第842話 最強も美味い飯の前に陥落

「約束を破って、本当にすいません」


 今、俺が何をしているかと言えば、年少組と土木組を集めて、土下座をしている真っ最中である。全員が両手を腰に当てたり前で組んだりして、プンプンしている。私たちは怒っていますよ! という態度をアピールしていた。


「ご主人様! 約束は破っちゃいけないんだよ!」


「ご主人様だって良く、守れない約束はするなって言ってたのに!」


「約束するなら守れ、守れないならするなってさ!」


 代わる代わる胸に響く言葉が飛んでくる。状況的に仕方がないと言ってしまえばそれまでなのだが、約束した以上守れなかったのは事実なわけで……状況を説明して頭を下げているのだ。ピーチたちは、土下座をしていないが近くで説得を一緒にしてくれている。


「あなたたち、ご主人様も謝っているんだから、この辺で許してあげてくれないかな?」


「お姉ちゃんたちは、ちょっと静かにしていてほしいのです!」


 メルフィが前に出てきてピシャリと、ピーチの説得をはねのける。そして、かれこれ謝り始めて30分が経とうとしていた。足が痺れて感覚がなくなってきたけど……大丈夫か俺? また、前みたいにならないよな?


「本当にすまないと思ってる。事情があるとはいえ、約束を守れなかったのは俺だ……穴埋めになるとは思えないが、今回はドッペルでなら連れていくし、今度みんなのお願いも聞くから許してほしい」


「「「「「「ほんとに?」」」」」」


 あれ? 前にいる年少組や土木組だけでなく、年中組や年長組の嫁達も声をそろえていた。どういうことだ? 前にいたメルフィが、


「本当にお願いを聞いてくれる?」


「え、俺ができる範囲で無茶なお願いじゃなければ……」


「みんな聞いた? ご主人様がお願いを聞いてくれるって!」


 メルフィがそういうと、妻たちと土木組が一斉に喜びの声を上げた。なんだこの状況?


「ご主人様、理解が追いついていないようですね。簡単に説明すると、この子たちは本当に楽しみにしていたから、怒っているのは事実なんです。


 状況が分かってて理解はしていても、やっぱり納得できない部分があったので、お願いを聞いてもらえるなら許す……という事で、こういった状況になっています。そして、この子たちの計画に乗って、私たちもご主人様にお願いをしようという事で、みんなで協力していたんですよ」


 説明を聞いて、ポカーンとしてしまった。みんなからのお願いなら、よほど無茶な事じゃない限りお願い位なら聞くけど、この状況でされるお願いは、大丈夫なのだろうか? また約束破ったなんて言われたら困るな。


 状況が理解できた俺は、再度みんなに頭を下げて、可能な限りお願いを聞く事を約束した。お願いは戦争が終わってからという事になり、この場は解散となる。みんなの件が済んだとはいえ、戦争までは1ヶ月しかないのだ、する事はある。まずはバッハへの説明と協力要請だ。


 ダマを連れてバッハの所へ行こうとして、自分で走るのが面倒だったのでウォーホースを使おうとしたら、ダマが拗ねた。どうせなら自分に乗ってほしいと言われたので、大きくなってもらい背中にしがみついているような形だ。


 鞍も手綱もないからあまり安定はしていないが、ウォーホースより上下が少なく乗り心地は悪くない。騎乗用の動物じゃないのに性能がいい事。


 バッハの所にダマを連れてきたのは、通訳をしてもらうためだ。俺の従魔たちや眷属は、言っている事は理解してくれるが、ダマ以外の従魔とは会話ができないので、返事を通訳してもらっている。


「戦争があるから手伝ってほしい。作戦としては、戦争と同時に上空で待機。劣勢になったらブレスで敵軍を焼き払ってほしい。どこまで価値があるか知らないが、敵兵の中にも奴隷になるやつらはいるから、殲滅は最終手段という事だ。けん制役になってくれ」


 バッハからは了解を得られた。隣で話を聞いていたワイバーン達は、胸を張って腕?で胸を叩いていた。


 それにしてもワイバーンって不思議な体をしている。バッハみたいに翼とは別に腕があるわけでは無く、腕みたいな所に翼がついていると言えばいいのだろうか? 地上で歩く時には翼は折りたたんでおり、地面と接する位置には爪もしっかりと付いている。


 歩く姿はゴリラ? みたいな感じだろうか。で、飛ぶ時には爪のついている部分を中心にして、扇状に翼を広げて飛ぶのだ。


 なんというか……モン〇ン出てくるティガ〇ックスみたいな感じだろうか? うまい例えじゃないが、腕の部分の構造は似ている気がする。そもそも、ワイバーンは若干ずんぐりしていて、あいつとは見た目からして違うしな。体系だけで言えば……フル〇ルの方が近い気がする。


 バッハとワイバーンは参加してくれることが決まり、リバイアサンについては三幼女がすでに説得している。リバイアサンの移動は、みんなが移動する時に小さくなって移動するという事だ。バッハは前にも聞いてみたが、小さくなれないのか質問すると、やはりなれないんだとか。


 リバイアサンやダマは小さくなれるのになんでだろう? なので、三幼女を通訳にリバイアサンに聞いてみた所、三幼女の通訳は予想以上に理解ができない言葉で表現されてしまった。


 ついでにダマに聞いてみると『こうやって、ググっと自分を圧縮して、ポン! って言う感じですにゃ』と言われた。圧縮するのは何となく意味が分かるが、ポン! ってなんだよ。


 リバイアサンもダマも、スキルとして体を小さくできるわけじゃないので、バッハもそのうちできるだろう。ダマには暇な時に教えてやってくれ、とお願いしておいた。それがまさかあんな光景につながるとはな。


 グリエルやゼニスに戦争の準備をしてもらって半月が過ぎた頃、夕食を食べに食堂へ向かうと、チビフォルムのダマの横に、見た事のない中型犬位のサイズの黒い幼龍みたいなのと、その隣には、ポケ〇ンのミ〇リュウみたいな表面のつるつるした蛇? がいた。


「新しい魔獣? 誰が連れてきたんだ?」


 俺がそういうと、


『主殿! このダマ、主のお願いをしっかりと叶えたのですにゃ! ここにいる黒い幼龍はバッハですにゃ! そして隣にいるのがリバイアサンですにゃ!』


 うん、バッハが小さくなれたのは理解したが、リバイアサン……前に小さくなった時とは全くの別もんじゃねーか! 誰か分からんわ!


『まだ、念話はできませんが、体のサイズは問題なく変えられるようになりましたにゃ!』


 ダマ、胸張って説明してくれるのは良いんだが、隣の2匹……餌食うのに夢中だぞ。こいつらはどうやら、すでにシルキーによって餌付けをされてしまったらしい。


 餌が無くなって、お代わりを要求していると「ご主人様もまだ食べてないのに! ルールが守れなかったらご飯抜きですよ」と言われて、すごすごと引き下がっている。


 戦闘力だけで言えば、圧倒的に強い2匹が食事を人質にとられ大人しくしている。そして、体が小さく出来るようになって、個々では美味しい食事が食べれることが分かったためか、2匹はチビフォルムでこの家にいつくようになった。


 リバイアサンのための池と、バッハのために小山を作ってみたが、基本的に利用される事はなかった。俺の部屋の一画にどこから調達してきたのか知らないが、自分専用の毛布を折りたたんで、その上で過ごしている姿をよく見かけるようになった。

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