第175話 変わる環境、変わらぬ日々

 鬼人の人達が来てから三週間が過ぎた。ジャルジャンやヴローツマインで購入した奴隷と同じく、昼間に戦闘訓練と夜は勉強と忙しい日々を送っている。やはり今までと勝手も違えば、ほとんど勉強もしたことが無かったので夜の時間はみんな暗い顔をしている。


 その反面、昼間の戦闘訓練はさすがの一言だった。樹海で長く生きていたため、連携はさすがにお手の物の様だ。鬼人の特徴なのか、魔法系はほぼ全滅だったので回復魔法の使える人材がおらず、ケガを負わずにどうやって相手を倒すかに特化していた。


 森に住む魔物に奇襲するっていうのだから、その技術には舌を巻くしかない。ステータスもさることながら、スキルが本当に忍者みたいなんだよな。索敵・暗器・毒・気配遮断・急所攻撃といった珍しいスキルが多かった。


 魔法を使えるように宝珠を使ってみたが、魔力がかなり低く覚えたところで使いこなすことはできなかった。普通の人を一〇〇とした時、鬼人は一以下の魔力しかなかったのだ。その分他のステータスは、五割ほど多くなっている。


 シュリ程ではないにせよ、やはり強いな。平均レベルは、一〇〇ほどありその辺の冒険者では太刀打ちできないくらいに強かった。娘達にあまり汚れ仕事をさせたくないと思っていたので、暗部を担ってもらってもいいかもしれないな。今度交渉してみよう。


 これだけ強くても、人間が怖いのは……人外の領域にいる、シングル以上の冒険者が関係していたりするのかね。


 街の様子を見て回っていたら、ネルちゃんの父親ジミーが俺の事を呼びに来た。


「シュウ様、ご報告があります。成長の早かった野菜がもう収穫を迎えています。予定していた収穫時期の半分ほどの期間ですがどうしたらよろしいですか?」


「ん~農業の事は任せてたからな、農業をやっていたものから見て食べられそうなものができてるのかな?」


「聞かれると思いまして、収穫した野菜を農奴の方たちと一緒に味見をしています。いままで食べた事のない程美味しい物でした。成長が早く味も良いのは驚きです。シュウ様が以前用意してくれた野菜にはおよびませんが、以前街で売られていた野菜より断然おいしいと思います」


「へー美味しいのか。予定していた収穫祭は大分先だったけど、前倒しにしてやるか? 今日の夜に明日収穫の告知してみんなで収穫するか!」


「実りが早すぎて、消費しきれる量ではないのですがどういたしましょう?」


「ん? この前できた倉庫に入れておけば、腐敗遅延と冷やす魔道具が設置してあるからかなり長持ちするっていってたぞ。それに分量を計算して余りそうなものは、街に売りに行けばいいだろう」


 腐敗遅延はツィード君が片手間にアリスたちに教えた魔法回路だ。腐敗遅延はダンジョンの食材置き場にしている部屋にある腐敗防止の劣化版だ。地上の施設にあまり高性能な魔道具を設置しすぎてもあれなので防止ではなく遅延にしている。


 この魔道具も王都の大商人の倉庫か王の住む城にしかついていないが、知られていないようだ。


 翌日になり、みんなで収穫を始める。かなり広い範囲の畑に野菜を作ったので、街の人総出で収穫を行っても四日もかかった。腐敗遅延があっても四倍ほどしか長持ちしないので、大半は売ることになりそうだ。


 各街に交互に派遣する奴隷の子たちにもっていかせて、屋敷の腐敗防止倉庫にストックしてもらい、余った分は街で売るようにしてもらった。


 野菜たちの成長速度が異常の上にうまくて大ぶりなので、食材に困ることはなさそうだがあまり作りすぎても困るので、各街の支部と街で消費する分を計算してその倍くらい生産できるように考えてもらうことにした。


 倍にしたのは、もし不作になった場合の時のためだ。後は、保存食に向いている食材や保存食に加工できる食材などを多めに作るのはどうかと提案されたので、もちろんOKをだして計画を練ってもらっている。


 他にも麦系や豆も多く作ってもらうことにした。保存食や豆は、研究も兼ねて食材としての生産枠とは別に作ってもらっている。米の生産が軌道に乗れば主食は問題なくなるだろう。小麦でパンに米で抜かりはない。


 収穫祭でバーベキューを行うためには収穫した野菜だけではだめなので、収穫の終わった翌日にイベントも兼ねて、肉ダンジョン三十一階層へやってきた。今回活躍するのは、この階層にまだ来たことのなかった、年齢の若い戦奴の子達が中心になって狩ってもらうのだ。


 先輩たちに狩り方を教わり、自分たちで創意工夫をしてもらう形にしたのだ。実力が上がって単体のパーティーでも来れるようになればかなりの稼ぎになるだろう。頑張ってもらいたいものだ。


 いつもより上質な肉も準備できたので、その日の午後は加工の作業をみんなで体験することにした。お昼にもっていくお弁当でも人気のホットドックに使うソーセージの作り方をみんなに覚えてもらった。


 この世界ってうまくできてるよな。ソーセージ専用の腸をドロップする羊型の魔物がいるのだ。ドロップした際に地面に落ちてしまうが、それはなぜか羊の皮でできた袋の中に入っているという不思議仕様だ。


 特にホットドックの好きなドワーフと子供たちが喜んで作っている。ドワーフの方は自分たちで独自のレシピを持っているうえに、この街に来て珍しい香辛料が手に入るので色々な工夫をしているようだ。


 野菜の生産が問題なくなったら今度は香辛料や調味料の生産も考えるか。ダンジョン農園からの持ち出しで今は問題ないけど、後々の事を考えると検討すべき課題だな、落ち着いたころに相談してみよう。


 食材の準備も終わり、収穫祭という名のバーベキュー大会が開催される。今回は特別にDPで呼び出した、各種焼肉のタレやバーベキューソースも提供した。大好評だったので、その内自分たちの力で生産できるように頑張ろうという事にした。


 DPで召喚したが、シルキーたちが作った調味料だという事にしたら、ドワーフたちは目の色を変えて作り方聞いてきたしな。後でレシピ召喚してシルキーに翻訳してもらおう。


 そういえば、野菜の成長速度が速くなる理由って何だったんだろう? 大味になるわけでもないしなんでだ? そこらへんは畑を管理してるドリアードに今度聞いてみるか。ダンジョン農園はさらに成長が早いうえにもっと美味いからな。なんなんだろうな?

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