第213話 知りたくない事実

 部屋にいる三十匹のミスリルゴーレムとドールを見ながらふと思う。さっきのBOSS戦で関節技が弱点だと気付かなければ、一階降りるだけでも相当な労力を支払うことになったのではないだろうか?


 実際ミスリル系はタフだったのだ。七十階で発見した挟撃を使ってもこの部屋を殲滅するのに三十分はかかるだろう。


 この階では、従魔のウルフ系とハクが特にやばかった。俺達の場合は、組む⇒転ばす⇒関節をキメるの三工程をふんで腕や足をもぐのだ。スキルがあってそれなりに柔術が使えるが、立ったまま関節をキメてもぎとる器用なまねはできない。


 それに対してウルフ系とハクは噛みつく⇒デスロール(ワニが獲物にかみついてクルクル回る極悪な技)の二工程でもいでいくのだ。しかも俺達が組んで倒す前にはもぎとっているのだから凶悪この上ない。余計な知識を身に着けてしまったものだ。


 俺も四肢のどこかにかみつかれれば勝てないな。最近、三幼女がかわいいせいか、俺をかまってくれなくて冷たくすることがあるけど。反乱を起こされる前に優しくしよう。シュウに召喚された従魔たちは精神支配されたとしても、召喚者であるシュウを襲う事はないのだがシュウはそれを知らない。


 蹂躙劇をながめながらそんなことを考えていると、三十体のゴーレムたちがドロップに変わっていた。ちなみにゴーレムの討伐部位と呼ばれるものは無く、インゴットという形でドロップされる。


 クレイやロックならその素材がドロップとなる。インゴットといってもサイズが違っており、大きくなればなるほどレアドロップという事になるそうだ。なので俺が倒すと十匹に一個は、最大のインゴットになるようだ。


 しばらく探索して気づいたが、部屋のサイズで錯覚していたのだろう。明らかにこれまでの九十階までとは違う規模のダンジョンになっていた。簡単に言うとサイズが倍くらいになっているのだ。面積ではなく一辺がである。


 という事は面積が四倍になっているという事だ。探索に時間がかかるじゃねえか! 探索だけで下手したら四倍時間がかかるってことだ。敵も多いから一階一階の探索に五から六時間は平気でかかることになる。頭が痛くなってきた。


 一時間ほど進んだところで袋小路の部屋についたので、殲滅してから野営の準備をすることにした。


 部屋のサイズを正確に把握しているネルにも話を聞くと俺と同じ結論にたどり着いていた。等倍縮尺の手書き地図をみて明らかに大きくなっているのがわかったのだ。一枚でおさめていたのがはみ出して複数枚の地図を繋げているから明らかだった。


「いや~明らかにデカくなってるね。関節技が有効だって気付かなかったら、悲惨な状況だったね。それでもこのサイズの階になると、一日に一から二階が限度だろうね。無理せずに進んでいくことにしよっか。今日のご飯は何かな。久々にカレーが食いたくなってきたな~」


 俺のセリフを聞いた娘たちが、ガタッと立ち上がるとキッチンコンテナに入っていく。しばらくすると出てきた。しまったな。これは失言したかな。みんなの出してくれる料理は、なんでも美味いけどポロっと懐かしい味が食べたくなっちゃったんだよな。キッチンの娘たちごめんね。


 食事ができたようでご飯が運ばれてくる。懐かしい香りもあるが、何か覚えのない香りも漂っている。何種類かカレーを作った様だ。他にもチキンティッカやタンドリーチキン、サラダのドレッシングにはインドやネパール風な味付けのされたものができた。


 家の近くにあった美味しいカレー料理屋のカレーと似た味のするチキンカレーにナンもついていた。前にちょっと小話でそういったカレーもおいしかったって、一回いっただけなのに既に完成させてたのか。


 しかも俺の好きなチーズ入りのナンを焼くあたり気合が入っているな。あれ? このナンどうやって焼いたんだ? 専用の窯で焼いたような形してるけど、誰かが持ち込んでいたってことか?


 カレーライスもインドカレーもナンもサラダも美味かった……満足じゃ。しかも飲み物もマンゴーラッシー(マンゴーとヨーグルト等をベースに作られる飲み物)まで準備していた。俺が好きだったメニューの組み合わせだ。ちょっと日本の事を思い出して涙が出そうになってきた。


「ご主人様!? 美味しくありませんでしたか?」


 ピーチにすごい勢いで心配された。


「そうじゃないよ、昔にちょっと話したことを覚えてくれていて、しかも味を再現してくれたんだよね。多分シルキーたちが中心になって、俺好みの味に仕上げてくれたんだよね。それで昔の事思い出しちゃったらちょっとね」


 そういうと娘たちやカエデ、ミリー、レイリーが悲痛な顔をした。みんなには俺がどういう存在で、どこから来たのかは話しているのでみんな思うとこがあるのだろう。


「でもね、今はこんなにいい仲間たち、違うな、家族といってもいいみんなと一緒にいられることが嬉しいよ。向こうにいたら体験できなかった事を、色々体験できてるしね。殺されかけたりもしたけどね。おっと、お前たちも家族だよ」


 話をしていると頭の上にハク、両肩にコウとソウが来て耳を舐めだす。後ろからギンとクロのフスンっという鼻息がかかり、足元にはスライムたちが群がっていた。こういうときばっかごますってくるんだから……でもかわいいなお前たち! わしゃわしゃしちゃうぞ!


 ハクやコウ、ソウは喜んでいるがクロとギンに手を伸ばすと、不意に離れて三幼女の方へ向かっていった。撫でてもらっているとこちらをちらりと見てフスンっと鼻を鳴らした。こいつら、今ばかにしたな!


「クロとギン、ちょっと話があるこちらに来なさい!」


「「「ご主人様! 虐めちゃダメなの!」」」


「え!? ごめん……」


 三幼女に叱られて謝るとまたもフスンっと鼻を鳴らしやがった!


「こらクロとギンも怒るよ!」


 ネルに怒られて二匹はしょんぼりしていた。目が合い、何かが通じた気がした。


 時間は流れダンジョン十一日目。

 現在九十五階……八・九・十日目で四階しかダンジョンを踏破できていないことになる。しかも質の悪い事に今までが逆ピラミッドだったのに対して九十一階からは、ピラミッド状に下に行けば行くほど面積が大きくなっていたのだ。


 九十四階で九十一階より二倍ほど面積が広がっていた。敵の数も増えるし時間はかかる。おかげでミスリルはゲットし放題だけどな! もうね、使いたい放題ってくらいに手に入ってるからどう使うか困るな。


 そろそろ俺もミスリルでなんか作ってみるかな。鍛冶とクリエイトゴーレムでなんかいいものができるかもしれないしな! ドワーフのジジイ共にも金属の打ち方習うか? 酒とつまみにミスリルにオリハルコン渡せば喜んで教えてくれそうだしな。


 ジジイ共でもオリハルコンの武具はなかなか成功しないっていうから、楽しみだな。クリエイトゴーレムだと作る時にエンチャントすることができないからな。魔核使って付与というか代用はできるけど劣化品でしかないからな。


 さて残り六階頑張っていこうか……

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