第117話 準備完了

 やらなきゃいけない事をキリキリ進めていこう。


 とは言ったものの、何をしなければならないのだろう?


・樹海の中に街を作るので、そこまでのエリア掌握、土地のエリア掌握、土地を物理的に上げる。


・フレデリクの家とリーファスの家を移動させるための土地選び。


・奴隷一家3家族の意見の聴取と対応。


・冒険者ギルドへの下水の管理委託。


・農業ギルドへの水田の使用法などのレクチャー。


・商業ギルドへの米の販売普及のための知識供与。


 基本的にはこんなところだろうか? 細々としたものはたくさんあるだろうが、ここら辺をおさえておけば、次の領主が無能で税金をゴリ上げしない限りは街の人間も困ることは無いだろう。


 あまり時間がある気がしないので、ちゃっちゃと要件を済ませていこう。


 まず初めに、奴隷一家三家族の考えを聞いてみよう。家の主の三人の父親を呼び出す。


「急に集まってもらってありがとう。今日は皆さんにいう事があってここにきてもらいました。先日のケープマインの鉱山の指名依頼を受けて鉱山に向かった際に、国王直轄の兵士に襲撃を受けました。理由は分かりませんが、その兵士たちを撃退したことにより、おそらく国家反逆罪になる可能性がでてきました」


 一呼吸いれて、


「そこで俺たちは、この国を出ることにしました。行先は今のところ秘密です。一緒についてくるのであれば道中でお教えしますが、この街に残る選択をするのであれば教える事は出来ません。なので、一緒に来るか来ないかを決めていただきたいです」


 三人を見ながら、言葉が浸透していくのを待つ。


「時間はあまりないと思いますが、家族の皆さんとしっかり話し合ってほしいです。出発の時期が何時になるかわかりませんが、その時までに返答がなかった場合は強制的にこの街に置いていきます。その際には今使われている家と多少のお金、奴隷からの解放をお約束します」


 俺から話を聞いた三人は呆然とした様子で目をぱちくりさせていた。指名依頼へ行って国王の兵に襲われて、撃退したら国家反逆罪になってしまったと言われれば仕方がないだろう。


 理不尽ではあるが、王権制であれば、王に逆らえば死刑なんていうのも珍しくないわけだ。時間はあまりないがゆっくり考えてもらおう。


 さぁ次だ。農業に強いレミーとジュリエットを連れて農業ギルドへ向う。懐には、付いて行きたいと駄々をこねたツィード君とシルクちゃんが、ちっちゃなサイズになって入っている。


 ここですることは稲の栽培方法を職員に覚えてもらい、俺たちがいなくても水田で作物を育てられるようになってもらう予定だ。


 あんまり公にできない事情があるので、ギルドマスターに口止めをして状況を説明した後に、俺の提案を受け入れてくれるならレクチャーをしていこう。もし受け入れてくれないのであれば、農家に直接話を通して水田を有効活用するしかないだろう。


「という事でギルドマスターに来てもらったのだけど、俺の提案は受けてもらえるでしょうか?」


「ちょっと待ってくれ……冒険者ギルドの指名依頼をしに行ったら、襲撃を受けて撃退した者たちが王直属の兵士だったというのか? その兵士の言によると、国家反逆罪にされる可能性が高いだと……なんという事だ」


 ガッチリとしているが若干頭の薄くなっているギルドマスターが、乱暴に頭を掻きむしりながら唸っている。そんなに搔きむしったらはげるよ?


 しばらく悩んだ末に、


「すまないが、君の言っていることが本当なのであれば私は協力することはできない。君には塀を作ってもらったり、水路を作ってもらったりした恩がある。恩を仇で返したくないので、すべて見なかったこと聞かなかったことにさせてもらいたい。あなたがこれからどんな道を行くのか分かりませんが、幸運のあらんことを」


 ここは駄目だったか、塀を作った時に知り合った農家に行って話をするか。


 記憶を頼りに農家の家を訪ねた。もちろんお土産のお菓子を持参してだ。もちろんDPで出したこの世界では作られていないものだ。といっても、ポテトチップスなんだけどね。袋から出して、この世界にある湿気に強い容器の中にたくさん入れて持って来たのだ。


 農家の人は、俺の話を聞くやいなや近くの農家さん達を集めてくれた。集まってもらった農家の人たちに、水田の使い方、稲の栽培法をレクチャーし一応紙に書いた説明書もつけておく。


 ただ俺たちも全部を知っているわけではないので、試行錯誤してほしいと伝える。最後に種籾を大量にお渡しして健闘を祈った。


「ふ~次は、商業ギルドかな? 思ったより大変だったな。でも農家の人たちは熱心でたすかったよ」


「そうですね、ご主人様。時間はあまりないと思いますが、思い入れのある街とのことですのでできる限りの事をいたしましょう」


 ジュリエットの返事を聞きながら、気合を入れなおして商業ギルドへと向かう。


 商業ギルドでは、主に米の食べ方の普及と販売だろう。農家に教えてきたので、数年のうちにある程度の収穫が見込める事と、さらに収穫を多くするために人力の水田の作り方と、魔法での作り方を教えておこう。商人ギルドから農業ギルドへってことにすれば、あのおっさんも何とかするだろう。


 それもこれも受け入れてもらえないとどうにもならんのだが、金になる事なら引き受けてくれるだろう。


「という事で、どうですかね?」


「苦労されたんですね。まぁ私たちには問題ないですね。食事が豊かになるのであれば、むしろ協力すべきだと考えてます。農業ギルドは単体で力を持っていませんので、踏ん切りがつかなかったところはあると思いますが、我々商業ギルドはお金を握っていますからね。多少強くも出れるってものです」


 快く許諾してもらい、水田の作り方をレクチャーし、稲からの脱穀、精米などの方法と道具等の使い方や作り方を説明し、精米したお米を炊いたりおかゆにしたりと幾通りかの食べ方を紹介してギルドを後にした。


 最後に冒険者ギルドか、おそらく今回の指名依頼も全く知らずに、俺に依頼してきたのだろう。街の下に空洞を作れるだけの魔法を使えて、戦闘力のある集団ってことで選ばれたはずだ。もし関係していたのならスライムの餌にでもしてやるけどな。


 冒険者ギルドに着くとミリーが俺の事を待ち構えていた。腕をつかまれギルドマスターの部屋まで連行された。


「ケープタウンではそういう事があったんです。まさかと思いますがかかわっていませんよね?」


 鉱山で起こったことをすべて話し、ギルドマスターに質問する。


「今回の事は本当に何も知らなかったんだ、許してほしい。まさか国が落盤事故を起こして、王都の冒険者ギルドからここに連絡をよこしたのはそういった裏事情があったのか? もしかしたら王都の冒険者ギルドも知らなかった可能性が高いか?」


「マスター、今考えるべきはそこではありませんよ! 立て続けに指名依頼で不利な状況におとしいれてしまった償いをするべきです」


「ミリーさん、償いは必要ないですよ。もうこの国にはいられなくなるわけですから、償いをしてもらったところでどうにもならないので。ただギルドマスターには、一つだけ魔法を受け入れてもらっていいですか? 呪いとかそういった類のものではないので、後遺症はありません。真実が知りたいだけなのです」


「隠してることは一切ない、身の潔白を証明できるのであれば、なんでも受け入れよう」


 懐にいたツィード君にチャームをかけてもらい、同じ質問をしたが本当に知らなかったようだ。


「今回、冒険者ギルドは白でしたので問題ないでしょう。下水の管理お願いしますね。しっかりと領主になる人間から、管理費の名目で金をとるようにしてくださいね。では失礼しました」


「シュウ君まって! あなたたちはどこへ行くの?」


「この国の外ですよ。正確な場所は情報がもれると困るので、教えることはできませんが、少なくともこの国よりも安全だと思う場所へ向かいます」


「ギルドマスター、私はギルドが信用できなくなりましたので、職員を辞めさせてもらいます。シュウ君、私も一緒にその場所へ連れて行ってもらえませんか?」


「ちょっとミリー君! やめるってどういうk『あなたは黙っててください。私はシュウ君と話をしているんです』」


「ついてくるとなると、身の保証もできませんし、後にはひき返せなくなりますよ?」


「シュウ君、初めて会った時の事覚えてるかな? 私嬉しかったんだ。それなのに私たちは、そんな君に失礼な事ばかりしてきたの。償わせてほしいの」


「ミリーさんに償っていただく必要は無いですが……その様子だと、駄目だと言っても意地でついてきそうですね。分かりました、この腕輪をお貸しします。その中に入る分の荷物をもって、家に来てください。では今度こそ失礼します」


 ストックとして召喚しといた収納の腕輪をミリーへと渡す。


 家に帰る間に樹海のエリア掌握をしていく。かなり広いため今のDPで全域を掌握はできないので、中心と言われている樹海の山の麓まで掌握し。山の近くに発見したことにするダンジョンの設置予定場所を考え、そのダンジョンの入口を街の最南としてリーファスの街の大きさ程のエリアを掌握する。


 DPを使って地面をそのまま十メートル程盛り上げて、とりあえず完成。一番端は崖ではなく急勾配の坂みたいな形にしてある。その他の設定は現地に着いてからしよう。


 家に到着すると娘たちの準備は終わっていた。

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