第841話 問題が残った

 宣戦布告に対する返事を要約すると、


【完膚なきまでに叩きのめしてやる! お前が払ったお金は私の物だ。戦争してやるんだから追加条件を出す。お前が連れてくる予定の戦力を奴隷として要求する。もし負けるのが怖かったら、罰金だけで済ませてやるぞ!】


 こんな感じだった。俺は戦争についてよくわからなかったので、グリエルに聞いてみた。


『確かに、条件付き戦争の場合は相手は条件を追加できますが、それに対して対価を提示する義務が発生しますね。今現在、シュウ様が準備できる戦力に対して、奴隷とする場合の評価額を算出しなければなりません。これには、傭兵として雇う人間まで含まれるので、この条件だと冒険者は参加しなくなります』


 なるほど、俺の集められる戦力を削る作戦か? いや待てよ。


「グリエル、参考までに聞きたいのだが、奴隷の値段ってどうやって決まるんだ?」


『それなら、ゼニスがいいと思うので代わります』


『失礼します。奴隷の評価額ベースは、容姿・年齢・種族・経歴で決まります。特に奴隷となる場合は、経歴が重要となってきます。奴隷商も売れない奴隷は商えないですからね。


 それに追加として、レベルやスキルその他の合算で決まりますが、戦争の条件付きの場合ですと、対象となった街の奴隷商が情報をもとに評価額提示して、中間が値段になります。今回の戦争に関しては、ゼクセンの街と個人であるため、ゼクセンの奴隷商が値段を決める事になりますね』


「なるほどね。奴隷商と繋がっていれば、評価額なんてあってないようなものだな。それに、俺たちのレベルを知るためにはちょうどいいって事か……グリエル、いるか?


 2つ聞きたい事がある。1つ目は、もしこの条件を飲まないで戦争を取りやめた場合に、ペナルティーはあるか? 2つ目は、相手の追加条件に対価を求めない事は可能か?」


『1つ目に関しては、今回シュウ様が宣戦布告で用意された金額の半分が、罰金として支払われることになります。2つ目は、少々お待ちください。えっと、追加条件に対価を求めない事は問題ないようです』


 別に金なんて惜しくないが、向こうに渡るのだけは面白くないよな。条件付きの戦争は、不当に見積もりを高くさせ、通常の戦争は拒否する……のか?


「ちなみに、通常の戦争の場合は、拒否できるのか? 負けた場合は?」


『拒否はできません。街同士の戦争の場合は、賠償や権利を要求するために起こされる物です。ですが、個人が介入する場合は、勝った人間が総取りとなりますね。


 フレデリクとリーファスの戦争に当てはめれば、リーファスは優秀な冒険者が減り、治安が悪化したから賠償を寄越せ。フレデリクは、面倒な事するな、冒険者が減ったのは自業自得だ、戦争を起こして迷惑をかけた賠償を支払え。シュウ様は、金貨1000枚を対価に街を寄越せ。といった感じでしょうか』


「街まで総取りできるのに、金貨1000枚って少なくね?」


『少ないように思われますが、戦争に勝つためには自前で戦力を準備しなければなりません。更にお金がかかるんですよ。シュウ様の商会ならいざ知らず、他の商会ではそれだけの戦力を集める資金があっても、コネが足りないでしょう』


「そういえば、金貨1000枚は通過儀礼みたいなもんだって誰か言ってたな。普通奴隷落ちにするなら対価が高くなるのは当たり前……でもさ、犯罪の称号持ちの貴族に対して、条件付きの戦争って意味なかったか。


 大体よめた。普通は人に犯罪の称号が付いてるかなんて分からない。通常戦争で負けても街をとられるが資産まで取られるわけじゃない。条件付きであれば、莫大な資金が必要になるよう仕向けて、もし払える人間がいても、それを退けられる何かが存在する……ってな感じか」


 そうつぶやいてから、思考の渦に精神をゆだねる。グリエルやゼニスが何か言っている気がするが、俺がこの状態に入るとしばらく続く事は知っているので、仕事に勝手に戻るだろう。


 どれくらい経ったか分からないが、俺の意識が現実に復帰する。


「よっし、グリエルとゼニス、後はピーチたちも呼んでくれ」


 ディストピアの会議室で待機して、仕事をしていた職員にグリエルとゼニスを呼ぶように命令し、俺の側に控えていたブラウニーにピーチたちのドッペルを呼んでもらった。10分後には全員が集まり俺の考えを伝える事にした。


「グリエル、確認だ。今回の条件で負けた場合、奴隷にされるのは戦争に参加したモノだけだよな? 最後にもう1つ、従魔の場合はどうなるんだ?」


『従魔の場合は、奴隷にする事はできないですが、奴隷の従魔であればその奴隷に付随するモノになります。ただ従魔にも意志がありますので、主人の扱いが悪ければ従属契約は無効となる事があるので、殺される場合が……なるほど、そういう事ですか』


「その反応は、そういう事でいいんだな。ピーチ、念のため全員生身での参加は無しだから、みんなを一緒に説得してもらっていいかな? シュリやアリス、ライムもお願い」


 4人は首をかしげている。グリエルとゼニスは俺の意図を理解しているようだ。4人に分かるように説明をする。


「生身で参加しないというのは、保険だ。簡単に言えば、魔物には奴隷の首輪は効かない。ドッペルは、俺たちの意思で動かす事ができるが、俺たち自身ではない憑依できる魔物だ。俺たちが奴隷になる事はあり得ない。


 向こうの貴族が小細工ばかり仕掛けるから、俺も小細工をするって事だ。リバイアサンとバッハを投入するんだから、まず負ける事はないけど、向こうの貴族の事だ、何か隠しているだろうから、万が一のための作戦で、生身で参加しないという事だ」


 説明は上手くないが理解してもらえたようだ。正直、リバイアサンが広域殲滅魔法を使えば、俺たち全員が束になってもかなわないからな。簡単に殺されはしないけど、現状では有効打を与えるすべを持っていない。それだけあいつは規格外なんだよな。


 とりあえず、その条件で戦争をする事が決まった。日時は今日から1ヶ月後。


 これより俺は死地に向かう。妻たちの説得というか、年少組と土木組に状況を理解してもらうために頭を下げに行くのだ。せっかくの旅行で喜んでいたのに、気が引けるな。


 俺もそうなのだが、いくら姿形が同じドッペルでも自分の体じゃないので違和感があるのだ。だから、年少組や土木組は生身でいろんな所へ行きたがる。そして今回は万が一を考えて、生身でいけない事を伝えないといけない。それがどれだけ大変な事か……

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