第212話 衝撃の事実

 辟易する気分を抑えながらBOSS部屋の敵を眺めながらそうつぶやく。


 スライムたちは自分たちにも活躍の場ができたようで、張り切って全力でプルプル震えている。慣性力っぽい物で体ちぎれたりしないか? 大分歪んでいる気がするけど。


 タンクの六人とスライム八匹抜いたとしても、ドール一匹に三人(従魔含む)以上で当たれるよな。ピーチはタンクの補佐をさせれば、間違いなく向こうは何とかなるだろう。


「ピーチはタンクとスライムたちの補助を! 他のみんなは一体に三人で当たること! さて暇してたお前たちにも働いてもらうぞ! ハク・ギン・クロ・コウ・ソウ、全力でドールたちを倒すこと!」


 ニコを除いた、ミリーの従魔を含む九匹が元気よく吠える。ミリーには俺と同種の鉄棍を渡してあるので、カエデよりレベルが低くてもDPS(1秒間に与えられるダメージ)は上だろう。


 ずっと強化を続けている【迷刀 霞】をもってしても切断できないオリハルコンドールは、カエデにとって最悪の敵だろう。問題はその刀でも嬉々として切り付けている。勇ましいな。


 俺は気付かないうちに、ピーチの指揮を奪って指示を出していた。特に何も言われなかったので、自分が戦闘に口を出している意識すらなかった。


 娘たちの攻撃は安定しており、一人が注意をひいて二人が同時攻撃を仕掛けている。安定しているので特に注目する点が無かったが、従魔たちの戦闘は興味深かった。ハク・ギン・クロの3匹は噛みついていた。


 さすがにオリハルコンは砕けないが、噛みついて引きずり回したり股割きをしてみたりしている。これって関節技、柔道の決め技がきいたりするんじゃねえか?


 一通りの戦闘系スキルはとっているので、もちろん柔術もサンボも覚えている。知識がある状態なだけだけどな! 自分の武器はシェリルに貸し出していたので、新しく取り出していた双鉄鞭を収納にしまって、ドールに近付いていく。


「すまん、ドール一匹もらうね。試してみたいことができたからごめんよ」


 そういって一匹のオリハルコンドールに近付いていく。ドール、人形が動くためには関節が必要だ。人でも関節は他の部位よりどうしてももろくなる。肘などは外側は固くても内側はもろい。


 膝にはもろさを補強するためにさらが入っている。そして関節には可動域があって人型や動物型の魔物には必ず限界がある。という事は、関節破壊は楽にできるのではないだろうか? 骨が固くても繋ぎ目は脆いものだ。


 武器を振りかぶってきたドールの手首をとり、そのまま体勢を崩させ地面に倒す。肩の関節をキメてから、さらに力を加える。ゴキッ、折れる音? といっていいのだろうか、それと同時にドールの腕がもげた。


 これで関節技がきくことは証明された。まさか本当にきくとはね。今まで鈍器などで苦労して撲殺してきた人たちが哀れに思えるな。


 予想以上に簡単に腕をもぎ取ることに成功した俺は、そのまま首に腕を回し締め上げる。って! 生物じゃないんだから、締め上げても呼吸してないからきくわけないだろ! 俺のばか!


 締め上げている状態から体ごと捻り、人間でいう向いてはいけない方向へ強引にネジ回す。ゴキッと腕をもぎ取った時よりさらに大きい音がして首がもげた。そうするとドールはドロップに変わる。


「えっと……みんな、打撃や斬撃より、関節を折ったり首をもいだ方が楽だぞ」


 俺の報告を聞くと、ドールを相手にしていた注意をひいていない娘たちが、一斉に武器を捨ててドールに組み付いてサクッと首をもぎ取っていた。まさか打撃より効く攻撃があるとはな。ゴーレムも子供の作った粘土人形みたいでゴッツイ人型で首のない感じなのだが、腕と足は恐らく関節に近い何かがあるはずだ。


 このダンジョンに入ってからずっと見ているが、人間に近い動きをしていて攻撃されても人間では、ありえないような関節の動きをしたことを見たことがない。AI的な何かによるもののためにできないのではなく、人間に近い動きをさせるために人間に近い構造を模した物ではないかと思っている。


 個体によって多少ばらつきがあるが大きくても二メートルは超えないサイズなので、問題なく組むことができるだろう。この世界のゴーレムって、このサイズがデフォルトなのだろうか?亜人の森にいたゴーレムもそこまででかくなかったしな。


 小説やゲームのゴーレムっていうと、大きいイメージが強いんだよな。それこそ五十階のBOSSのビックアイアンゴーレムみたいな感じだろうか? 何でこの世界のゴーレムは人間サイズなんだろうな?


 ゴーレムにも関節技がきくことが判明して、次々と組み伏せられていく。首をもぐことはできないが腕や足が簡単にもげてしまうので、そのまま押し切り全滅させる。


「八十階の倍はいたのに、同じくらいの時間で終わっちゃったね。まさかこんな簡単に倒せる敵だったとはね。柔道なんて対人戦でしか使う機会ないと思ってたし、その柔道も投げが中心で終わると思ってたよ。スキルの補正で効果が上がってたとはいえ、ここまで簡単に倒せるなんてな」


「シュウ君、この情報どうする? ギルドで働いていた人間としては、色々教えておきたいところですが」


「ん~あんまり広めて、関節技がきめれたらドールやゴーレムが弱い敵だと認識されて、増長するアホが出て来ても困るんだよな。特に0のつく階層は最大で一〇〇匹は出てくるから、シュリみたいに全員を引き寄せられるならともかく、階層にもよるけど二十匹も相手どれないだろ?


 大規模のパーティーなら話は別だけど、十人やそこらのパーティーなら、関節技を決めている間に違うゴーレムやドールに攻撃されて致命傷になりかねんぞ? それなら広めないで今のスタイルの方がいいんじゃないか?」


「それもそうですね、数字の若い階はまだいいかもしれないですけど、調子に乗って自分の身の丈にあわない場所に行けばすぐに死んでしまいますね」


 のんびりそんなことを話しながら九十一階層へ向かう。休憩をとるのにいい場所を求めて……


 九十一階の初めての部屋について愕然とした。銀色に光るゴーレムとドールたちがいたのだ。しかも、見る限り三十匹程いる気がする。


「これって、シルバーゴーレムより明らかに綺麗な色だよな? しかも七十階のBOSSと同じ色に俺は見える。ってことは、この階からはミスリル系が中心なのか!?」

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