第129話 街のため

 十五日目、特に何事もなく開拓が進んでいる。


「ご主人様! ちょっといいですか?」


 朝食時にスカーレットが急に手を上げて質問してきた。


「まだ海水の湖ができてないからまだ先の話ですが、昆布とカツオは早めに放してほしいです。ご主人様の故郷? の出汁は万能だと思うのです。ここに人が集まる前に準備が始めれたらいいなと思います」


「あーここでは俺の故郷に近い食べ物も多く作るから、それの準備しないといけないな。でも海の管理何て放置して行うのは厳しい気がするから、フィールドダンジョン化してダンジョンコアに循環させるか? ダンジョンにすると海藻とか魚って勝手に増えてくのかな?今度調べてみるわ。


 まぁダメだったらDPの回収は問題ないから、監視する精霊でも召喚すればいいよな。他の三大国にもエリア伸ばしておくか? 最低限のDPだけ残して使っちゃおっか、時間さえあれば取り戻せるもんな。他に何か思いついた人いる? この際だから聞いておきたいな」


 しばらく悩んで、グリエルが手を上げて発言する。


「海水の湖を作るとの事でしたが、海水から塩を作るのって大変なのではないですか? それだけで街の塩全部まかなえますか?」


「あっ、そういえば精製することを考えてなかった。精製法は知ってるから、それに必要な魔導具作ってもらうか。人間の塩の必要量は年間四キログラムあれば足りるって話だけど、それは摂取量の話でだっけ?


 確か俺の故郷で一年で一人が使用する塩の量は、どのくらいだ? 約十キログラムと仮定して、五万人が住めるようにするとすると、年間五〇〇トンが必要か。ある程度余裕をもって作らないとまずいから、六〇〇トン程は予定した方がいいかな? 塩も作り方によって味が違うからな」


 少し悩んでから、


「とりあえず、二種類の作り方で精製しよう。合わせて一日二トンくらい精製できる施設も考えないとな。取り過ぎは良くないけど、少ないと死に直結するからな。塩の精製以外にも干物とか昆布干したり、鰹節を作る所も考えないといけないしな。


 という事で、アリスとライムは魔導具の作成にまわします。魔導具作成の知識のある、シルクちゃんとツィード君も一緒ね。後でどんなものを作ってほしいか教えるからよろしくね。他には何かある人いる?」


 ガリアが手を上げて質問してくる。


「塩の件は解りました。食料の件はどうなんでしょうか? 後は、甘味料とかはどうなりますか? ご主人様たちの食事を食べていて、美味しい食事は心を豊かにすることが分かりました。気になる所ですがどうでしょうか?」


「前にも話したけど、肉・植物・鉱山ダンジョンを今作ってる。で植物ダンジョンに砂糖の原料をドロップするのやハチミツや甘いものを作る魔物を配置する予定。


 他にも温室でサトウキビでも育てようかと思ってるよ。どこまでうまくいくか分からないけどそこらへんは、修正していきながら行う予定。みんなも改善方法あったらどんどん言ってね」


「少し安心しました。塩とかは初めのうちは貯えていく予定ってことでいいんですかね?」


「その予定だね、塩はきちんと保存すれば問題ないしね。まぁ塩を多く精製するのは、醤油や味噌も作りたいからだしね。俺の故郷の調味料はこの街で広げたいと思ってる」


 この発言に、シルキーたちや先輩の娘たちはうんうんと頷いている。俺の故郷の調味料が口にあってよかった。そこまで好きになってもらえるのは嬉しいね。


 まだ話してないけど、食事が豊かになるって意味で植物ダンジョンには、香辛料を落とす魔物も配置している。冒険者がこの意図にしっかり気付いてくれるといいんだけどな。


 とりあえず、今日はこの位のようだ。じゃぁ魔導具作成組と打ち合わせといきますか。


「えっとみんなに作ってもらいたいのは、温度を調整できる大型の釜なんだよね。一度炊き上げたら六十五度くらいで維持できる奴がほしい。大きさは直径一メートル位の半球状のものがほしいな。二〇〇リットルは入れられるサイズだから、一つの窯で四キログラムは塩が取れるはず。


 おいしい塩を作るためには、三日程かけて煮ないといけないらしいから大変だけどね。一日一〇〇キログラムの塩を作るに、二十五個釜が必要で四日のローテーションで作るとして一〇〇個は準備しておきたいな。これは高級な塩として売り出すとか?」


 一呼吸おいて言葉を続ける。


「で残りの分は、海水から水分を飛ばす魔道具を作ってもらいたい。一つでどのくらい作れるかわからないけど、その分個数を置けば問題ないからまずは小さくてもいいから試作品を作ってほしい。


 後、ろ過機もほしいな。これは魔導具である必要はないけど、海水のごみを取り除くシステムだと思ってくれればいいよ。色々注文付けたけどわかってもらえたかな?」


 ざっと説明したが何とか理解できているようだ。要約すれば、加熱とは違う方法で水分を飛ばして、海水の濃度をあげるということだ。方法としては、魔道具を使って海水を冷やし水だけを凍らせるとか、電気分解で水を水素と酸素にすることによって水分だけを飛ばす、などだ。


 地球では現実的でない方法も、魔道具のおかげでこんな無茶な方法でも海水の濃度をあげられるのでは……と思っている。


 そこから応用して使えるようにする予定だ。ろ過機も簡単なごみを取り除くだけのシステムでいいのでそこまで難しくないだろう。


 水運びは、長いパイプ状のものと押し上げ式ポンプの応用でホースみたいなのを作ればなんとかなるかな? ハイテクな物を取り入れすぎてもどうかと思うが、この位ならいいだろう。


 ここの魔導具の燃料は、魔石なので建前上冒険者が来てくれないと稼働できないから、頑張ってもらわないとな。あまり質の良くない魔石でも動かせる、効率のいい魔導具を作ってもらいたいものだ。まぁ初めから高性能な魔導具なんて求められないから、ドンドン改良していってもらおう。


 他にも魔導具とは別に、鰹節なんかを作る小屋みたいなのを準備しないとな。どうやって作るかは調べておいておこう。


「とりあえず、監督として暇そうなガルド君を呼んできておいたから、必要なものがあったらガルド君に頼んで召喚してもらって。最終的には各ダンジョンでとれる素材で作ってほしい。技術はなんとでもなるけど、素材ばっかりはどうにもならない点があるからそこらへんよろしくね」


 まだまだ開発しなければならない魔導具はたくさんあるだろう。個々のメンバーには頑張ってもらわないとな。新しい精霊の召喚も考えておいた方がいいかな。基本はこの街だけで集団が生活できるようにしたいな。

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