第241話 綻びがあらわれた

 バリス教の幹部とトップを連れて戦場へ戻ってきた。


 教皇直属兵らしき奴らは、俺が連れてきた人間が誰なのかを理解していた。そして投げこまれることを理解して落下地点へ駆けつけていた。ついでと言わんばかりに幹部も受け止めて様子を確認していた。


「えー略奪軍のみなさん! 君たちに偽の神託を告げていた元凶を連れてきた。教皇と呼ばれている、あなた方のトップだ。こっちは人の気配がわかるものがいるがそいつの気配は察知できなかった。どういうことかわかるだろうか?


 そいつは人間ではなかった。だが間違っても神ではない! そいつの正体はアンデッドバンパイアだ! 信じるも信じないも君たちの自由だ。証拠は? と思う人もいるだろう。そいつが手をかざすとは思えないがこれをくれてやる。真実が知りたいものはそいつに使わせてみるといい」


 そういって真実の瞳を穴の中に投げ込む。そうするとザワザワとし始め、真実なのではと騒ぎ出す者たちが現れた。おそらくだが、誰がなんて言おうと真実の瞳を使う事はないだろうけどな・・・だってあいつのまわりには直属兵がいるんだからな。


 疑心暗鬼になり周りの人間も信用できなくなっているようで、お互いにけん制し始めた。誰かが剣を抜くとそこからは地獄絵図になった。


 こうなってしまえば信仰など何の役にも立たないだろう。特に幹部達の狼狽は激しかった。今まで教義の中だけではあったが秩序が保たれていたが、こうなってしまえばどうにもならないのだ。


 ただ不思議な事に幹部の誰もが教皇に対して真実の目を使わせようとする者がいなかった。魔眼のせいかと思っていたが、ツィード君の話だと魅了はされていないとの事だった。


 そこから導き出される答えは、幹部全員が信仰と関係ない形で利益供与があり、それによって繋がっている可能性があるという事だろう。


 幹部全員が脂ギッシュで肥えており、欲望に濁った眼をしているんだ。あの立場になるまでは信徒だったかもしれないけど、今では堕落したただの豚以外の何物でもないだろう。


 色々考えている間にも兵士たちが同士討ちでどんどんと死んでいる。何と脆い集団なんだろう、信じていたものが裏切られた可能性があり、嘘か本当か証明する手段があるのに、教皇に近付くこともできず訴えても殺されるだけ。


 幹部や直属兵は教皇様にそんなことをさせるのは無礼だろうが! と言っている、その行為自体が俺の言っていることを真実だと思わせるには十分なんだよな。


 っといけねえ、教皇は殺さないできついお仕置きで済ませてほしいってことだったな。今の状態で教皇が死ぬことはないし監視だけしとくか。


 ただこの地獄絵図は神達には好評だったらしく、チビ神の『グッジョブなのじゃ!』という声の後ろでピーピーと指笛が聞こえている。


 どんな基準で神達は喜ぶんだろうな? これで喜ぶってことは拷問とか好きそうだよなあいつらって。好き好んでおれもしたいとは思わないのにな。ただこれだけ騒いでるなら今回のノルマは達成したと思えばいいか。


「結局、一万人近くいた兵士たちが五〇〇人程度になっちゃったな。その大半が同士討ちという悲惨な状況での死亡だったな。


 それにしてもただの一人も奴隷にならなかっ……いや、なれなかったというべきだろうか? おそらくこれ以上同士討ちはなさそうだな。こいつらのために死んだ兵士たちがかわいそうだな。あの様子ならしばらく死ぬことはないだろうから限界まで監視しながら過ごそうか」


 日が傾くころには、魔法使いが五〇〇人程が過ごせる陸を何とか作り出し、死海の海水から逃れていた。まぁ頑張って土を生成したもんだな。被害を受けていない荷物を集めて何とかしのげるような状態になった様だ。安心できる場所ができたのでこちらを口汚くののしってくる奴らが増えた。しばらく放置しておいたら静かになったが食事の準備を始めたようだ。

 ところがどっこい、そんなことは俺が許すわけない!効果的な攻撃が思いつかなかったので、手榴弾を放り込んで敵兵に混乱をおとしいれ魔法を使って回収した荷物を燃やしておいた。


 神達はまた騒いでいるようで、教皇たちが慌てふためいている姿が本当に楽しいらしい。チビ神のひっきりなしに『グッジョブなのじゃ!』と声を飛ばしてくるし、チビ神の後ろから『もっとやれ~』とヤジが飛んで来ている。疲弊するまでは放置する予定だと告げると、ブーブー言われるが黙殺した。


 穴の下では負傷した兵士たちを治療しているようだが、幹部たちは兵士たちをわめき散らしている。こいつらいつまで生きてられるんだろうな?


 あっ! そういった矢先に殺されてら。しかも殺したのって直属兵だな。教皇の近くに行って何かを話している。あ~うざくて殺されたのかな? 極限の状態になると人の性格があらわれるからな。あの豚共はブーブーと騒ぎ邪魔しかしてなかったから、俺もまっさきに排除するだろうな。


 さて、いつまでこいつらもつんだろうな?


 あれから一週間が経過した。何とか過ごせているようだけど、食料も医療品もなく限界に近付いているようだった。初めのうちは騒いでいたが、次第に声に力がなくなり助けてくれと訴えるようになってきた。その度に奴隷の首輪を受け入れるなら、治してやると言ったが頑なに拒んでいたので放置している。


 ただ一人だけ様子が変わっていない人物がいる。アンデッドバンパイアの教皇だ。それにしても、バンパイアってゲームや小説によっては、元々アンデッドと同じくくりになってる物もあるのにな、よくわからん設定だな。


 教皇はアンデッドなので飲まず食わずで、死ぬことはないから冷静でいられるんだろうな。その様子が兵士たちには聖者の如く見えているようで、尊敬のまなざしを受けている。


 まぁ全員が狂信者みたいだからそういう風に見えているんだろうな。だけど兵士が限界に近付いてきてるんだよな。手榴弾に被弾した兵士が死にそうだけど、どうにもできないからイライラし始めてるし、そろそろ仕掛けるか。


「そろそろ奴隷の首輪を受け入れる気になったか?」


「ふざけるな!なんで我々が奴隷にならなければならない!」


「まぁ理不尽に首輪つけられそうになったらそうなるよな。そういう思いをお前ら獣人とかにさせていたんだけどな。そろそろ死にそうな奴が出てるんじゃないか? 助けてやってもいいが条件がある。そこにいる教皇に真実の目を使わせて、ステータスを確認したら助けてやるぞ」


「……教皇様……兵士を助けるために真実の目を使っていただけないでしょうか?」


 複数の兵士から懇願されていたが、直属兵がそれをさせようとしなかった。


「教皇様は知られたくない事でもあるのですか? まぁ調べられたら俺の言っていることがほんとだってバレちまうもんな。バリス教の信徒が死にそうなのに救いの手を差し伸べない教皇が本当に教皇でいいのかね? 俺らは救いの手を差し伸べようとしてるのにな」


「黙れ! お前らがいなければこんなに死人が出なかったんだぞ!」


「ふざけるな! そこの教皇が俺の街を明け渡せと言わなければこんなことにはならなかった。そもそもこれだけ死人が出たのはお前らが同士討ちをしたからだろう!


 俺にその罪を擦り付けようとするな! そもそも略奪者に慈悲を与えようとしている俺たちの方が、そこにいる兵士を見殺しにしようとしている教皇よりはまともだと思うぜ」


 事実を言われて、反論できずに黙っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る