第96話 不穏な空気

 騎士団の人たちは、娘たちに出してもらった軽食をがっつり食べてから行動に移った。それをみて俺たちも帰る準備を始める。まずは机やイスを収納にしまい、天幕を片付けるように指示する。


 おっと、そういえば武器防具を返すの忘れてたな。


 両軍の団長のもとを訪れて、回収した装備を一ヶ所ずつにまとめて放置する。後は、兵士たちの監視のもと装備を返すように命令をする。おそらくトラブルはあるだろうが、装備が帰ってきたことを喜べ。


 返す前にきちんと、『善意で装備を返す』旨をしっかりと言い含めることも忘れない様に命令する。戦争終了後、傷を回復したのも俺たちだという事を伝えてもらう。


 両軍から離れてしばらくすると、歓声が聞こえてきた。おそらく武器防具が返してもらえることに対しての歓声だろう。実際に自分のものが帰ってくるかは運次第な所もあるが、がんばれ!


 天幕へ戻るともうすべてが撤収されて、ウォーホースに馬車がつながれていて出発するだけになっていた。みんなも準備万端で待機していた。


 今回は、年中組の馬車に便乗する形で出発する。乗る前に氷魔法を応用した冷却魔法を使って、冷やした飲み物を準備してくれていた。もちろん紅茶だったが、ほどよく甘く美味しいミルクティーだった。


 ちなみに飲み物を入れてくれていた物は、DPで召喚した魔法瓶の水筒だ。よく考えると、こういったこまごましたものを結構召喚している気がするな。


 DPは貯まっているので何の問題もないけどね。ちなみに、水筒は全員分召喚しているよ! 俺の分だけ召喚してるわけじゃないからね!


 馬車に揺られていると、クシュリナとチェルシーから今回の戦闘では消化不良といった発言が聞かれた。今回敵になったフレデリクとリーファスの兵士や冒険者で、娘たちよりレベルが高かったのはリーファスの団長だけ。それでも装備の性能の差で、一対一ならほぼ負けは無かっただろう。


 その団長は、マリアの弓に不意を突かれて即離脱していたため、戦うことができずに肩を落としていたための発言だろう。


 突然マップ先生から警報が鳴った。俺にしか聞こえなかったため声を出して驚いたのを、娘たちが不安な様子で見ていた。


「ごめんごめん、マップ先生の警報の様なものが、急に鳴ったからびっくりして声が出ちゃったよ。マップ先生って警報が鳴るんだな。今までで初めてだから、心臓が飛び出るくらい驚いたな。何で鳴ったんだろう……あ~、十キロメートル先位に敵の赤いマークが表示されてるな。


 盗賊かな? 検索結果に人間種と出てて、マップ先生が敵判定してるから敵なのは間違いないと思う。でも注目すべきは、レベルが一〇〇超えている奴が三人もいるな。他に十人ほどいて全員が五十くらいはレベルがあるね」


 俺の話を聞いたクシュリナとチェルシーが目を光らせてこちらを見ていた。どうみても戦いたいと言っている目だった。おぬしたちや、いつからそんなに好戦的になったんだい? お爺さんはびっくりだよ。


 さて、敵判定の出ているやつらの近くを通るのもなんだかな。先頭を走っている年長組の馬車に進路の変更を指示する。やつらが待機している五キロメートル程離れた道を通るようなコースを進んでいく。進路を変えてしばらくすると、やつらも俺たちの進路に合わせて移動していた。


 俺たちを狙った奴らなのか、ここの付近を監視してて俺たちがたまたま通ったからなのか? どっちにしても今のところ狙われている事には変わりないな。一キロメートル程進んだところに簡単な広場があったので、休憩という名の様子見をしてみるか。


 無線を通して全員にその旨を伝える。そうすると簡易的に天幕もはりましょう、と話の流れになりサクサクと準備が進んでいく。


 どうやってこっちの場所を確認しているか不明だが、あきらかにこちらを捕捉している動きだ。俺たちが天幕を張り休憩をしているフリをしていると、斥候らしき人物がこちらの様子をうかがいに来ている。だけど、二キロメートル程離れている所でこちらを偵察できるのだろうか?


 何かの魔導具を使って監視している? スキルだろうか? 宝珠に望遠や千里眼的なスキルは無かったはずなんだが?


 さてどうしたものかな? みんなに聞いてみるか。


「みんなちょっと聞いていいかな。今さっきも少し話したけど、この道の先にマップ先生が赤表示して敵と判定している一団がいる。どうしたらいいか迷っているんだけど、何かいい案あるかな? こっちから下手に手を出すと、犯罪者扱いされたりしたらめんどくさいし、どうしよっかなってとこだ」


 ライラが手を上げたので意見を聞いてみる。


「私とソフィー、マリーがいって暗殺してくれば、それで何も考える必要は無いかと」


 おぃおぃ、物騒な発言だな。戦闘能力が高くなってみんな好戦的になってないか?


「暗殺は無しの方向で」


「ご主人様、こちらから先手を打てないのであれば、取れる行動は少ないと思われます。野営をして向こうが諦めるのを待つとか、このまま進んで襲ってきたところを返り討ちとか、ここで手を出してくるのを待つとか位だと思います」


 確かにどうするか迷ってたけど、とれる行動ってこの位しかなかったな。ダンジョンを作って雲隠れするのは、少しリスクが高すぎるだろうから、やはりこの位だろうか。


「確かにピーチの言った通りだな。取れる行動は多くなかった。ここで野営すれば、夜とかに襲ってくるかな? 今日はここで野営して、襲ってこなかったら街に向けて出発し、手を出してくるのを待つ感じでいくか」


 全員が了解の意思表示をして、野営なら食事がなどと言い出して食事の準備が始まった。天幕も野営用にしっかりと張り直しされ、テーブルやイス、俺が使うためのベッドまで準備された。


 滞りなく食事の準備も終わり、食事まではまだ早かったのでこの先の話を決めていく。今回は夜間の襲撃を想定しているので、夜目の利くハク・ギン・クロ・リビングアーマーを見張りに回すことにしよう。


 敵の接近を感じたら起こしてもらえばいいだろう。と話していたらニコが俺の足元から上ってきて、触手を器用に使って自分の事を指していた。自分も使ってくれって事なのだろうか?


 そういえばスライムってどうやって獲物を見てるんだろう? 色々考えてもしょうがないのでニコにもお願いしたら、○を作ってプルプル震えていた。


 今夜の方針も決まり食事の時間をみんなで楽しんでからはやめに床へつくことに。


 食事を食べている間もマップ先生で相手の状況を確認していた。斥候らしき人物が本隊へ戻って俺たちとの距離を詰めてきた。この様子なら夜に襲ってきそうだな。これなら返り討ちにしても特に問題ないだろう。


 全員が就寝について四時間ほど経った頃に、ハクが俺の事を起こしに来た。クロとニコが見当たらなかったので、みんなを起こしながらマップ先生で二匹の位置を確認する。


 敵の後ろに回り込んで待機している様子だった。お前たちや、何をしておるんだい? この間にも敵が距離を詰めてきて、天幕から二〇〇メートル程のところまで来ていた。


 斥候の三人もいつの間にか天幕から出ており、ニコやクロと同じように死角から忍び寄っていた。


 行動が早いな、攻撃されてもまずダメージにならないリビングアーマーたちに、先陣を切ってもらおう。攻撃を確認したら一気に制圧、殺しは無しで全員街まで連行する予定だと無線で伝える。


 リビングアーマーの死角(気付いているけどワザと)から攻撃を仕掛けようとしている、今回の敵の中で注意が必要な三人、レベルが一〇〇を超えているやつらだ。


 攻撃を誘われて、全力で攻撃を仕掛けた。が鎧に武器がはじかれ手放していた。攻撃が確認されたので、戦争にも使っていた非殺武器での制圧が始まった。


 戦争で消化不良だったチェルシーとクシュリナは、夕食の時にみんなにお願いをして、レベル一〇〇を超えている三人を、相手にさせてもらえるように話をしていた。


 リビングアーマーと入れ替わりで現れた二人の少女を見て、三人は獲物が自分から出てきたとにやにやしていた。お前たちリビングアーマーにダメージを与えられてない事を忘れてないか?


 そんなことを考えている間に、クシュリナが上段から振り下ろし地面を強く叩きつけると、地面の土や石がはじけ飛び敵に襲い掛かる。これではダメージを与えられることはないが、チェルシーの攻撃の布石だった。


 スピードを活かし目くらましをした瞬間に行動を開始して、死角から一気に距離を詰めた。非殺武器で二人は頭部を強打され昏倒したようだ。非殺武器とはいっても下手したら死にそうな攻撃だよな。


 呆気に取られていた残りの一人に向かって、クシュリナが距離をつめて武器をふるっていた。漫画の様に吹き飛ばされ、地面に頭から刺さっていた。あいつ死んでないよな?


 おっと? この間にレベル五十台の十人の半分はニコに無力化されていた。何で半分かわかったかといえば、ニコが絡みついて縛り上げていたからだ。お前ってそんなに大きくなれるんだな、知らなかったよ。


 残りの五人も、マリー・ライラ・ソフィー・クロ・ギンに無力化されていた。みんなの活躍見逃しちゃったよ。


 戦闘の終わった、クシュリナとチェルシーは弱すぎて面白くなかった、と愚痴をこぼしていた。もうちょっとおしとやかでいてほしいな。

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