第236話 聖国の特殊部隊

 ふ~チビ神に脅されたとはいえ、まさかあいつを様付けで呼ぶことになろうとは、からかいがいのあるやつかと思ってたら、実はとんでもない爆弾をもってやがったぜ。


 バリス聖国が攻めると予想した二週間はすでに一週間前に過ぎている。俺が行っている遅滞作戦が功を奏して、現在前線に集まっている部隊は四部隊約二〇〇〇人当初の一割に満たない数しか集まることができていなかった。


 しかも遠い場所から来ようとしてた部隊は、金もつきそうとの事で自分の領地に帰って行ってしまったらしい。これから集まれたとして約一万人というところだろう。既に半数近くの部隊が領地へと引き返してしまっているのだ。


 俺としては残念な事に、初めのバカ部隊以来徴発した部隊がいなかった事だろう。予想以上に聖国の兵士たちは統率がとれ自制心があるようだが、異様に現実主義者なのかもしれない。


 聖国でどんなやり取りがあるかは知らないが、おそらく現時点での補填はないのだろう。お金がないから行軍はできない、だから帰るという事なのだろう。


 中には暴走する兵士たちがいたようだが、その者たちは犯罪奴隷になったりその場で打ち首になったりしている。そのせいで


『ちょっとあんた! こんな結果はつまらないわよ!』


 と、チビ神に言われる始末だ。俺だってここまで統率がとれた部隊ばかりだとは思わなかったさ! それだけに腐敗している上層部が苛立たしい。物資を持って行ってあげた街で少し聞き取りをした。


 神バリスに加護を受けたものしか神聖魔法が使えないから、その魔法を行使するには正当な費用がかかる。金が払えないのなら治療はできないし、バリス教への信仰が無ければ治るものもなおらないと言って金を巻き上げているそうだ。


 中には金が払えなくて娘を連れていかれたという人も多いらしい。領主館に侵入して帳簿をのぞかせてもらったが、治療費としてもらった金は、全部中央にいる教皇に集められているようだった。国として税をとった上にバカ高い治療費を要求しているのだから、バリス教を信じる者が少ないのではと思わなくもない。


 それはさておき、おそらく教皇に送られている金は、自分たちのために使われているだろう。その証拠に中央から一切の配当が無いのだ。馬鹿でもわかるだろう。


 まぁ何に使われていたとしても俺には関係ないのだが、末端が自制のきいている部隊だけにもったいないと思う。だけどそういった部隊でも、やはり殺人や強姦があるので救いようのない国だと思う俺もいる。


 マップ先生の検索で称号表示はできないが、検索で表示させることができるので、称号を持っている前提で検索を掛ければ調べることは問題なくできる。


 まぁ本来の半分ほどしか兵士が集まらなかったためか、中央の神殿騎士と呼ばれる精鋭を二〇〇〇人程派遣する様だ。これはモニターしていたスプリガンの功績で発見されたものだ。この神殿騎士たちは装備もレベルも他の部隊とは比べ平均すると一〇〇程高いのだ。


 収納の鞄もいくつもあり、基本的には騎馬であるため移動速度が速いようだ。これでは足を壊すにしても馬を直接殺す以外に方法が無いだろう。


 ただこれとは別に、王国で言う王直属の奴隷兵と同質の部隊が五十人程動いているのも確認できた。さすがにこの兵士たちは、戦闘訓練を受けたディストピアの兵士たちでも荷が重いだろう。


「さて、スプリガンのみんなからの情報によると、どうやら王国の奴隷兵みたいな奴らが出てきたみたいなので、先制して潰そうと思うんだけどいいかな?」


「問題ないです。スプリガンのみなさんから連絡を受けてから準備はしてありますので、いつでも出発することができます。後はご主人様の号令次第です」


「毎回ごめんね。本当は傷付いても欲しくないけど、君たちなら死なないと確信している。傷付いても俺が何とかしてやる。だから絶対に死ぬな。矛盾してることはわかってるけど、みんなお願いね」


 全員が声を揃えて「了解しました」と返事をしてくれた。


 そういえば、DPでエリクサーが召喚できることは確認している。品質を最高級で召喚すれば四肢欠損も眼球の復元も思いのままだが、一つだけ問題があった。


 心が折れた人には効果が無い事だ。特に奴隷で自分の境遇を受け入れしまって諦めた人たちには、効果が無かったのだ。治せるとは言っても娘たち……妻たちが腕や足を切り落とされたりでもすれば、滅ぼすまで魔物を召喚する自信がある。


 今回魔物で攻めないのは、召喚した魔物では奴隷兵を倒すのに物量作戦をしなきゃいけなくなるためだ。


 足の速い魔物を大量に投入すれば、逃がさずに倒せるだろう。俺が重宝しているリビングアーマーは防衛には向いているが、足が遅いのでこういった場面では使えないのだ。それに、こいつらには聞きたい事があるから、この中のリーダー格は出来れば捕まえたいと思っている。


 奴隷兵もどきは人目につかない所を移動しているので、襲撃するには俺たちにはうってつけだな。自分たちの国の人間にもばれないように部隊を動かしているのだろうか? そんなんじゃ俺たちの思うつぼなんだけどな。


 奴らが夜休んでいる時に、ダンマスの力で一気に地形を変えてダンジョンに閉じ込めて倒せば何とかなるか? でも、ダンジョン内に人を入れたままだとダンジョンをいじれないから、足元に穴をあけてダンジョンの中に落として自力で出れなくしてやれば問題ないかな?


 って待てよ。ダンジョンは入口があれば問題なかったはず。ただの落とし穴でもダンジョンに認定されるのであれば、一〇〇メートル位の穴掘って上から大量の岩でも魔法で作って落とせば倒せるんじゃね?


「みんな! ちょっと待ってくれ」


「ご主人様、どうしましたか?」


「奴隷兵もどきを簡単に倒せるかもしれない方法を思いついた。深い穴のダンジョンを相手の足元に作って、強制的にダンジョンに放り込む。そこに岩や土を大量に落として生き埋めにすれば倒せるんじゃないかなって。念のため岩や土を落とした後に水も流し込めば、問題ないかなって思ってる」


「えーっと、それは落とし穴であってダンジョンではないのでしょうか?」


「みんなはダンジョンの定義を知らないのか。城や塔タイプも洞窟タイプもすべてのダンジョンに共通するのはなんだい?」


 背伸びをしながら三幼女が揃って手をあげる。


「「「はーい、魔物がいる事!!」」」


「ん~残念。俺が作った地下通路型ダンジョンや農園ダンジョンには魔物いないよね。どんなダンジョンでも入口が無いといけないんだよ。後は掌握している範囲内にダンジョンコアがあれば、この世界のルールではダンジョンになるんだよ。


 ちなみに俺のダンジョンはマップ先生で見れる範囲全部だよ、掌握してるだけの場所はダンジョンと呼べるかはわからないけどね。それはさておき、落とし穴でもなんでも奴隷兵もどきを倒せるんだからいいんじゃないかな?」


「そうですね」


「という事でさくっと準備しよう。スライムたちの荷物をどっかにまとめて出してもらって、詰め込めるだけ石や岩を詰め込もう。詰め込む石や岩は、DPで安く大量に出せるからそれを入れて行こう」


 しこたま石や岩を詰め込んだスライムたちを抱きかかえて、娘たちが準備終了を遂げてくれた。


 ちなみにリーダー格をとらえる方法は、タンクのチェインを使う予定だ。レベルは確認しているので上から五人を捕らえる予定だ。穴を掘ると同時にチェインで強引に引き寄せるのだ。スキルLvが十なら視認さえできれば、五十メートル程を引き寄せられるらしい。


 地下通路を通って奴隷兵もどきたちの元へ向かう。

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