第306話 野営の準備
「よーし、野営の準備を始めるぞー」
改めて言うが、陽が落ちて始めてから野営の設営を開始する者たちはまずいない。陽が落ち始める頃には、野営の準備ができているのが普通だ。
まず俺たちはピーチの指示のもと二班に分かれた。料理組と寝床の設営組だ。俺って本当にいる意味が薄くなってきてるな、ピーチに俺の仕事全部やってもらってるし。
料理組には、魔法の得意なメンバーのフォックスロープのジュリエットとレミーが配置され、後は後衛組が中心となっている。
これには理由があり、煮炊きした時に出る煙やにおいを風魔法で空に送り出すためだそうだ。調理しているエリアを結界で臭いや煙を閉じ込めて、上に穴をあけてそこから風でにおいが四散しないように送り出すそうだ。
ここでもいうが、普通は魔物が寄ってくる原因になるので、基本的には森の中で煮炊きは行わないのである。
野営の設営組は、前衛や中衛にあたるメンバーが中心だ。でもその中に一人だけ魔法使いのライムがいる。何でだろう?
まずは前衛の火力があるメンバーのシュリ・リリー・アリス・クシュリナ・シェリル・エレノアの六人が武器をおもむろに取り出したのだ。何する気だ? 野営に適した場所が無いから今から探しに行くのだろうか? と思ったら、直径二から三メートルはある木を根元から切り出したのだ。
何を始めたのか理解できなかった俺はピーチに事情を聴いた。
「野営に適した場所を作っています。探すより圧倒的に早いですし、切り出した木で柵も作れます」
うん、やりたいことは分かったけど理解しがたい事が目の前で行われているな。俺が前に実際に取った行動だけど、この時間からやるなら……まぁ、ありなのかな?
ピーチの話を簡単に理解すれば『適した場所がなければ作ればいいじゃん』的な発想だぜ。それに柵も作るってどれだけ時間かけるつもりなんだろう?
見ている前で木が次々と切り倒されていく。切り倒していた時間は恐らく五分にも満たないだろうが、かなり広いエリアの木が根元から伐採されていた。ただ中に伐採されたエリアの隅っこ側に、少し不自然に残された木が数本あるのが気になる。
次に何が行われるか見ていると、切り倒された端から二十メートル程ある木々を四等分程に切り長さをそろえていた。五メートル程の丸太は、物理攻撃組の残りのメンバーが片方を杭のように尖らす加工を行っている。年少組は収納の鞄を使って伐採されたエリアの隅に数本ずつ加工された木を運んでいる。
伐採に参加していた六人は今度は、加工された木の束ねられている場所に向かって行く。その中にライムもいるので彼女の出番なのだろうか? 様子をうかがっていると、ライムが魔方陣を展開して魔法を発動した?
見た目は何も変わっていないが、明らかな変化があったようだ。六人が加工された杭を自分の収納の腕輪に二本ほど収納して、取り残されていた木の所へ行き杭を腕輪から、地面に刺さるように取り出して重さを利用して突き刺す!
って刺さりすぎやろ! いくら重たいとはいえ五分の二程……二メートル程地面に埋まるとかおかしいだろ!? ってさっきのライムの魔法ってもしかして、近くに行って地面を確認すると柔らかい土になっていた。
なるほど、これで簡単に地面に突き刺してたのか。十二本突き刺すとライムがその杭の前で、また魔法を使い始め発動する。これは俺にも何をしているかすぐに分かった。杭の近くに行って地面を確認すると固く頑丈になっていた。七人はぐるりと伐採したエリア全域に杭をたてまわった。
出入り口は……なかった。俺たちからすれば、収納の腕輪にしまって配置しなおせば問題ないので作らない事にしたのだ。ここまで奥地なら盗賊が根城に使う事も難しいだろうからな。ここを通る酔狂的な人間でもいないと見つける事はできないだろう。
柵で囲われたエリアの外一メートル程に結界を張る。
侵入遮断系の結界ではなく探知結界を張っている。魔力の節約もあるが、あまりやりすぎるとせっかくの旅行としての探検が面白くなくなるという理由だ。他の冒険者からすれば、一時間足らずで、柵を作っている段階で何を言ってるのかと言いたいだろうが。
柵が完成するとライムが今までより大きな魔方陣を作り出して、大量の魔力を込めている。しばらくすると魔法が発動した。
次の瞬間に何をしたかわかるほどに劇的な変化が足元に現れた。木を根元から伐採したとはいえ切り株としてどうしても残ってしまっていたのだ。それを埋めるように魔法で土を作り出し地面を一メートル程埋めたのだ。
そして伐採したエリアの中心にでっかい天幕を建てそこが寝室になる。でもこの天幕って確か色々と仕切りがあったはずなのにすべて取っ払われていた。しかも大きなテレビが備え付けられていた。お前たちよ寝る気はないのか?
周りに調理用の天幕に食事をする天幕、お風呂用の天幕を建てて野営の準備は完了。すべての天幕が外に出ずに行き来できるようになっていた。ここまででおよそ一時間三十分、周りはすでに暗くなっているが、ここまで完璧に準備できたのだから何の問題もないだろう。
今日の料理は、カレーライスだった。キャンプといえばカレーライス! というくらいメジャーだと俺は思っているのだ。異論は認めるが撤回はしない!
しかもカレーライスにあうトッピングを色々用意してくれているあたり、シルキーたちの指導のたまものだろうか。しかもナン用のカレーも用意されているあたり気合が入っている。
ただこれだけ匂いの強い料理をしていたにもかかわらず、食事をする天幕の中に入るまでカレーの匂いが一切していなかったあたり、普通に考えたら異常だろう。ただ誰も指摘ができる人間がいない。
食事が終わると夜番の順番を決める話になった。六人を三組・五人を一組になって四組作っていた。それに俺と従魔、カエデとミリー、リンドと従魔の合わせて六組だ。一晩を四組で回して残りの二組は完全に休める形だ。
明け方だけ二組にして片方は、朝食と昼食の仕込みを担当する形だ。初めは俺を参加させないつもりだったらしいが、ご主人様というか旦那様の強権を発動して俺も夜番に強引に参加した。
シュウたちは気付いていない事なのだが、警戒して夜番を行ってはいる。だけど少なくともAランク相当の魔物でもない限り、シュウたちに襲い掛かってくることはない。
このあたりについたころであれば襲ってきただろうが、木を切り倒している姿や音を聞いていた魔物たちは、自分たちが勝てない相手だと悟っているため手を出してこないのだ。思ったより頭のいい魔物たちである。
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