第97話 帰還

 盗賊と勝手に認定した十三人をロープで簀巻きにして、馬車に引きずらせてフレデリクの街へ連れて行く事にした。ロープが切れたらめんどくさかったので、俺が革細工を上げる時に失敗して廃棄する予定だった、ボロボロの革を巻き付けて引きずることにした。


 馬車を引くスピードが若干遅くなったので、ウォーホースのLvを一五〇まで上げちゃった。大分あげすぎてしまったようだ。Lvを上げる前に馬車だけをひいていたスピードより、明らかに早く馬車が走っていた。


 盗賊たちにはさぞかしきついだろうな、襲ってきたお前らが悪いから手加減しねえけどな!


 フレデリクの街まで一気に駆け抜け、門番に事情を説明して牢屋まで引きずっていった。牢屋につくと奴隷の付ける首輪と同種の首輪をつけられ牢屋に放り込まれた。


 よくわからないが、門番たちはかなりびくびくした様子で終始対応をしてきた。何度か顔を合わせた事がある仲なのに少し寂しいじゃないか。


 盗賊の犯罪者どもを引き渡してから、ピーチ以外には屋敷に帰って昼食の準備をするようにお願いしてから冒険者ギルドへ向った。


 昼を過ぎたくらいであるため、この時間にいるのは駆け出しの冒険者がほとんどだ。駆け出しの冒険者は、簡単な依頼を午前午後で受けるため、昼食の終わったこの時間あたりから午後の依頼を受けに来ることが多いと聞いた。


 混んでいるという事もなく、受付は空いていた。ミリーさんもいるようだったので声をかける。


「え? シュウ君? 戦争中じゃないの? 何でこんなところにいるの?」


「えっと、戦争は昨日のうちに終わりました。今日はその報告とお金を返してもらいに来ました。これが、今回の戦争の書類です。確認してください」


「本当に戦争が終わって、その勝者がシュウ君になってますね。それに、この魔導具を使っているという事は、偽証も不可能なので真実でしょう。ですが、私だけで判断出来ませんので、ギルドマスターを呼んできます」

 

 バタバタ階段を上がっていくミリーさんを眺めながら、なんであんなに慌てているんだろうと首をひねっていた。


 しばらくすると、ギルドマスターがこれまたバタバタと階段を下りてきた。何にそんなに慌てているんだろ? 転ばないといいな。俺のところまで一気に距離を詰めてきたので、ピーチとレイリーがさりげなく、俺とギルドマスターの間に入ってきた。


 ギルドマスターが、はぁはぁ息をしながら


「シュウ君、戦争がもう終わったって本当かね?」


「本当ですよ? ここで嘘をつく理由は俺にはないですし、これが書類です」


 ギルドマスターは、戦争に参加した両街の貴族と俺、真紅の騎士団のライルのサインが入った書類を見て、ワナワナと震えていた。また俺を見てちょっと奥に来てくれ、と前に使ったことのある部屋に通された。


「書類が本物であるのは見ればわかる。が解せない事もあるので、確認のために色々聞かせてもらってもいいだろうか? 初めに、昨日戦争が始まったはずなのに、君たちがここにたどり着いている事について、詳しく教えてもらっていいかな? あの戦場からこの街までは、馬車でも休みなく走らせて二日はかかるはずなのだが」


 質問があると言ったギルドマスターに質問を許可すると、ここまでたどり着いた時間に疑問を持っているようだったので、


「えっとミリーさんは知ってると思うけど、うちの馬車に使ってる魔物はウォーホースと言って、力とスピードと持久力が馬と違って格段に高いやつを使っているんですよ」


 ミリーさんが首を縦に振り俺の発言を肯定している。


「そ、そうか。では昨日始まった戦争に参加していたはずの君が、ここにいる理由は分かった。勝ったからだという事も分かったが、戦争は大体一週間以上かかることが普通なのだが、戦場でなにが起こったのだろうか? いくらAランクに近いと言われる君たちでも、一日で終わることは不可解なのだが」


 戦争で起こったことをありのままに伝えると、ギルドマスターが眉間を押さえて悩む仕草をする。しばらくたってギルドマスターが今回の事が如何に非常識かを説明してくれた。


 要約するとこんな感じだ。


・貴族たちのくだらない口上戦は、よほどのことがない限り初日はそれでだけ終わる事。


・本来、Aランクのパーティーが三つ集まっても、両軍合わせて1500人を超える戦争で、皆殺しならともかく死人が出ない様に一日で制圧しきることはまず不可能だとの事。


・戦争が終わってることもあり得ない事だが、貴族以外が戦争に勝ってなおかつ勝者の権利として与えられたものを、ほとんど放棄しているこの書類


 ギルドマスター・・・あんまり熱く語ってはあはぁするのはやめてくれ。ほとんど放棄していると言っても、街の権利は俺の手の中だぞ。そこ重要じゃないか?


「と言われましても、実際に戦争が終わってこの条件で書類ができているわけですから。そだ、冒険者ギルドから貴族の財政監視の件を商人ギルドに打診できませんか?」


「どういうこと?」


 今回の勝者の権利として書類に書かれている内容を、ギルドマスターへ詳しく説明する。


「そういう事か、貴族にとっては屈辱的なことかもしれんが、住人にとってはいいことが多いかもしれないな。それに商人たちの中には、貴族共に苦労しているやつが多いはずだから、断られることは無いのではなかろうか? よし、こっちから話を通しておこう」


 やっぱり商人の中には苦労している人たちがいるんだな、メルビン前男爵は特に迷惑な事ばっか言っていたんだろうな。おっと、ついでにリーファスの冒険者ギルドにも同じことを伝言してもらおう。という事で、よろしく頼むよギルドマスター! 嫌な顔するなって!


 そういえば、預けていたお金を受け取りに来ていたんだった。早くもってきてくれよ。


「それなのじゃが、お主たちが戦争に勝ったのは疑う事の出来ない事実なのだが、貴族たちが帰ってくるまで渡せない事を了承してほしい。嘘でない事は重々承知してるのだが、男爵から預かっているお金の事もあるのでしばらく待ってほしいのだ」


 どうやら貴族たちが帰ってくるまでお金は受け取れないようだな。なくなるわけじゃないから、また今度でいいか。ミリーさんとギルドマスターは申し訳なさそうに頭を下げてくる。とりあえずわが家へ帰ろうか。


「「「「「「「「ご主人様お帰りなさいませ」」」」」」」」


 うん、いつも通りどうやって俺の帰りを察しているか全くわからんが、声をそろえて俺を出迎えてくれた。


「ただいま、いつもありがとな。自分の家に帰ってきた感じがするな」


 誘導に従って、シルキーたちと一緒に用意してくれた昼食をみんなで食べる。さて、食事も終わったしすべきことがある!


「みんな、お疲れさま。帰ってきて食事も終わったのでやることはただ一つ! お風呂に入ってさっぱりしてこい! こらクロ待てって、ニコとハクも落ち着け!」


 うちの従魔たちはお風呂が大好きなのだ。入れるとわかると食堂を出て、お風呂場に向かおうとしているので慌てて落ち着くように命令する。ギンは止める前に食堂を出ていた。


 みんなは、食事の片付けが終わったら入るみたいなので、先に俺専用の風呂で入るかな。クロとギンは、地味にデカいから洗うのが大変だけど、体を洗ってもらうのは好きで大人しいのが救いだろうか。


 当たり前のように湯浴み着を来て入ってきているカエデと協力して、従魔達のシャンプーを終わらせてサウナへゆっくりと入った。

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