第844話 状況終了

「さて、ドッペルでも本体でも食事を食べたし、そろそろ行きますかね」


 俺と年長組の合わせて9人とニコで襲撃をする予定だ。はたしてこれを襲撃と呼んでいいかは謎だが、確実な方法で捕縛する。


「ご主人様、ツィード君が作った薬を使うといいましたが、具体的な方法を聞いてませんがどうなさるのですか?」


「あいつらが1つの部屋で乱痴気騒ぎをしている所に、薬を打ち込んで薬が消える30分後に突入して捕まえるだけだから、どんなに相手が頑張っても戦闘すら起こらないさ。


 あいつらのいる場所は分かってて、部屋に窓があるのも確認している。庭に入口を作って窓はニコにあけてもらって、拘束具を着けたら回収して終了って寸法さ。そしてそのまま、カレリアの冒険者ギルドに渡して終わりだね」


「最初の薬を打ち込むのは、どう行うのですか?」


「それは、アンプルが通る穴をダンマスのスキルで真下から掘って、この銃で打ち出してから天井にぶつけて割る寸法だよ」


「銃ですか……エアガン? みたいな感じですか?」


「そうだよ。さすがに火薬を使って打ち出すと、その場で割れる可能性が高いからね。ゴムとかバネの反動タイプも下手をしたら割れてしまうから、1発ずつセットして打ち出すタイプのガス銃を作ったんだよ」


「いつの間に……」


「別にこのために作ったんじゃないよ。元々ガス銃は作ってあって、その機構を流用してアンプルを打ち出せるように改造しただけだからね。クリエイトゴーレムがあればその位簡単だからな」


 年長組の妻たちの冷たい視線を受け流しながら移動を続ける。ウォーホースに馬車を引いてもらって、その中に乗っているだけだけどな!


 しばらく移動すると、広い空間に出た。


「よし、みんな着いたよ。誰かマップ先生で敵冒険者の位置を確認してくれ」


 俺は、アンプル射出用のガス銃を組み立てる。アンプルを入れるのはすべての確認が終わってからだ。


「ご主人様、5人全員揃って部屋にいますね。その5人以外にも14人の女性がいる模様です」


「ったく、本当にくずばっかだな……ダメージを負ってる事を考えると、大体見当が付いちまうのが嫌だ。特に年少組は連れて来なくてよかったわ」


「ここで行われている事を考えると、女性の私たちからすれば胸糞が悪くなりますね」


 ピーチが女性と言うが、男でもまともな人間ならこの状況で、胸糞が悪くならないやつがいるなら、神経を疑うな。


「女性じゃなくても胸糞悪いさ。こんな事を許しているここの領主も大概だけどな」


「この部屋にいる女性たちはどうなさいますか?」


「ん~ダメージを負っている女性は良いけど、ダメージを負ってないこっちの4人が気になるんだよな。昨日はいなかったはずだし、一緒にいるのにダメージがない事が、不思議でしょうがないな……」


 マップ先生で色々調べていたライムが、


「この女たちは、この5人に囲われてる4人ですかね? レベルが異様なほど高いのに、スキルがほとんどないですし。あっ、この人たち犯罪の称号持ってますね。しかも殺人です」


「って事は、やっぱりこの冒険者共の仲間って事か。街の中にいるただの殺人鬼なら放って置いたけど、同じ部屋にいるんだったら、一緒に捕まえて冒険者ギルドに連れてくか。念のため、傷を負っている10人も別に隔離して連れてこう。こういう時にツィード君がいないのが悔やまれるな」


「そのツィード君ですが、ご主人様に見つからないようにと言って隠れてついて来てましたよ。外の世界に遊びに行きたいとか言ってましたが、出発前にアクア様が怒って探していたから、おそらく悪戯をして追いかけられてたのではないですかね?」


「アリス……何で気付いてたのなら、教えてくれなかったんだ?」


「だって、ツィード君ですよ? 変な所で告げ口したら、今度は私が悪戯のターゲットになるじゃないですか! そんな面倒な事嫌ですよ!」


「確かに、それにしても、ツィード君だけマップ先生に映ったり映らなかったりするのは何でだろうな? あっ! 本当に野営地の隅にいる、隠れてんのかな? 従魔たちの近くって事は寝てる可能性も高いな。着いてきたからには、仕事をしてもらうか。まずは全員を捕縛しよう」


 そう言って部屋の中にある櫓みたいな所を登っていく。天井付近につくと、銃身がぴったりと入る穴があり、それが20メートル程上の部屋まで続いている。アンプルをセットして、撃ちだす。そうすると、数秒後に部屋の中にいた全員が睡眠状態になった。


「魔物で実験してたから知っていたけど、相変わらず凄い薬だな。30分だと誤差で俺たちも危ないかもしれないから、余裕を見て突入は45分後にしておくか」


「本当にとんでもない物を作り出しましたね。まさかスライムやアンデッド、ゴーレムまで睡眠状態にする魔法薬とか普通ありえないですよ」


 ライムが呆れたように、睡眠耐性というか、睡眠が必要ない魔物にまで効いた事に、ため息をつきながらボヤいていた。


「それに、状況が分からなくてガスマスクをつけて、侵入させたドッペルですら眠らせましたからね。魔法薬は体内に入らなくても体につけば、効果を発揮するという無茶苦茶な仕様が、あの魔法薬にも適応されてたのにびっくりです」


 ほんとそれな! 今、アリスが言ったように、魔法薬は体内に入れなくても効果を発揮する、って言うあれには手を焼かされたな。防毒衣で全身をおおっても隙間があったのか、着させたドッペルが睡眠状態になっちまったからな。


 人造ゴーレムがいなかったら、事態の収拾にもっと時間がかかっただろうな。あいつらは魔物じゃなくて、機械に近いから睡眠状態にはならなかったって感じだったしな。


 その後は、他愛のない話をしていると時間になった。


「みんな、階段を登ってあいつらを捕えに行くよ。見張りの様子は……問題なさそうだね」


 庭への階段を登っていき、まずはアメーバタイプのスライムを召喚して、中に突入させる。


「よし、眠ってないな。ニコ、中に入って窓を開けてくれ。ピーチ以外は、男共と4人の怪我をしていない女の拘束を。ピーチは怪我を負っている者たちの治療をしてくれ……よくやったニコ、みんな行くぞ!」


 一気に部屋の中に突入して、俺は一言声を出してしまった。


「くっさ!」


 こんなに広い部屋なのに、イカ臭いなのだ。まさかここまでとは考えてなかったわ! この場で蹴り殺したくなってきた! 妻たちは予想していたのか、シンクロの選手が付けているようなあれを、鼻につけていた。俺にも準備してくれよ!


 9人はサクッと拘束具+猿轡に両手両足に、アダマンタイト製の手錠を付けて地下へ運び込まれていた。全員裸だったので着せるのは楽だったかもしれないが、汚い物を見てしまった。


 他の子たちは、部位欠損は無いがかなりの怪我を負っており、ピーチと協力して直していく。ただどういう相手か判明していないので、服を着せてから手錠をつけている。


 地下に全員を運んでいると、下で待機していたライムが、男共に向かって魔法を使っていてビビったが、理由を聞いて納得。あまりにも臭かったので、高圧洗浄をしていたのだとか。ケガをしていない4人は、イカ臭くはなかったが香水の強いにおいがしていたので、まとめて高圧洗浄されていた。


「問題はこの子たちだよな。どうする?」


「ここまでして目が覚めないのですから、いったん服を脱がせて体を洗ってあげたいですね」


 同じ女として思う所があるのか、妻たちからは体を洗ってあげたいと申し出があった。それに、ピーチが早めに対処しておかないと、この子たちが苦しむ原因ができる……と言って何やら準備を始めていた。俺は関わらない方がいいと判断して、すでに馬車に乗せていた9人の監視をする事にした。


 途中で目が覚めて暴れたら面倒なので、馬車に合わせて鉄格子の牢屋を準備して、放り込んでおいた。

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