第214話 長時間の戦い

 あれから六日、ダンジョン十七日目。


 現在一〇〇階……ダンジョンはかなり広くなっていた。運よく五・六時間で見つかることもあれば、丸一日かかることもあった。マジで広い。正直このダンジョンここまで来れても俺たちみたいな、複数の収納持ちじゃないと、到着できても帰りは無理だろうな。


 特にドロップを収納しておける場所がないだろう。今ですでに、召喚する際に最大サイズまで拡張した収納の腕輪が一つともう一つの腕輪の七割ほどをドロップ品で占めている。とにかく量が多かった。


 この六日間は、九十一から九十五階までと一緒で、特筆することなく下ってきている。あえてあげるなら敵の数が面倒なほど多いというくらいだろうか。九十一階が最大数四十だったのに対して、一〇〇階は合わせて一〇〇匹のドールとゴーレムが出て来ていた。


 しかもだ! 九十六階からはミスリル系に加えて、オリハルコン系まで出てきて、動きがよくなっているので、さすがに俺も娘たちも被弾が増えてヒーラーが活躍したな。


 今までヒーラーの出番なんてほとんどなかったが、武器を持ったドールやゴーレムの攻撃をくらえば身に着けるものでは防ぎきれなかった。不幸中の幸いといえばいいのか、戦闘メイド服や俺たちの革装備などは切り裂かれることはなかったので、青あざやむき出しの部分にあたってしまった時に回復の出番があった。


 昨日一〇〇階についてBOSSの部屋前まで進んでから野営に入っている。今日は昼過ぎまで休んでから、最後のBOSSとの戦闘をする予定で、今はみんなで朝食を食べた後にくつろいでいる。


 ちなみに今日の昼食は、カツ尽くしらしい。カツ丼・カツカレー・カツサンド・チキンカツにチキンカツカレーにチキンカツサンド。ビーフカツも作っているようだ。同じカツを食べるにも複数のソースを準備しているらしい。みんなでガッツリ食べて二・三時間休憩したら突撃になるだろう。


 今日も今日とて美味い昼食を食べてからしばらくして、みんなでストレッチを始める。装備も問題なく修繕が行われている。


「さぁ、リンドの話ではこれが最後のBOSSなはずだ気を引き締めて行こう。うわ~この部屋めっちゃ広いし、天井も高いな。五十階同様に階段長かったからそんな気がしてたけど、あれってやっぱりビックゴーレムだよな。


 しかも金と銀ってことは、ゴールドとシルバーってことか? 鉄の時もあれだけだるかったのに、さらに耐久力の高い二匹とか勘弁してほしいぜ。あのサイズだと関節技も決められるサイズじゃないから叩き壊す以外ないよな、だるい」


「ご主人様、気持ちはわかりますがしっかりしてください。時間がかかっても私達なら問題なく倒せます」


「そうだなピーチ、俺がこんなこと言ってたら士気にかかわるよな」


「ね~ね~ご主人様~。あれって昨日までと同じ色に見えるから、金と銀じゃなくてオリハルコンとミスリルじゃないですか~?」


 気の抜けたしゃべり方をしたのはエレノアだった。この娘は最近ポアポアした娘になった気がするんだ。ゆるふわ? 的な感じだ。だからと言って行動が遅いわけではないのだけどな。


 それより肝心な事を言ってるよな。確かに色はオリハルコンとミスリルに見える気がするな。アイアンビックゴーレムで一時間三十分もかかってるのに、オリハルコンにミスリルってどれだけ時間かかるんだよ。これって確実に交代しながら休憩挟む以外ないな。


「確かにそうっぽいな。耐久力的にはオリハルコンの方が高いけど、ミスリルは魔法が聞かないから長時間の戦闘になると思う。だからオリハルコンの方から倒すよ。


 シュリはメイン盾で、危なくなる前に交換するから無理する前に言ってくれ。ミスリルの方はレイリーを含む残りのタンク五人でまわしながらオリハルコンから離してくれ、では開始しましょう」


 通常サイズのゴーレムでもアイアンとミスリルを比べると五割ほど早かったのだ。オリハルコンだと六割ほどだろうか? ここらへんはカンなので正確な数字ではないのだが、ドールがいる間はそれに加えて三割早く感じたからな、このビックたちはどれだけはやいのやら。


 シュリがオリハルコンのターゲットをとりミスリルと距離を離す。ビックアイアンゴーレムの素早さを覚えていないので、正確には比べられないが大分早くなっている気がする。


 元になってるのが鉄よりかなり強いわけで、殴る音がとにかくビュンビュンって風を切る音じゃなくてゴウッて力業で引き裂く感じなんだよ。マジで怖い。


 シュリは無理せず、弾き飛ばされながらも攻撃をそらし続けて安定したタンクっぷりである。その間に俺たち残りのメンバーは、膝に集中して攻撃を仕掛ける。自分の重さで吹っ飛ぶことがないので、挟撃をする必要もなくダメージが蓄積されているであろう。もちろん全員属性魔法を付与してダメージを与えている。


 三時間経っても一向に倒れる気配も動きが鈍くなる気配もない。俺は今休憩しながら様子をながめている。疲れたから休んでいるわけではないよ? シュリがどこまで持つかわからないから、俺が早めに休憩に入って交代の準備をしているだけだ。


 ちなみに今回の俺の装備は両手とも盾だ。視界を遮らないギリギリのサイズにしてある。合わせて一つの大盾にもできるように改良されている代物だ。シュリみたいにポテンシャルが高くないから、苦肉の策で両手に盾を装備することで防御力を補う形だ。


「すいませんご主人様、少し休ませてもらっていいですか?」


 シュリから初めて聞いた苦しそうな声だ。


「了解した。少し休んでろ。アタッカーの娘達も無理せず休むように。後、シュリの面倒見る娘を二人ほど見繕ってくれ。じゃぁ実戦での初タンクやりますか。こっち向けや屑鉄ゴーレムが!」


 スキル込みで挑発を飛ばしてターゲットをとる。いちいち声に出す必要ないのだがそこはノリと気分の問題でデカい声を出してみた。俺がタンクをやるから先に休憩に入るといった時に、娘たちに反対されたが、おそらく安定してタンクできるのがシュリとレイリーだけだったのだ。


 ビックが一匹だけだったらよかったのだが二匹となると、片方はレイリーにコントロールしてもらうしかなかったので俺が出ることにしたのだ。ちなみに俺は装備を見て分かるように、タンクの訓練ももちろんしてます。


 何せ武芸のスキルは根こそぎ覚えてるしそれに合わせて特訓もしたからな。とはいえ実戦での初めてのタンクなんだけどね。俺のタンクはシュリのタンクとは違って、格闘術から発生した形といえばいいのだろうか? 受けるというよりは基本的にはすべて受け流すスタイルだ。


 ターゲットをとったビックオリハルコンゴーレムは、俺に向かって攻撃を仕掛けてくる。気持ちさっきより早くなってる気がするのは気のせいか? ごめんね! かわいい娘から俺みたいな男になってな!


 相手の攻撃が早いから完璧とは言えないが、何とか受け流しているのに、シュリと同様に体を吹き飛ばされてしまう。質量の問題はステータスにブーストかけてもどうにもならないか。なら肉体活性に魔力使うのはあまりよろしくないな。


 頭を切り替えて、なんとなく土魔法を体に付与する。攻撃に使うと打撃系の増幅に使われる土付与だが、そうやら防御に使うと打撃系を吸収するのに役立つようだ。自重が増えたりしないかなって思って使ったが思わぬ効果を発揮した。


 付与魔法は、瞬間瞬間に付与するより弱くても付与し続けて、必要な時に魔力を流す量を増やす方が効率がいい。同じ魔力量で倍以上の時間持つのだ。かけなおす時に大量の魔力を消費するのだろう。ただ、弱くてもかけ続けるには集中力がいるので、慣れても不意に切れてしまう事があるから注意が必要だ。


 飛ばされる距離が半分ほどになったが、それでも三から四メートルは飛ばされている。シュリでも六メートル程飛ばされていたのでかなりいい方だろう。


 ただ、受け流すたびに体がきしむ音がするんだよな。ギシギシと嫌な音がする。それにしてもシュリはこんな奴相手に三時間も盾をしてたのか、本当にすごいな。


 次第にビックオリハルコンゴーレムの動きが遅くなってきたが、まだ倒れる気配がない。戦闘開始から約五時間。シュリと交代して二時間。俺の魔力量が二割を切っていた。


 ポーションで回復をしたりしながら戦っていたが、そろそろ危険領域に入る。シュリはキリエに回復してもらい体のメンテナンスを受けて戦線に復帰できる様だ。


「ご主人様、そろそろ交代します。ゆっくりお休みください。かかってきなさい鉄屑よ!」


 シュリが盾を交代してくれた。そこから一時間三十分ほどでゴーレムが倒れる。


 ビックミスリルゴーレムは五人で三十分毎交代して回していたようで疲弊もほとんどなく安定していた。


 順々に休憩に入り、俺の盾で戦闘を再開する。ビックミスリルゴーレムと戦闘開始してから四時間後に倒れることになった。タンク陣が地味に体力を削っていたようだ。BOSSの部屋に入って十二時間以上過ぎていた……眠い。

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