第655話 マンティコア頑張る

 ドロップ品になったキマイラは放置して、マンティコアの方へ駆けつける。


 何というか不思議な光景だな。マンティコアはダークナイトの鎧を攻撃しているが、通路から魔法や矢がマンティコアをめがけて飛んできている。


 それを嫌がり通路から見えない所で戦おうとするが、ダークナイトは通路から見える範囲を挟んで対面するため、攻撃を仕掛けるためにそこを通る必要があり、通れば通路から攻撃が飛んでくる。


 ダメージはあまり与えれていない様子だが、かなり嫌がっている様子が見られている。時間稼ぎとしては、この上なく上々の結果だろう。


 嫌がっているため、通路に向かい攻撃をしようとして、結界によって阻まれている。あ~狭い通路ってこういう戦い方もできるのか……小説なんかでよくあるドワーフの地下帝国は、こんな風にして通路を上手く使って侵攻を防いでたのかな?


 おっと、話しがそれた。どのタイミングで攻撃を仕掛けるのがいいだろうか? リリーに回復魔法と強化魔法でバフをつけていく。


『ご主人様、私が先に行ってキマイラが終わった事を知らせて、そのまま攻撃に参加します』


「頼んだ。こっちは気配を消して様子を見ておく。何か知らせたいことがあったら伝えてくれ」


 リリーが通路に向かって移動をする。入り口に入る前にしばらく止まると攻撃が止み、移動を開始して中に入っていく。


 ダークナイトの動きは避けてるから、サーシャじゃないかな? うまく避けて戦ってるけど、サーシャが頭を使って、こういう戦い方にしたわけじゃないな? 時々入り口の通路から指示が出ているので、誰かが命令を出しているのだろう。


 ファイアナイト……リリーが出てきてマンティコアの戦闘に加わった。


 しばらく様子を見ていたが、やっぱり決定打になる攻撃が少ない。通路から飛んでくる矢以外は、大きな傷をつけられないようだ。


 俺たちはフェンリルと戦った時から比べたら、大分強くなっているから強さを比べられないが、フェンリルはあの当時でダメージを与えれたことを考えると、キマイラやマンティコアは、フェンリルに比べると頑丈なんだろうな。


 それにフェンリルは正攻法じゃなくて、現代兵器を使って倒したから強さは計り難いな。


 現状でも細かいダメージを与えれているが、決定打にはなりえない。という事は、俺が前に出て攻撃しないと、どれだけ戦闘が長引くか分からないな。接近するにしても、マンティコアの尻尾の毒が怖いな。


 キマイラより毒の効果が下という保証はないし、それ以上にあの尻尾の針の攻撃、俺の鎧の隙間や薄い部分を攻撃されたら、確実に貫通して体にもダメージが入るぞ。


 少し危機感を募らせながら、マンティコアの尻尾を見やる。ん~サソリっぽい尻尾だな。ダークナイトのサーシャも、さすがに爪撃やブレスを躱しているが、違う方向からのサソリの尻尾が攻撃してくるため、躱し切れない攻撃も出ている。


 その当たった尻尾の針の攻撃は、どんだけ硬い物質で出来ているのか、ダークナイトの鎧の表面に小さなへこみができているのだ。ダークナイトの鎧は、俺が神歩をつかってスキルを重ねて、やっとこさへこませたはずなんだけどな。スキルも無しに鎧をへこますんだから、マジであぶねえな。


 針が硬いのはわかるけど、サソリの尻尾ならあの殻も硬いよな。キマイラの蛇尻尾より、マンティコアのサソリ尻尾の方が硬いよな。尻尾による攻撃が強いけど、全体的な能力はキマイラより下?


 まとまらない思考が頭の中をぐるぐるしている。


 一回試してみないと分からないよな……出来れば伸びきってるところを斬りつけたい。それはおそらく無理だから、攻撃した後の尻尾が曲がっている、あの瞬間に斬りつけるか? よし、やってみるしかない。


「リリー、ちょっといいか。どうにかして尻尾の攻撃を誘発してほしい。できれば、俺と逆の方向に動くように、誘発してくれると助かる。お願いできるか?」


『了解しました。サーシャと協力してやってみます』


 リリーは俺の指示を聞くと戦闘に戻り、サーシャと言葉を少しかわしてから位置取りを変えている。さすがタンク二人というべきだろうか、俺の意図をしっかり汲み取ってくれている。俺が尻尾を攻撃しようと、考えていることを理解して、位置を調整してくれている。


 様子を見ていると、ファイアナイトとダークナイト……リリーとサーシャのタンクコンビのためか、連携が上手い。片方が攻撃を受けるともう片方が攻撃して、タゲがうつると違う方が攻撃を仕掛ける。リリーはキマイラの時とは違い、二人でタンクができるためか、動きが良くなっている気がする。


 サーシャが爪撃をかわして、隙ができた所にリリーがメイスで強打をする。そうすると怒ってリリーの方を向き攻撃を仕掛ける……と、上手い具合に捌かれてしまう。


 隙ができた所にサーシャが懐に入り込み、守りの薄い場所を的確に攻撃を仕掛ける。サーシャにタゲを変えようとすると、通路から魔法や矢が飛んできてさらにイラついているだろう。


 この時に気配を消していた俺の存在に気付けていれば、あんな結果になる事は無かったかもしれない。


 マンティコアからしたら絶望的だろうな。致命傷を与える事の出来ない鎧が二つ、向こうの攻撃はたいしたダメージは無いが、それでも数多く攻撃されれば、ダメージは蓄積していく。


 何とかダメージを与えた鎧も、すぐに回復魔法で回復されてしまう。持久戦になれば、複数名いる俺たちの方が、圧倒的に有利だという事を理解しているだろう。


 一撃で致命傷を与えれない鎧が二つが、回復してゾンビアタックみたいな事をしてくるし、攻撃できない入り口側からも攻撃が飛んでくる。どんどんダメージが蓄積していく。俺だったら絶望しかないな……マンティコアが同じ思考をするとは限らないけどな。


 マンティコアの攻撃はキマイラと同じで、爪撃や突進、噛みつきにブレス、尻尾による攻撃が中心だ。尻尾の攻撃は、毒霧か刺突かの違いはある。少し前は攻撃に合わせて魔法も使っていたが、鎧二つにはほぼ効果が無いので、今は使っていない。


 二人が少し違う動きをし始めた。傍から見ていてやっとわかるような動きだ。少し隙を作って、攻撃を誘導しているような動きだ。リリーに爪撃が当たり、先程まではほとんど動かなくてもさばけていたが、少し移動して躱している。


 それにつられるようにサーシャが体の向きを変えると、隙だと思いマンティコアが尻尾による刺突を繰り出す。


 俺はそのチャンスを見逃すはずもなく、神歩から抜刀術の連携で尻尾に攻撃を仕掛ける。


 俺の振るっている刀が、マンティコアの尻尾の付け根に吸い込まれるように移動し、入り口にあった柵よりは抵抗を感じたが、切り飛ばすことに成功した。


 切り飛ばした尻尾は五メートル程宙をまっている。マンティコアは俺の方を振り向く。威嚇のためかブレスを吐き、そのまま突進してきた……

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