第98話 平和な日常

 街に帰ってきて数日、まだ貴族たちの軍は帰ってきていないようだ。戦争の時にかなり悲惨な状況になったからな、PTSD『心的外傷後ストレス障害』になっていて、行軍が遅れてたりしないだろうか?


 命の軽い世界では、人死に対して思うことは少ないだろうが、一方的に蹂躙されたら、精神的に病む可能性はあるだろう。強く生きてくれ、兵士と冒険者の諸君!


 特に何もなく数日過ごしていたので、かなり暇だった。まぁ暇にものを言わせて、キン○ル先生こと、ブッ君に入れておいた十五巻程のファンタジー小説を、がっつり読んでたけどね。


 そんなことはいいとして、時間が余っているのだからこんな時には街の散策をするのもいいかもしれないな。


 独りで外に行くとみんなから正座を言い渡されるので、誰か一緒に行けそうな娘を探すか。中庭の俺の特等席の椅子から立ち上がると、


「とぅ! 一番!」


「むぅ、また負けた」


「「あ!(ん!)ご主人様!」」


 何かを思い出す光景を見ていると、シェリルとイリアが近付いてきて抱き着いてきた。俺はロリコンじゃないからな! 誰に向かって弁解してんだか……


 二人の頭をぐりぐりと撫でると、シェリルはやめて~と言いながら喜んでいる。一方イリアは、むぅ! と言っているが、笑顔が見られるので二人とも嫌がってはいないようだ。


「そうだ、今から街に出かけようと思うんだけど、二人は暇かい?」


「うん!」「ん!」


「よし、じゃぁ今から散歩に行こうか。街の畑とかも見てみたいから、街の外にも行くよ!」


 俺の話を聞いた二人は、お散歩お散歩とはしゃいでいた。今言ったように街の中を散歩した後、畑を見に行く予定なのだ。ちょうどいい魔法のつかえるイリアがいるのは都合がよかった。街の外で少し実験もできるしな。


 でも、二人は農作業か牧畜をしたのか少し服が汚れていた。着替えるように言うと、タッタッタと音がしそうな走り方をして着替えに行った。


 しばらく玄関で待っていると……君たち、なんで戦闘メイド服なの? 散歩に行くのだからてっきり最近あげた服を着て来るかと思ったのだが。


 あげた服を着てこなかった理由を聞くと、シェリルが『ご主人様と外に出かける際は、メイド服じゃなきゃいけないの!』と。


 そういえば、今まで外に一緒に出る時に着いてきた服って、冒険関係でなければ全員メイド服だった気がするな。そういう事だったの、か?


 身の安全って意味では、戦闘メイド服がガチ装備以外で一番防御力が高いからいいんだけどな。特にシェリルは非殺装備で作ったグローブをつけていた。何も持ってないイリアを見習……えぇぇっ!? イリアの手を見ると、魔法発動媒体の腕輪をつけていた。


 収納の腕輪とは別の腕に、魔法をいつでも発動できるように腕輪をつけていたのだ。確かこの戦闘メイド服には、見えにくい位置に短剣もあったはず。護衛なのでこの装備は譲れないのです! と言われてしまえば、俺は何も言えなくなってしまった。


 メイド服と武器を装着していることを除けば、かわいい妹と散歩をしていると思えるのだ、我慢しろ俺! って一人っ子だから兄弟はいないけど、こんな感じなのかな?


 戦争が始まる前も終わった後も、大して街の雰囲気は変わっていなかった。負ければ色々あるだろうが、自分たちには何もできない事として認識しているようだ。


 日本でいうところの地震だろうか? そんな感じの天災扱いに近い気がする。そう言っても、日本ではきちんと地震に備えている所もあるし、震災があればボランティアだって集まるから、一概に一緒とは言えないだろうけどね。


 戦争前に上がっていた食料の値段が、さらに少し上がっている気がするな。誰か一組に食料を買い出しに行かせて様子を探るか? 現状で奴隷の首輪つけたまま主人がいないと、問題が起きるかもしれないか?


 俺もついてけば何の問題もないじゃないか! なんでみんなだけで行かせるような事考えてるんだ。考え事しながら歩いていたためか、歩くのが遅くなっていたようだった。


 手を繋いでいた二人にどうしたの? といった感じで心配されてしまった。ちびっこ達に心配させてしまったな。これは帰ったら、ピーチやレイリーに相談しよう。


 手を繋いでルンルン気分のシェリルとイリアは、何が嬉しいのかずっと笑顔で俺と一緒に歩いている。特に変わった所もなかったので街の外へ出ることにした。


 今は秋みたいなので、ちょうど収穫の最中の畑が沢山あった。休憩していた農家さんに色々話を聞いてわかったことがあった。


 街を見ていてわかっていたが、畑は城壁の外にあって簡単な柵はあるが壁の様なものがないため、夜に魔物や盗賊が盗んで行くことがあるらしい。


 水源も遠くて結構苦労しているようだ。収穫量は上々のようで、しばらくすれば食糧の問題は解消されるらしい。でも、これから冬になるからある程度の備蓄がないと、トラブルは起きるかもしれないね、と。


 冬に入ったらフレデリクの農業改革の準備をしよっかな? リーファスもしないといけないな。


 という事で、イリアに実験に付き合ってもらおう。ダンジョン内ではノーマンとドリアードたちが全部やってくれるから、どれくらい大変な事かわかってない。この際にきちんと試しておこう。


 少し街から離れて実験によさそうな二十メートルの穴を掘っていた。お前さん器用だな。俺はシェリルの掘ってくれた穴を利用してクリエイトゴーレムを使って表面を滑らかにしてハードニングを使ってみた。


 おろ? ハードニングがかからないな、魔法の効果が重複しないって事かな? なら、滑らかにする時にハードニングと固くなるようなイメージをしてみるか。


 できたけど、硬さが違うかなんて触っただけじゃ判断できねえな。ここはシェリルに殴ってもらうか、殴る場所を指示して思いっきり殴ってもらった。


 硬さやハードニングを意識して使った、クリエイトゴーレムの穴の方が圧倒的に硬かった。イメージして作れば、ある程度の効果が乗るのかな? そういえば亜人の森で会ったゴーレムたちは、切り傷みたいなものなら普通に治ってたっけ。


 クリエイトゴーレムを使う際に形を維持するイメージを組み込んで、魔核でもつけたら壊れても治ってくれるんじゃねえか? ここら辺は今度実験すればいいか。


「二人とも手伝ってくれてありがとな、最後にイリアにはもう一回精霊魔法を使ってもらっていいかな? 畑を耕すイメージをここら辺に向かって使ってもらいたいんだ。一辺が十メートル位の広さにかけてくれ、失敗してもできなくても問題ないから試しにやってみて」


「ん!」


 イリアが精霊魔法を詠唱したのを見て、反対方向に向かって俺も土魔法を使ってみる。俺がイメージするのは、畑じゃなくて水田だ。水田でお米を作るなら連作障害は無いって聞いた覚えがある。


 それにお米をこの世界でも増やしたいじゃん? この世界で受け入れられるかはわからないけど、台風は来ないようだし、気候的には日本っぽいところも多いから試験的にやってみるのもいいよね。


 あ、ちなみにダンジョン農園にはすでに水田があるよ!


 結果は良好だな。畑も水田も問題なく魔法でそれっぽいことができた。後で農業の本でもDPで召喚して、ノーマンやドリアード達に読んでもらって、必要そうな対処法を考えてもらおう。


 魔法でなら簡単かもしれないけど、農家の人は魔法なんて使えないからな、魔法が無くても対応できるようにしておかないとな。


 水路と畑は問題ないな。後は、街の中の衛生面をどうにかしたいものだ。それはまた今度考えよっと。


 二人の頭をぐりぐり撫でてからお礼を言って、手を繋いで屋敷に帰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る