第776話 ディストピア大ビンゴ大会

『レイディース、アンド、ジェントルメーン! 老若男女、紳士淑女の皆々様、ディストピア大ビンゴ大会にお集まりいただき、誠にありがとうございます! 午前中にもご説明いたしましたが、最後にここでもう一度説明をいたします』


 俺が突然始めた挨拶に、会場に集まった人間が全員ポカーンとした顔になっていた。説明を始める前にこの空気を何とかしないといけないのだが、後ろの方から笑い声が聞こえてくる。誰のものかは分かりきっている、バザールと綾乃だ。俺が思いっ切りスベった事に爆笑しているのだ。


 この挨拶に関しては、ネタというほどの事はなかったのだが、なんとなく様式美でやってみたくなったので、覚えている範囲で言葉を繋げてやってみたための大惨事である。


 そして笑い声と共に背筋が冷たくなる、これも分かっている。目線をあわせなくても、妻たちが集まっているあたりからしているプレッシャーなので……


『っと、私の戯言は放っておいて、ディストピア大ビンゴ大会を始めるぞ! では、スカーレット、説明をお願いします!』


『ご主人様の事は、一時的に放置いたしましょう。紹介に与りました、スカーレットです。以後お見知りおきを』


 と言っているが、ディストピアではシルキーである、スカーレット、アマレロ、ミドリ、コバルトの4人は、有名人である。知名度で言えば、俺と同じくらいあるのだが、人気度で言えばシルキーたちの方が上かもしれない。


 俺には、助けてもらったという感謝はあるが、自分で自分を買い取っている人たちも多く感謝をしても、人気があるというのは違うかな? その点、シルキーたちは惜しげもなく、調理技術を街の人間に教え、食の向上を図ってくれた、立役者だからな。みんなが感謝しているのだ。


 人気だけで言えば、ニコやハク、クロやギンの従魔たちの方が上かもしれない。最近は、それに喋るぬいぐるみみたいな、可愛いダマも人気が高くなっている。


 っと、変な事を考えている間に、映画館のスクリーン位のサイズに映し出された映像で、説明をし終わっていた。スクリーンは見やすいように日陰にしてあり、DPで光の強さを強化したプロジェクターで映像を映し出していた。


『では、ご主人様、ビンゴ大会を始めましょう』


 スカーレットからマイクを返され、特大のガラガラの前に立って、ガラガラを回す。思ったより重い。そりゃ500個も球が入って、それの重さに耐えられるガラガラだから、それなりの重さになるのは仕方がないか。


 ガラガラガラガラ……コトンッ。


『1個目の球に書かれている数字はっ! 294番! カードを見て294の番号がある人は、そこに穴をあけましょう! 間違っても切り離さないでくださいね! 切り離すと無効になるので注意してください!』


 俺がそういうと、数字のあった人達が喜びの声をあげている。まだ1個目だぞ……予想では、1列が揃うのに早くても20個は必要だと考えている。どんなに運が良くても、最短の6個でビンゴが出るとは思っていない。


 ビンゴの人が出ないのでドンドン回していく。16個目でとうとうリーチの人間が出た、早いな。そこから10個程で20名程のリーチが出たが、なかなかビンゴになる人はいなかった。


 30個目で初のビンゴが出た。この街に早い段階で移住してきた家族の子供だ。確か学校でいい成績を上げている優秀な子だったはず。初の商品は……え? 俺の使っているタイプと同じ箸だった。


 え……ネタで追加で出しておいた箸が、一番初めに選ばれるなんて。しかもこの子は、近くにいた学校の子達に自慢するように見せていた。それを羨ましがられていた……そんなに喜ぶものなのだろうか? そして羨ましがるものなのだろうか?


 まぁ、個人の感情を俺がとやかく言うのは、よくないからこの辺にしておこう。


 そこから10個程はビンゴが出なかったが、40個を超えたあたりからビンゴの人が増えだした。一番人気は、俺と同タイプ箸だった。


 何故それの人気があるかはよくわからんが、俺が提供しただけにもらってくれる人がいてよかった。初めは、誰にももらわれなくて不良在庫にならないか心配したけど、そんな事はなくてよかった。


 74個目で、2列ビンゴになった人が現れだした。グリエルがゼニスと準備した景品だけあって、悩んでいる人も多かったが、実用的な物が多くどれを選んでも正解だと思う。外れの無い景品かはその人次第だけどな。


 108個目で5列ビンゴ達成した人が出てきた。1人目は、一番初めにビンゴを達成した子だった。運がいいな。


 それにしても煩悩の数で5列ビンゴができるとは、ちなみに5列ビンゴは、ブラウニーの食堂で食べ放題のチケットの100枚セットだ。1枚で家族で食事をする事ができるチケットで、いつ使うかは自由との事だ。


 お金があってもなかなかいくことができないのが、ブラウニーのお店だ。大衆食堂みたいな方はいつでもいけるのだが、高級店仕様の店もあるのだ。なかなか行くことができない理由は簡単で、人気が高いからいつも満員で食べる事ができないのだ。


 そして、このチケットは事前連絡が必要で、2日前までに予約を入れられるチケットでもあり、そのおかげで必ず食べられるというものだ。ちなみに、一般の人は予約ができないので、早く来て並ぶ以外には食べられない。なので、なかなか食べに行くことができないのだ。


 ビンゴ大会は、そのまま続き球が出てくるたびに、一喜一憂している姿が見られる。思った以上に白熱したビンゴ大会になった。


 241個目で、全部穴をあける事に成功した人物があらわれた。6歳の女の子で、ピョンピョン跳ねて喜んでいる。本人は全部開けた事より16個景品がもらえた事に喜んでいる形だ。この幼女、孤児なので、親がいないため、全部開けた際の景品についてどうしようか悩む事になった。


 大きくなったら家でも建ててやるか? 等と考えたが、幼女は「そんなのはいらないよ?」と言われてしまった。初めての全あけをしたのに拒否されるのは困るので、もっと大きくなってから権利を行使できるように手配した。


 250個の球が出た。全部穴をあける事が出来た人は、1人だけ。あの幼女だけだった。


 思ったよりスムーズに進み、17時30分までにビンゴ大会が終わった。


『さて皆、ビンゴ大会は楽しかったでしょうか? 本来はこれで終わる予定でしたが、初めてのお祭りの締めとしまして、20時より花火大会を開催するので、ぜひ見に来てください。


 会場はこの場所になりますので、食事をしてからまたお戻りください。本日は屋台がまだ開いていますので、そこでお買い求めください。買ってきてここで食べてもかまいません。では、一度解散になります』


 さて、これでお祭り最後のプログラムになるな。じゃぁ準備を……と言っても、昨日で終わっているので、俺も食事を食べよう。そして、妻たちを迎えに行こう。住人には悪いが、特別な場所を準備して見る予定だ。

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