第656話 この世界の回復技術すげえ!
尻尾を切り飛ばした俺を振り返り、視界に収めるマンティコア。ブレスを俺に向かって吐き突進してくる……
俺は抜刀術を使うために盾をしまっていたので、ブレスを防ぐのに盾を使う事は出来なかったが、キマイラの反応を考えていれば、俺に攻撃を仕掛けてくる可能性が、あった事は理解している。
攻撃が終わってからすぐに準備を始めており、結界を張っている。もちろん突進に対して横にそらすように、結界が斜めにくるように張り逆方向へ脱出する。
マンティコアは勢いのまま、斜めに張られた結界に突っ込み軌道をそらされてしまう。勢いを殺しきれなかったところで、マンティコアは目に激痛を感じる。
状況が分からず、首を振り回し左目を襲っていた原因の物を振り払う。
俺はその瞬間を目撃してしまった。俺が切り飛ばしたマンティコアのサソリの尻尾の針が、勢いの余り突っ込んでいった所で目に突き刺さったのだ。
首をふって尻尾を振り落したマンティコアは、俺の方を振り返るが……右目の焦点があっていない。段々と足取りもおぼつかなくなり、しまいにはその場で伏せてしまう。
混乱しているが俺たちは、様子を見るために一定の距離を保ってマンティコアを見る。
五分位すると急にドロップ品に変わった……それと同時に、入り口を閉めていた柵が無くなり、入り口で戦っていたメンバーが、コロッセオの中に入ってくる。
「どういうことだ?」
あまりのことだったので、俺はボソッとそんな事を声に発してしまった。駆け寄ってきた妻たちの中から、ミリーの声が聞こえる。
「シュウ君、多分だけどサソリの尻尾の毒にやられて、死んだんじゃないかな?」
「え? 蛇が自分の毒で死なないみたいに、免疫があるんじゃないのか?」
「そこらへんは分からないけど、それ以外で死んだとは考えられない状況だと思うな」
確かにミリーの言う通りだな。それ以外で死んだ説明ができないんだよな。
「何かスッキリしないけど、一五一階の攻略はこれで終わったと考えていいかな? 突発的な戦闘になってしまったけど、何とか勝ててよかった。リリーとサーシャには悪いけど、このまま一五二階に行ってもらっていいか? 様子を見てきてほしい」
俺のお願いに頷いて二人は、下の階に行く事を了承してくれたが、
『ご主人様! どこに階段があるの?』
「そういえば! 階段をみんなで探そうか!」
ある場所の候補とすれば、入り口側の通路は無かったから、戦闘と同時に埋めた敵の出てきた通路かな?
「向こうの入り口を埋めちゃったから、発掘行こうか」
半分程のメンバーを連れて、魔物の出てきた入り口の方へ進んでいく。魔法を使って入り口を掘り進んでいく。
俺たちの入り口と同じように、一本道で登る階段ではなく、下る階段があった。
「あれ? キマイラやマンティコアってどこにいたんだ? 下から登って来た? リリーとサーシャ、下見てきてもらっていいか?」
『『了解です!』』
返事をした二人は、階段を降りていく。
「ちょっと外で待っておこうか。誰か向こうのメンバーを呼んできてもらっていいか?」
一五〇階の通路の方から、一応通路を探していたメンバーがこっちに向かってきた。
「ごめんね、やっぱり読み通り普通にこっちにあったよ。一五〇階に向かう階段のある通路と一緒で、一本道で魔物がいた形跡のある場所が無いんだよね。今は、リリーとサーシャに下を見に行ってもらってる。マップ先生を見る限り、ダンジョンコアのある部屋だと思う。
この部屋の中だけウィスプが入れないでいるから、その可能性が一番高いと思う。何で入れないかは知らないけどね。キマイラやマンティコアが出てきている場所が見当たらないから、そこから召喚されている可能性もあるかな? って考えてる」
そんなことを話していると、リリーとサーシャが帰って来た。
『ご主人様! 一五二階には扉がありましたが、押しても引いても切っても叩いても開きませんでした!』
え! 切ったり叩いたりしたのかよ! ちょっと過激すぎやしないか?
「鍵穴みたいなのはあったか?」
『『あっ!』』
「おぃおぃ、一五一階が鍵付きの扉だったんだから、そこは見てこようよ」
リリーとサーシャが、ファイアナイトとダークナイトの鎧なのに、しょんぼりとしている様子が、しっかりとわかるくらい落ち込んでいた。立ち直ると二人そろって走り、また一五二階へ駆け下りていった。
「あんなに急がなくてもいいのに。まぁいいや、ちょっと無理したから、体の様子を見てもらっていいか?」
近くにいたリンドに声をかけると、みんながワラワラと近寄って来た。妻とは言え、そんなにジロジロみられると恥ずかしいのですが。見られている中で、上半身だけ裸になり背中を中心に見てもらっている。前や腕は自分で見ている。
「気付いてなかったけど、結構無茶したせいか腕が結構傷付いたみたいだ。この様子だと足にも、結構傷が残ったかもしれないな。回復魔法と言っても間に合わせじゃ、そこまでしっかりと治せるわけじゃないんだな。エリクサーを飲んだら傷は消えるかな?」
ちょっと気になったので、エリクサーを飲んでみると、新しく付いたであろう傷はキレイに消えていた。
「おぉ~、エリクサーって本当にすげえな。でも、俺がこの世界に来る前からある傷は治らなかったな」
右手の手のひらにある傷を見て、しみじみ思う。
「でもこれなら、みんなが怪我しても、傷は残らないようにできるな! よかった!」
この世界の回復手段ってインチキ臭いな。それに見合った値段はするけど、事故で見えなくなった目や傷も治るしな。それに体に部位欠損があっても治すことも可能だから、地球とは比べ物にならない。魔法が進歩しすぎで、地球で進歩した科学とか機械技術の進歩が遅いのは仕方がないか。
そういう意味では、俺の街は色々と反則だよな。地球の機械を元に魔導技術を応用して、ガソリンや電気のいらない、エコな魔道具が結構な数ある。それに魔道具で水の心配をしなくてもよかったり。本当に便利だよな。
色々していると、下の階に向かっていた二人が走って戻って来た。
『ご主人様! この階の扉と同じような位置に、鍵穴みたいなのがありました!』
やっぱり鍵穴があったか。ダークナイトの方の鍵が残っているから、おそらくこれかな? 巨人系は回避が難しいく確実に戦う魔物だったから、攻略に必要なドロップが無くて通る道によっては、遭遇することが無かった可能性のある鎧が、攻略に必要なドロップを落とす。
地味に運要素も試されるダンジョンだったな……運? もしかして、ほぼ最短距離を移動していたのに、鎧たちに遭遇できたのは、運が良かったからか? 久々にこのパターンだな。
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