第294話 暴走の結果
何やら寝心地のいい何かに寝ているようだ。この起き上がる意思をくじくほどの寝心地は、スライムベッドな気がするな。これに寝てしまうと自分の意思で起き上がるのが困難になるんだよな。
ってなんで俺がスライムベッドに寝てるんだ? 最近は寝つきもよくて使ってもいなかったのに、なぜ寝てるんだろう? そういえば何してたんだっけ? えっと昨日は、確か王都に到着して貴族街の門をシュリが吹っ飛ばして中に突入して、首に何かが……っ!
ガバッと音がするほど早く体を起こした。首のあたりに違和感があるけど穴は空いていない。そりゃ空いてたら今ここにはいられないよな。って首に何かが刺さって苦しくて気を失ったような気がする。結局どうなったんだろうか?
周りを見渡すと覚えのない部屋に従魔たちが、ベッドの周りで俺を守るように待機していた。とりあえずこっそりと部屋の外へ出てみる事にした。窓から見える景色を考えると、それなりに高い位置にある建物か、建物自体が高いかのどっちかだろう。みんなはどこにいるのかな?
扉を開けて外に出ると、通路が半壊している、おそらく城だと思われる通路だった。ますます意味が分からん。一応護衛の従魔たちはいたが見知らぬ城? で妻たちが俺を放置しているのもよくわからないな。まさか、誰かになにかあったのか!?
そう思うと居てもたってもいられなくなり、スキルを総動員して妻たちの存在を探す。近くにいる人間を拷問してでも居場所を探してやる!
通路を曲がった先におそらく女、動きの気配から戦闘系の人間ではないだろう。角に張り付きタイミングをうかがって俺の側の通路に一気に引き込み、背後をとり腕をキメて床に押し倒す。
「答えろ、ここはどこだ?」
「ライチェル城です。もしかしてあなたは……うぐっ」
「質問しているのは俺だ、勝手にしゃべるな。お前、俺の事を知っているようだな、一緒にいた女の子たちはどうした?」
「あなたと一緒にいた女の子たちは、今はお城の中央庭園いらっしゃるとおもいます」
「その庭園はどこだ?」
「起こしていただければご案内いたしますが……」
とりあえず、独りで歩き回るよりはまだましだな。先を歩かせてピースでも持ってれば最悪仕留められるだろう。メイド服を着ている女を立ち上がらせ案内をさせる。
半壊しているいくつか廊下を曲がって階段を下りていくと庭園にたどり着いた。妻たちがいた。遠目に見てもどす黒い不のオーラを発しているのが分かってしまう。
俺でも近づくのが怖い雰囲気だな。でも全員いるか一目じゃわからないな、って俺ならマップ先生を使えばすぐ分かったジャン。前のメイドにばれないようにマップ先生を起動して妻たちの名前を確認していく。誰一人かけていなかった。よかった。
どす黒いオーラをまとっている妻たちに近付いていくと、幼女三人組が俺の事を発見して俺に向かってダッシュで突っ込んでくる。頭からの突撃で俺のお腹をめがけて突っ込んでくる。
ネルとシェリルの頭が両下腹部少し遅れてきたイリアがニ人の上の鳩尾あたりに突っ込んできたのだ。軽く呼吸できなくなったが、おそらくかなり心配したであろう泣き出した三人を受け止めてあやすことにした。
三人をあやしていると妻たちが次々に寄ってきて俺の調子を確認してくる。年長組はピーチの治療の結果を聞いているので落ち着いている様子ではあったが、どす黒いオーラは消えてなかった。そして、ふと街の方へ視界を向けると、見える範囲の貴族街が半壊していた。ここで何があったんだろう?
「なんとなく、どんな状況か分かったけど、誰か俺に説明してくれないかな?」
ほとんど分かってないけど誰か教えてくれよ!
「私たちは向こうの対応があるので、キリエがご主人様に説明しなさい」
ピーチが年長組と年中組の一部を連れて正座をさせられていたり、木に宙づりにされたりしている人たちがいる方に歩いていっていた。宙づりにされている人間の半数は騎士っぽい感じだな。鎧着けたままとかエグイな。
「ではご主人様、何があったかお話しします」
門に入った後に俺に起こった出来事は、やはり矢が首に刺さって意識を失ったとの事だ。ただ矢が首に刺さっただけでは俺が意識を失うのはあり得ないと判断したピーチが、預かっていたエリクサーを取り出して矢を処理してからふりかけて事なきを得たそうだ。
だけど矢に塗られていた毒が予想以上に強力なものだったので後三十秒でも治療が遅れてれば死んでいた可能性が高かったそうだ。状態異常耐性のスキルがあってそれとか、どんだけヤバい毒だったんだろうな。
ただ俺が矢に貫かれたのを見てピーチが治療している間に、ピーチ以外の妻たちと従魔たちが全員激怒して暴れまわったそうだ。その現状が今さっき城から見えた半壊した貴族街なのだ。
すぐに騎士団や冒険者も集まってきたが、騎士団のほとんどはシュリとライムによって、殺されるか再起不能に追い込まれたようだ。
レベルの平均が一五〇前後あったとしても、レベルが三〇〇を突破したシュリのステータスに、特殊加工された武具を装備しているんだから相手にすらならなかったのだ。怒りのままに暴れているシュリの陰でライムが援護の魔法で、狙撃やら範囲爆撃を行っていたのだから騎士団は何もできないまま負けたようだ。
遅れてきたシングルの冒険者女三人チームは、シュリを見た瞬間に戦闘放棄したようでついてきたAランクの半分も一緒に戦闘放棄したとの事だ。ただ残りの半分はそのまま襲い掛かってきたようだが、陰に潜んでいた嫁達が一瞬で意識を刈り取って戦闘が終わった。
シングルの三人は俺たちがもともと無罪だと思ってたらしい上に、遭遇しても自分たちと同じくらいの実力の人間がニ十人以上いて、シュリに至っては一対一では全く勝てる気がしないのだから、戦うわけがないと力説していたようだ。
こうして俺が気絶してからおおよそ一時間で貴族街の半分ががれきの山となり、もともと処刑しようと思ってた人間の八割は処分できたらしい。穏健派も何人か殺してしまったがそれは不可抗力なので気にしない事にした。
そしてそのまま城に攻め入って城の三割ほどを崩壊させて国王を引き釣り出して、目の前の庭園に正座させられていた。
全身の骨が折れるほどにボコボコに殴られては回復させられて、気が狂いそうになればシルクちゃんの魔法によって直されという事がニ日程続けられたそうだ。俺何日寝てたんだろうな? と思っていたら五日も寝ていたらしい。
国王から俺に放たれた矢について情報を得ると、即座に追跡して処理したようだ。どうやら毒を作った勇者が弓の名手だったらしく、国宝のシューティングスターを貸し与えて防衛にあたらせていたとの事だった。
その発言をした後に息子を踏みつぶされて治されてと十回ほど繰り返されて地獄を見たそうだ。聞いてるだけでおなかが痛くなる内容だな。
ちなみに勇者の名は鬼崎深弥といい、俺の知っている人物だったらしい。前衛組で追い詰めて処理しようとした際に『俺は元居た世界でシュウと友達だったぜ。そんな人間を殺してもいいのか?』と言っていたらしい。
だけど妻たちは、俺を殺そうとしたことに変わりはないので問答無用で処理をしたそうだ。その際に命を奪ったアリスがよくわからないスキルを手に入れたようだ。よくわからないというのは、解析しようにも『????』になっているため意味不明なのだ。
とりあえず事件は解決したが、今回俺って本当に何もせずに終わってしまったな。寝てばっかりの間にすべてが終わっていたよ。もっと出番がほしかった。
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