第843話 目には目を

 戦争まで1週間を切った。俺たちは戦場として指定された場所へ向かう事にした。明日には到着する予定だ。


 グリエルに何度も確認し、王国の中枢部にも戦争のルールを確認している。そこで分かったのは、血縁関係にある人間は、戦争に参加ができるというモノだった。


 俺はこれを聞いた時、一番初めにとった行動は、シングル以上の冒険者の中で、金さえ積めばそういう事をする人物、若しくはパーティーを探した。ヒットしたのは、王国に1人、聖国に2人、帝国に1パーティーだった。


 その中で、聖国の2人は金だけではなく、宗教が絡んでいると思われる。冒険者ギルドの依頼以外で受けた際の報酬として、お金以外に信者になるような形を強要していたらしい。宗教って自ら信じてとかそういう形じゃないのか? と思ったのは俺だけじゃないと思う。


 ゼクセンの領主が、そんな条件を飲むとは思えないのでこいつらに関しては、マーキングだけで済ませている。


 帝国の冒険者に関しては、トリプルの5人パーティーで金と女をあてがえば、何でもやると言った下種野郎だった。女に関しては、見た目が良ければ誰でもいい、死ぬまで犯して自分たちの欲求を満足させるけだものだ。


 おそらく、こっちの情報もある程度掴んでいるのだろう。女は、俺の妻やスカルズのメンバーの何人かを差し出して終了といった所だろう。


 ちなみに個々の強さは、リーダーの魔法使い以外はSランク下位から中位くらいの実力だが、腐ってもSランクの冒険者が弱いわけがない。


 そして、5人パーティーでずっと戦闘をしているため、連携が厄介なのだとか。こいつらに関しては確実に参戦すると思われる。どうやって連絡を取ったのか、すでにゼクセンまで来ているのだ。


 このパーティーのリーダーである魔法使いは、単独でトリプルの冒険者にも指定されている。これがどういうことかと言えば、聖国から襲ってきた、あの規格外のトリプル冒険者と同格だという事だ。まぁ、同格とはいっても、実力には越えられない壁があるけどな。


 マップ先生で調べた限り、確かにレベルは300を超えて400に近いが、同系統のライムの実力には全然及ばない程度しかない。どんなに技巧を凝らしたとしても、ステータスに倍近い開きがあれば勝ち目などほぼ無いだろう。


 こいつはシングルの実力はあるが、無法を行うことで有名なためトリプルに指定されているだけなので、聖国のトリプルだった奴と同一には語れないだろう。


 王国の冒険者に関しては、参加しない事が決定している。理由は、ゼクセンの領主が依頼をする前に、国王が依頼をして仕事をまかせているからだ。今回の戦争でゼクセン側が違反を犯した際に、止める役を与えているらしい。


 この時点で戦力はこっちの方が圧倒的に上だった。他にも近場にいたAランクの冒険者パーティーもいくつか集まっており、こいつらも戦争に参加すると思われるが、大した問題にはならないだろう。レベルやステータス、スキルを考えても、一対一であれば土木組でも余裕で倒せるほどの木端だった。


「王国から話を聞いた時には、そこまでするか? と思っていたが、このクソ領主は普通にやってきたな。ルール上反則ではないが、街同士であれば王国内から顰蹙ひんしゅくを買うが、相手が個人なら何をやっても問題ないって事か?


 まぁ、そういう手合いだと思っていたから、俺も手を抜かないけどな。黒じゃないならなんだってしてやるよ」


「ご主人様、グリエル様より連絡があり、現在ゼクセンにいる帝国のトリプルの冒険者パーティーは、王国で犯罪歴も多く捕縛対象だとの事です。小さな町を襲って略奪や強姦をしており、王国に害をなす冒険者とされているとの事」


「……冒険者ギルドは、それでも取り締まらないのか?」


 疑問に思い口に出してみると、近くから答えが返ってきた。


「シュウ君、冒険者ギルドは、公正な機関とは言えないのよ。シュウ君の時の件もそうだけど、同じ国内で起こした犯罪であれば取り締まるけど、他国で起こした犯罪までは関与しない事もあるの。


 特に、実力のあるパーティーであれば、国内で悪さをしないのであれば見て見ぬふりをするわ。自分の国に抱え込めるからね。友好的なダンジョンマスターを害さない限りは、各国の冒険者ギルドが判断しています」


 そう言ったのは、ミリーだった。確かに冒険者ギルドは公正な機関とは言い難いが、他国で犯した犯罪に目をつぶるから、この国で活動してくれって事か。特に敵対している国で起こす犯罪なら、反対に喜ぶって事か? とはいえ、今回は運が悪かったな。


「うっし、みんな聞いてくれ。俺たちは、王国の冒険者ギルドから、あの5人パーティーの捕縛の依頼を受けたので、戦争予定地についたら、班を分けて捕縛しに向かいます。そして今回は、ツィード君が悪さをして作ってしまった、超強力睡眠魔法薬を使用します」


 これは、製薬関係の工房にツィード君が悪戯をしに入った際に、置いてあった魔法薬と薬草を適当に混ぜてしまい偶然完成した、超強力睡眠魔法薬だ。


 魔法薬と言っていいのか謎だが、出来てしまったということはレシピが存在しているということだ。使い方は簡単でアンプル程のサイズで投げつけて割ると、半径10メートル以内の生物や魔物が強制的に眠りにつく極悪な薬だったのだ。


 効果を実験するために、魔物として状態異常耐性の高い……じゃないな。状態異常にかからないスライムに使ってみた所、眠ってしまったのだ。他にも睡眠が不要な、アンデッド系の魔物にも効いてしまう程の、もはや薬ではなく魔法や超能力に近いレベルでの変異を起こしていた。


 置いてあった魔法薬や薬草の配合を変えて、作成を試みてみたが成功する事はなかった。手元にあるアンプル100本、約200ミリリットル程しかこの世界に存在していない。レシピがあるはずなのに作れない、ツィード君の起こした奇跡によって作成された薬だ。


 普通はこんな偶然はあるわけないのに、その億分の一の可能性を引き当てる、ツィード君……半端ねえ!


 これを使って奴らを捕縛する予定だ。これが無ければ、リバイアサンにでも頼んで水流操作をしてもらい、ダンジョンに引き込んで捕縛でもよかったけどね。


 いい気味だ。そして条件的にはこいつも俺の奴隷になるのだが、こんな奴らは絶対にいらん! ツィード君謹製の奴隷の首輪に、俺のクリエイトゴーレムを混ぜた絶対に外せない首輪に一生つながれてろ!


 国王にでも売って、被害にあった人の補償にあてるか? それとも、磔にして被害者にナイフで刺させる? まぁそこらへんは後で決めればいいか。


 目的地に着いたので、野営の準備の班、調理班、捕縛班等に分かれて行動を開始する。

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