第86話 現状報告

 娘達を落ち着かせるというか、沈んだ気持ちを上げるために一週間もかかった。


 仕事を完遂できなかったって言われて、何のことか初めは理解できなかった。みんなはこのダンジョンを攻略することが、俺から依頼されたことだと思っていたらしい。その誤解をとくために一日を費やした。


 俺がみんなに依頼したのは、ダンジョンの性能評価であって、ダンジョン攻略じゃない事を必死に話した。なかなかみんなに理解してもらったんだよ……


 でも、全階層の評価ができなかったことに気付かれてしまい、また沈んでしまったのだ。沈んでいても普通にメイドとしての修行やダンジョン農園でしっかり働いているから、正直胸が苦しかった。休んでほしいと言っても、聞いてもらえなかったのだ。


 だから、夜はできる限りみんなと過ごしてゲームしたり、アニメのDVDを見たりして楽しんだ。そのおかげか一週間で何とか本調子くらいまで戻ってきてくれたのだ。その中でシェリルとイリアは、三日目位には今までより元気になっていたけどね。


 俺のことをお兄ちゃんみたいだと言って慕ってくれるから、ゲームする時やアニメのDVDを見る時に膝の上に乗せたり、股の間に入ってきたところを後ろから抱っこしてあげたりしたら、すっかりご機嫌になっていた。


 他のみんなもチラチラこっちを見てきていたので、おいでと呼んでも恥ずかしがって来てくれなかったのだ。若干しょんぼりした気分になったけど、歳を考えたら恥ずかしいのは分かる気がする。


 ここ最近、農業や畜産しかしてない気がするな。おっといけない、生産系も鍛えてるぞ! やっと革加工と木工がLv四になった。やっとというほど時間は経っていないが、高ランクの素材を気にせず使えるので、どんどん経験値を得られるのだ。


 しかも、ダンジョンの中に工房を作ったため、戦闘スキルやレベルの経験値と一緒でブーストがかかるようで、ここまであげれたのだ。ちなみにこの世界では、普通の人がこのLv四まで来るのに十年はかかるといわれている。


 一人前と呼ばれるのがこのあたりのLvで見習い時代が十年も続くので、職人はなかなか数が増えないのが現状だったりする。もっというとLvが五になると、ある程度のランクの素材を使わないと経験値が得られないため、さらに上げにくくなってしまうとの事。


 ちなみにこの辺の情報は、あのチビ神が書いた【これでYOUもスキルコレクター】に書いてあったのだ。


 生産系はDPで上げられない事や、素材のランクが高い物を使うと得られる経験値が増えるらしい、生産系は失敗しても経験値がもらえることがばっちり書かれていた。しっかり読んどけば初めに娘たちに説明できたのにな……


 そういえば最近、自分たちで調味料を作っている。この世界のものだけで作った調味料を作りたい、と言い出したシルキーたちが主導して作り始めたのだ。


 質の高い大豆を大量に準備して、塩は大量に購入すると市場の役人に目をつけられてしまうので、DPで色んな種類の塩を準備した。他にも、ダンジョン海があるので窯で煮て塩を作る方法や、藻塩を作って色んな塩を準備した。


 大豆と塩ということで大体作るものは分かるよね、醤油と味噌だ。シルキーたちは俺の知識を刷り込まれているから、日本料理を作ることが好きなのだ。ただ、娘たちがいるのでがっつりした日本料理はあまり多くない。俺が希望を出した時くらいじゃないだろうか?


 でも、お米も味噌も醤油も娘たちは喜んで食べてくれる。そもそも奴隷商にいるときは、満足に食べられなかったため好き嫌いは無いが、この国の食事と日本の食事は違いすぎて似ている料理が基本ないのだ。大きな理由は調味料の違いなんだが。


 ちなみに、麹菌はDPでだしてます。だって、この世界にそういうのが無かったんだもん。


 醤油や味噌は作るのに時間がかかるので、長い時間をかけて気長にやるのかと思ったらスカーレットにお願いされて、闇の下級精霊を何匹か召喚した。こいつら、魔法で腐敗とか熟成とかを使えるのだ。


 この世界には時空系の魔法が存在していないため、腐敗や熟成は闇魔法の分野らしい。それで醤油や味噌の番をさせながら、熟成を加速させてと便利に使われていた。闇の下級精霊たちは、約一日で一ヶ月分の熟成を加速できるようだ。


 最低限の物であれば、一週間もあればできてしまうのではないだろうか? まぁいろいろ試すんだろうな、本で得た知識しかないわけだから、試行錯誤して喜々として頑張るのだろう。料理に関わってるときのシルキーたちは、正直怖い程の熱意を向けて頑張るからな……


 ちなみに俺が革加工と木工を取っているのには、しっかりとした理由がある。革加工は、娘たちの装備の強化のためだ。カエデもできない事はないのだが、縫製と鍛冶を中心に上げていたので革加工は得意分野ではないからだ。


 そもそも、革加工スキルを上げるのは色々と面倒であるため、鍛冶以外で比較的素材の手に入りやすい縫製の修行をしたようだ。魔物のドロップで革は思ったより数が出ないため、大きな工房でお金のある所が一括で買い上げる事が多いんだとさ。


 高級であるが、革加工で作られた防具は素材によっては、普通の金属プレートより優秀なものが多くあるのだ。大きな工房に頼んでもいいのだが、可愛く作ってくれなどと言ったら、依頼すら断られる可能性が高い、自分で娘たちの装備は作ってやろうと思ったのだ。


 次に木工を上げている理由は、世界樹が自分自身を勝手に剪定し枝を落とすためその枝の有効活用を考えて上げているのだ。さすがに、木工Lvが低いことと加工に必要な道具がないため、今のところは作る事が出来ていない。


 世界樹は頑丈なので、模擬戦用の武器として加工もするつもりなのだ。木刀・木剣・木槍・木盾等作って切り傷にはならないが、ある程度本気を出せる武器が完成する予定だ。


 他にも杖や弓も金属で作ることは可能だが、杖を金属で作るためには魔導金属であるミスリルを含んだものに、エンチャントをかけながら作らなくてはいけないのだ。熟練したドワーフの鍛冶屋にでも頼まないと、その加工は非常に困難なのである。


 カエデもまだミスリルを加工するだけの技術は無く、杖を作る事が出来ないのだ。


 杖を木で作るのは、魔導伝導率と収束率が高い素材が多くミスリルに比べれは加工しやすい。ただ、世界樹が加工できて杖にできるのなら、素材としては最上級の木材となる。


 杖の性能を上げるためには、宝石類を特殊加工した魔導収束石を杖の素材に合わせることで、効果をさらに上げることができるらしい。


 そんなこんなで俺は、自分の防具・娘たちの可愛い防具・模擬戦の武器・杖や弓、武器の柄などの加工のために、革加工と木工をちまちま上げているのだ。スキルが上がったことによって加工できる素材のランクが上がったので、失敗を繰り返しながらじわじわ上げて行こう。


 失敗前提なのは、加工できる限界ラインの素材を使うのでほとんど成功することはないが、失敗しても下級素材より経験値がいいので、DPの無駄遣いをしている。もっとランクの高い素材は、加工すらできないからLvを上げられないのだ。色んな制約があってめんどくさいぜ。


 世界樹がどのくらいで加工できるようになるかわからないけど、カエデに木工の加工道具を依頼してある。ただ、現状では世界樹を加工できる道具は作れないらしく。ランクの高い鉱石の精錬や精錬した金属の加工をして、一生懸命スキルあげに励んでいた。


 ちなみにアダマンタイトは、武器防具への加工しかできない。正確には、加工道具を作ってそれを使おうと加工しようと思ったところ劣化をはじめてしまうのだ。分からんが、この世界の法則なのだろう。


 さて、今日もスキル上げを頑張るかな……小説とかアニメであるDMMORPGをやっている気分だ。まぁ、頭のおかしい神達が作ったゲームの世界みたいなものだからな。

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