第321話 スプリガンは食いしん坊

 北へ進む時は森の中を抜けてきたが、今回はそんなめんどくさいことはしない! 旅行気分も終わりだ!


 昨日のうちに地下通路をダンマスのスキルで掘っておいたので、そこを進んでディストピアまで帰る予定だ。今は妻たちと一緒に馬車の準備をしている。最近というか馬車を作ってから駆動系のメンテを一回も行っていなかったことを思い出したので、この際だからと思い立って今メンテをしている。


 馬車の中や荷台はしっかりと掃除や手入れをしていたので、汚いところもなく問題もなかった。


 駆動系は、簡単に言えば、ベアリングの中の球をアダマンコーティングしたまでは良かったが、ベアリングの球はこの世界で一番固い物質で覆われてるのだ。そんなものを使っていれば、回りがすり減ってしまうのはしょうがないよな。


 きちんとグリスを使ってたとはいえ、摩耗するのは必然ですよね。ということで、同規格のベアリングを準備して付け替えていく。もちろん付け替える前に、全体にアダマンコーティングを施すのを忘れない。


 車輪の軸にも摩耗が見られたので軸の付け替えも行っていく。でも軸にはアダマンコーティングしたはずなのになんですり減ったんだろう? この時はわからなかったが、ディストピアに戻ってドワーフ達に調べてもらったらすぐに判明した。


 軸はすり減っていたのではなく、アダマンコーティングされていた中の金属が押しつぶされていたのだ。それならしょうがないよな? 次の付け替えの際には、少し細いものを選んでコーティングの層を厚くすることで対応することになった。


 馬車は全部で八台、俺たちが普通に乗る馬車七台にキッチン馬車一台だ。もともと年少・年中・年長組が各一台ずつ持っており、俺専用が一台、じゃぁ後三台はというと……従魔たとの乗り込む馬車だ。


 特にスライムたちと狐たちで一台使っており、移動時基本的に馬車の中で外をながめているだけだ、スライムたちも狐の真似をして、外をながめている雰囲気を出すのだから面白い! 目はどこにあるんだ?


 あと二台は、俺の従魔クロとギンで一台、ミリーの従魔の狼二匹で一台使用している。まぁ分けているけど、全部の馬車をドッキングさせられるので、地下通路を通っている時は仕切りはあってないようなものだ。


 準備が終わってからすぐに出発した。ウォーホースたちは休みなく三日間走り続けた頃にはディストピアに到着した。


 走った距離もすごいがそれ以上に、寝ずに三日間走り続けれるウォーホースは異常なんじゃねえか? 俺の従魔たちなんかしっかりと寝るからな。これはシュウの勘違いで、高位の人間や魔物であれば、数日寝ずに動き続けることくらい簡単な事である。


 そのいい例がSランクの魔物討伐の大規模遠征の際に討伐、大人数で主力となるシングルの冒険者たちは数日寝ずに戦い続ける事はよくあることなのだ。それでも一日毎野営をしてしっかり休むのは、身体機能のパフォーマンスを十全に引き出すためには、生活リズムに合わせるのがいいことには変わりないからだ。


「久々にディストピアに帰ってきた気がするな、三週間ぶりくらいか? まぁそんなこといっか。まずはスプリガンのみんなの所に行って、人員追加したほうがいいか聞いておくか」


 馬車から降りた俺は、ダンジョン農園の一画にあるダンジョン監視室へ向かう。一人でさっさと向かったのに気付いたら、後ろにエレノア・シェリー・ソフィーの三人お付きの妻がついてきていた。監視室のドアをけり破る勢いで開けると、中にいたスプリガンのみんながビクッとこっちを見たのが面白かった。


「スプリガンのみんな、反省はしてないけど驚かせてごめんね! ちょっと聞きたいんだけど、もう少し人員増やしたほうがいい? これからもどんどんダンジョンが大きくなったり、多くなれば人手は必要じゃないかなと思うんだけど?」


 俺の最初のセリフであきれた顔をしていたが、人員の話をしだすと若干表情が曇りだしたので声が尻すぼみになってしまった。


「え? 人増やすのに何か問題がある感じ?」


 スプリガンの一人が前に出てきてとんでもない事を言い出した。


「人が増えたら、私たちの甘いお菓子が減ってしまいますよね。大変でもいいから取り分が減らないほうがいいかなと思いまして……」


 しばらく言葉を理解するのに時間がかかってしまった。


「そんなことだったのか、専属のブラウニーも増やしてあげるから、取り分が減らないと言ったらどうする?」


 自分たちの取り分が減らないで、人員が増えると聞いた途端、全員が全員満面の笑みに変わっていた。わかりやすい娘たちだな。


「その表情を見ると、増やしたほうがいいってことかな? みんなには面倒かけてるから、追加で五人くらい呼ぼうかな? ブラウニーは二人くらいでいい?」


「あ! それなら知り合いのスプリガンを呼んでもらっていいですか?」


 はぁ? 知り合いなんているのか? そもそも召喚する前の魔物や精霊たちってどこかにいる奴らを召喚してるのか?


「知り合いって、召喚する前の記憶とかあるのか?」


「何言ってるんですかご主人様。魔物は知らないですが、精霊は精霊界にもともと住んでいて、そこから召喚されたり気まぐれな精霊がこの世界に来るんですよ?」


「まじか……それはわかったけど、どうやって知り合いを呼べばいいんだ?」


「ガルド様に召喚リストを見せてもらった時に気付いたのですが、精霊召喚の時にはDPを余分に払うことで、指定召喚っていうのができるそうですよ」


「へーそういった仕組みがあるんだ。俺の知らないことをよく知っていたもんだな! でもな、俺は相手も知らないのにどうやって指定すればいい?」


 問われたスプリガンの娘は、愕然とした表情をしている。どうやって指定すればいいか分かっていなかったようだ! このスプリガンに一時的に召喚できるようにすれば解決じゃね?


 ダンマスのスキルをいじってスプリガンに召喚できる資格を付与する。俺の説明を受けて召喚リストを見ていたスプリガンが召喚の許可を求めてきた。無事に召喚できたようだが、目的の人物なのだろうか? 出てきた瞬間に、ハイタッチしているので知り合いを無事に召喚できたのだろう、良かった良かった。


 それを見ていた他のスプリガンたちも呼びたい仲間がいるらしく、七人余分に追加召喚することになった。ブラウニーも二人から三人に数を引き上げて召喚した。


 さて、スプリガンのみんなからまずは報告を聞くかな。

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