第239話 哀れな略奪軍
あれから十日、敵軍がやっとそろったようだ。俺の地味な嫌がらせに爆発した敵部隊が何度も攻めてきて、フレンドリーファイアで死んだ者も四桁を超えた。美味い飯にはさからえないのはわかるけど、フレンドリーファイアをするのは全く持って意味が分からん。
その度に向こうさんの指揮官が「非道だ」「天罰がくだる」「すぐに明け渡せ」とずれた事を言ってくるので、攻めてきた兵士には戦闘後にきっちりと教育を施して返したので、おそらく戦争で使い物にならないだろう。処刑されて関係ないだろうけどな。
この十日の間に俺たちがしてた事は、食事のニオイによる嫌がらせとツィード君に協力してもらって魔道具の作成をしてました。奴隷の首輪って召喚すると一万DPと意外に高いので、スキル上げを兼ねてみんなで革細工を楽しくやっていたのだ。
魔法の回路はツィード君とアリス、ライムが担当していた。全員で作れたのは一〇〇〇個程だったので、DPで四〇〇〇個程追加で召喚している。どういう風に使うかはこの先でわかるので伏せておく。
やっと戦争が始まるようで敵軍の兵士達が準備を始めている。俺たちは慌てることなくのんびりとその様子を見ている。まぁ奴らが陣取っている場所はすでに中立地域なので、侵略軍をいつ攻撃しても問題ないのだ。
そういえば、ヴローツマインから見届け役が来ている。といっても身内みたいなもので出来レース気味で笑えてくるんだよな。俺がダンマスだという事も知っているので、今回の作戦を先に伝えたら苦笑してたよ。
どうやら準備が整ったようだ。という事で、さくっと敵陣全域を三十メートル程ダンマスのスキルで掘り下げる。対応できそうな人物は陣の中央にいたので逃げ出すことはできなかったようだ。
こいつ多分教皇直属兵の一人だと思うんだよな。レベルがこいつと側近二人だけ異様に高いからな。さすがに三十メートルを垂直飛びできるような化け物はいないので、魔法による脱出を注意しておけばいいだろう。
『再三の警告を無視した貴様ら略奪軍には、神アリスからの天罰がくだった。神の怒りによって略奪軍のいる地面が陥没したのだ! 今までの悪逆非道を悔い改め、その罪を償うために奴隷となる事を受け入れよ。受け入れない場合はさらなる裁きがくだることになるぞ』
おい神共! 笑うんじゃない! 俺だっておかしいのを必死にこらえて、拡声魔法使ってるんだぞ! せっかくの演技が台無しになったらどうするんだ! あれ? なんでチビ神以外の笑い声も聞こえるんだ? チビ神通して聞こえるのかな?
笑いを必死にこらえている間も、バリス様に逆らうな! 神の名を偽るな! 貴様たちは世界に対する反逆者だ! 等々よくわからない事をほざいている。自分たちの都合のいい解釈をして、攻め入ろうとしてきた奴らはやっぱり一味違うね。という事で苦しんでもらいましょう。
召喚リストを開いて、海水を召喚する時が来た! ちなみに海水は海水でも、死海の海水を召喚することができたので遠慮くなく召喚した。ちなみに死海の海水も普通の海水も、一DPで一万リットルも召喚できたのだ。
どういう基準で値段がついているかわからないが、湧き水も同じ値段だったのだ。ペットボトルに入った水ならもっと高いんだけどね。
とりあえず五十DP分、五十万リットルの死海の海水を召喚して流し込んだ。一万人程が駐留していた土地を覆うために大量の水を流し込んだのだ。直径一キロメートルを超える穴に水を流し込むので、この位の海水を召喚することになった。
ちなみに五十メートルプールで幅十五メートル、深さ一五〇センチメートルの水を入れたとすると、約一一二五リットル必要となる。それの五〇〇倍近くの海水を流し込んでいるので、腰程まで海水が来ている。
ダンジョンという特性上、DPでうみだされた物は設定しないと吸収しないのだ。海底ダンジョンには海水を吸収しないようにカスタムしてあるので、世界の海水が減ることはない。
海水が入れられて一番最初にあがった悲鳴は、長時間行軍して靴擦れなどを起こしていた兵士たちだ。傷口に直接塩を塗り込んでいるようなものだ、悲鳴を上げてもしょうがないだろう。
次に穴を抑えている奴らも見えている。見た感じそこそこ美形? といっていいのだろうか? 若干女顔の兵士たちやガチムチな筋肉ダルマの兵士たちだ。嫌なことが分かった気がする……
こめかみを揉んでると、けらけら笑っているチビ神の声が聞こえてくるので、おそらくそういう事なんだろう。戦国時代の日本でもあった話だ。戦場に女を連れてこれないから、男で性処理をする。俺にとってはおぞましい事だ。
って、女の騎士もいるけど……まぁそれを性の捌け口にはできないか。物好き同士がやっちゃってるわけかな?
海水を流した段階で勝敗は決しているんだけどな。死海の海水に浸かってしまった食料の大半は食べれるものではないだろう。煮炊きもできないし、粉物は浸かってしまったものは使い物にならないだろう。
ほとんどの食材が食べれなくなった状態で、塩分濃度三十パーセントを超える海水が腰の高さまであるのだ。二日そこにいるだけでも、死に至るだろう。おそらく忠告しても聞く耳を持たないだろうが、一応忠告しておいてやろう。
『神アリスの怒りに触れた貴様たちに新たな天罰がくだった。今生み出された水は、海水の十倍程濃いものらしい。それに長く浸かっていると、次第にめまいやふらつきが起こる。次に頭痛や嘔吐の可能性も上がるようだ。最後には、けいれんや意識障害、幻覚なども見えることがあるらしい。
貴様等は正義の名の下にという名目で悪逆非道を重ねてきたのだ。ここで死んでも誰も困るものはいないので、降伏しなくてもいいらしい。ここで死ねばそれが神アリスの天罰になり、降伏しても奴隷落ちで天罰になる。
どっちでもいいそうなので、時間はあまりないですがゆっくり考えてください。ちなみに奴隷になれるのは先着五〇〇〇人までなのでそれ以降の人は死んでもらいます』
死か奴隷かしか選べない状況に放り込んでみた。だから、邪神共! 笑うなって言ってんだろうが! コンチキショー!
悪魔とか、慈悲はないのかとか、今なら殺しはしないからとか、やはり的外れな事を言っている者が多数いる。今まで獣人やドワーフ、エルフにしてきたことを考えれば、優しいと思えるこの状況で悪魔とか言われる筋合いはないと思うんだけどな。
自分たちの方がどれだけ悪魔的行為を行っていたか理解できていないようだ。話では少し愚痴を言ったのを聞かれただけで、火炙りにされた者もいたそうだ。他にも兵士の虫の居所が悪くて鞭打ちをされ、一週間苦しんで死んだ者も多いそうだ。まるで中世の魔女狩り的な殺し方だな。
一日過ぎた頃には声をあげる人間はほとんどいなくなった。投降しようとした人間は、ことごとく殺されていた。奴隷になっても生きたいと思っても、ここで殺されてしまうのだ。殺しているのは直属兵と思われる三人にである。
この軍で最高指揮官的な立ち位置らしく、逆らうことができないようだった。まぁ俺には関係ないんだけどな。敵同士がいくら殺しあったところで俺は痛くもかゆくもないわけだし。
ただ水を生み出せる魔法使いがねばっているみたいで、なかなか心が折れないんだよな。最後の一手でもあればな、ってぼやいたのを聞いていたピーチが、
「教皇や偉い人をここへ連れてきてはどうですか?」
と……それ悪くないんじゃね? 今マップ先生を見る限りでは、中央に兵士はほとんどいないし、城をダンジョン化してしまえば、魔物は召喚し放題だしな。偉い奴ら全員拉致ってくるか!
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