第890話 爺共の問題点

 きれいになったドワーフっていうと、なんか言葉が悪いか? まぁ気にしてもしょうがない所か。


 身綺麗になったドワーフ達を交えて、船についてリンドが説明してくれている。仕様を伝え必要な魔導具を説明している。


 船なんて作った事ないと思っていたドワーフたちだったが、1000年も生きていればいろんな所を放浪していて、船の造形にも詳しかった。さすが長寿種だな。


 そんなドワーフたちから、船の中に入ってきた水の対処をできる魔導具があったほうがいいと言われて、俺はハッとなった。


 そういえば、小型船は波なんかで船内に水が入ってきやすいから、排水機能があったりする、みたいな事を聞いた事あるけど、あれって本当の事だったのか? 気になったのでドワーフたちにその辺を聞いてみると、予想の斜め上の答えが返ってきた。


 水の中の魔物は、水魔法で船を沈めて襲う奴がいるそうだ。体の周りに水があるから、水魔法を使うのに負担が少なく、大量に水を操作するだけでいいから魔力消費も少ないんだとか。魔物は生存競争の中で、思いがけない頭の良さを発揮する事がたまにあるからビビるわ。


 おそらく、ここの湖にそういう魔物はいないが、どういう進化をするか分からないので、備えておくべきだという話になった。


 特に気を付けて造る部分は、甲板と船内への入口とその階段との事だ。


 甲板は、水をかぶってもある程度まで排水できるように、外側に向かってゆるい傾斜をつけ水が抜ける道へ誘導する方法をとる事になった。


 船内への入口と階段は、ほぼ一緒と考えてもいい。船内への入口は甲板より高めに作り、更に水が入りにくいようにしっかりとドアを着ける。ここら辺は漁船の構造に近いのかな? テレビとかで見た事ある漁船って、そんな感じじゃなかったっけな?


 階段の方はというと、通路に入るための入口を一番下にするのではなく、その下に水が流れていけるようなスペースを作り、そこから何かしらの方法で外に排水できるシステムを作るのがいいとの事だ。


 甲板や入口の位置に関しては納得できるものがあったが、階段の下に水のたまるスペースを作るというのはよくわからなかった。でも、あのドワーフ達が熱弁するのだからそういう物だと思っておこう。


 図面を簡単にひいていたリンドが図面を元に説明し始めたら……ドワーフたちが黙り込んでしまった。先ほどまでの勢いはどこいった!?


 黙った理由は簡単……図面がチンプンカンプンで分からなかったらしい。大丈夫かこいつら?


 爺ドワーフに言わせると、物作りに図面なんて必要ねえんだよ! フィーリングで作るんだ! と……そういうとリンドに頭をどつかれ全員がうなっていた。


 百歩譲って家の方は、ズレがあっても解決するだけの技術があるため問題ないけど、船はそれだと強度が足りなくなる可能性があるから、絶対にフィーリングだけに頼るのは許さん! とはリンドの言だ。


 そもそも、家でもズレがあったら致命的なミスじゃないのか? それで大丈夫なのか? 武器なんかがフィーリングなのはわかる気がするけど、建築物はそれだとアウトじゃないのか?


 内心ひやひやする事が増えてしまった。


 ただ、老ドワーフたちが図面を読めないので話が進まなくなり、リンドが追い出すか? 等と言い始めたので、助け船を出す事にした。


「リンド、材料の長さに関してはこの耄碌ドワーフたちを使わなければ問題ないか?」


「「「「「耄碌などしとらんわ!」」」」」


 俺のセリフに半分の老ドワーフが反論してきた。もう半分は、耄碌してると認めたのか? っと、それだと話が進まないな。


「爺共は少し黙っとけ! シュウ、おそらくそれだけじゃ駄目だな。材料の長さだけじゃなく、その材料を何処に使うかまで指定しないと、こいつらはフィーリングだ! とか言って自分勝手に始めるだろうな」


 え~そんな奴らを手伝いとして使おうとしてたのか? 昨日の俺に説教したい気分だ。


「じゃぁ、加工まで終わらせて設置する場所が分かれば問題ないって事で、オーケー?」


「そこまですれば、おそらく問題ないと思う」


「じゃあ材料に関しては解決策があるから、図面が無くてもこの爺ちゃん方に分かるようにしてやる」


 そう言って俺は、近くにあった木材をクリエイトゴーレムを使って加工する。


 リンドの見せてくれた図面を元に、木材をクリエイトゴーレムで加工し、模型の船を2つ作った。一応縮尺に合わせて壁の厚さなども作っている。


 1隻目は船首から船尾に向かって4つに切り、2隻目は1隻目の切り口と垂直になるように船体を輪切りにする。そうすることで、図面が分からなくても形で理解できる模型を用意してみたのだ。


 効果は劇的で、老ドワーフたちはものすごい食いつきを見せた。これによってリンドの説明はサクサクと終わったのだ。


 説明が終わると、休憩の時間になった。今日は俺がここにいるので、シルキーたちはここにキッチン馬車を持ってきて調理してくれている。家の方はブラウニーたちにまかせているようだ。


 その昼食時に、


「シュウ、材料の加工は問題ないみたいな事言ってたけど、本当に大丈夫なの?」


「本当に大丈夫だぞ。もう連絡も取ってあるし、そろそろ来るはずだ」


「そういえばこの人数に対して、食事の量が異様に多いのは、その人たちがくるから?」


 俺が答える前に俺が呼んだ助っ人が参上した。自分たちの従魔に乗って移動してきたのだ。


「答えは、この子たちだな。加工についてはクリエイトゴーレムが使えるから問題ない。それに多少ズレていた場合でも、クリエイトゴーレムで修正するから強度の問題も完璧だろ?」


「確かにこの子たちなら何の問題もないわね。ドワーフ1人に対して2人つけるって事?」


「まぁそうだな。2対1になれば、さすがの爺ドワーフも子どもたちを2人相手にして、強引な事もしないだろ? それに、土木組のメンバーに臭いって言われたら、強制的に風呂に入れるとか暴走も抑えれると思ってな」


「ある意味最強の監視役ね。あの子たちの従魔なら、問題なく風呂場に連行してくれるわね。首輪についてるあれ、リードじゃなくて連れてくための縄みたいなものでしょ? よくあんなのあったわね」


「あれな。前に噛みつきたくないタイプの野盗を捕まえた時に、連れていくのに苦労したからって聞いて作ってやったんだよ」


 なるほど……とリンドが納得してくれた。

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