら、ドワーフたちが集まってきた。20人程……


「お前ら臭い!」


 集まったドワーフたちは、とにかく臭かった。風呂に入っていない臭いもそうなのだが、浴びる程飲む酒の臭いも酷かったのだ。


「ダマ! シエルと一緒に、こいつらを風呂に突っ込んできてくれ」


『いたのに気付かれてたにゃ!』


「マップ先生があるから分かるに決まってるだろ。それに、態度で怒られていたのなら監視がいてもおかしくない。そして、クロたちは恐らく自分で監視をしないのであればダマに押し付ける、当然の流れだな。それにクロたちが監視するのなら、俺の近くにいるだろうしな」


 俺の指摘に、確かに! といった表情をする。器用に表情を作るな。


 俺の指示に従って、ダマとシエルがドワーフたちを風呂に運んでいく。服を脱がすなんて面倒くさいことはせずに、風呂にそのまま叩き込んでいる。


 何をするんじゃ! とかドワーフたちが騒いでいるが、きちんと警告しておいたので手加減はなしだ。突っ込んだ湯船がすでに汚くなっていた。どんだけため込んでたんだ!


「よし! 手加減は無しだ! シエル、ドワーフたちの体の汚れを吹き飛ばす事はできるか?」


『む~壁や床に縫い付けてもいいのでしたら、霧を高速で叩きつければ汚れは落とせると思うのじゃ』


「よし! じゃぁそれを試してみてくれ」


 俺の指示に従ってシエルが湯船のお湯を使って、ドワーフたちを霧のシャワーで洗浄し始めた。高圧洗浄と同じ原理だな。


「お~すごいなこれ! シエル、これからドワーフたちの洗浄係をまかせる! こいつら風呂に入れって言っても、なかなか入らないから困ってたんだよ。簡単に綺麗にする方法も思いつかなかったし、シエル! いい仕事してるぞ!」


 俺に褒められたシエルは、蛇の顔なのにドヤ顔をしているのが分かる表情をしていた。この世界の動物? 蛇は爬虫類だったか? 人間じゃないのにここまで表情が分かるものなのかな? 犬は比較的表情が分かりやすいって聞いた気がするけど……まぁいいか。


 ドワーフたちがギャーギャー騒いでいたが完全に無視して、10分程シエルに洗ってもらってからドワーフたちを霧のシャワーから解放する。


「え! お前たちの服ってそんな色だったのか!?」


 少し茶色みがかった色をしていた服が、シエルの霧のシャワーを浴びた後には、白くなっていたのだ。


「お前ら! 臭いのは体だけじゃなくて服もだったのか! これはちょっと……シルキーたちに協力を仰いで強制しないといけないな。飯と酒を制限させれば、風呂と服くらいは着替えてくれるか?」


 そんな事を言うと、ドワーフたちの顔色が変わっていく。肌が黒く……なかった。あれは全部汚れだったのか。少し褐色だった顔色が、分かるくらいに真っ青になっていた。色黒の人間が青い顔になるとこんな感じなのか?


 どうでもいい事を考えていると、今度から気を付けるからそれだけはやめてくれ! と、全員が訴えてきた。シルキーたちのテコ入れがそんなに嫌か? 確かにシルキーたちの指導は、厳しいもんな。しかも食事と酒を人質にとられたドワーフに、抵抗する術はないか……


「爺共! 毎日風呂入って着替えろよ? そうしないと、スカーレットを派遣して生活全般を見直してもらう事になるからな!」


 ドワーフたちの対応はこれで十分だろう。船造りについて打ち合わせを始める。

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