第85話 大惨事

 俺の趣味部屋で娘たちが全員泣いている。シェリルやイリアにいたっては、号泣しすぎて疲れて寝てしまってる。ミスったな、まさかダンジョンの性能評価がこんな大惨事になってしまうなんてな……


 みんなが泣いている状況を見れば分かると思うが、今回の性能評価試験は成功と同時に大失敗だった。いや、とんちじゃないよ? 魔物の組み合わせや相性の評価は大成功だったが、その組み合わせの性能が大成功したせいで、娘たちが敗走して帰ってきてしまったのだ。


 Aランクに近い実力を持っている娘たちが、ダンジョンの最下層までたどり着けずに引き返してきたのだ。ダンジョンの外では他系統で一緒に行動することは基本的には無く、魔物同士の連携がここまで討伐難度を高めるとは、誰も予想出来てなかったのだ。


 事件の発端は三日前のダンジョンの突入までさかのぼる。


 一階層はEランクの魔物で亜人種のみの、単一種族でのパーティー構成で魔物を配置していた。ここは問題なくクリアできていた。今までも亜人系との戦闘経験と圧倒的なステータス差で特に気になる点は無かった。


 二階層はEランクの魔物で獣系のみで単一種族でのパーティー構成。やはりこれも特に問題は見られなかった。


 三階層はEランクの亜人種の魔物の混成パーティー、四階層はEランクの獣系の魔物の混成パーティー、ここも大きなトラブルもなく娘たちは切り抜けた。


 次が第一の問題、五階層だ。この階層の魔物は、Eランクの魔物で相性のよさそうな奴らを集めた混成パーティーだ。


 娘たちは五階層に侵入して、ゴブリンメスの強化種とウルフの混成パーティーと遭遇した。ゴブリンたちは色々な職業で召喚していたが、今回は説明がめんどくさいのでそれっぽいパーティーだと思ってくれ。


 ゴブリンが先制攻撃で魔法や矢による攻撃を仕掛けた。これは、問題なく防いだが防ぐことに気をとられてしまい、気配を消して横から攻撃してきたウルフたちにかすり傷を負わされてしまったのだ。三パーティーすべてで、誰か一人が攻撃を防ぎきれず攻撃をくらってしまったのだ。


 その後は持ち直し、特に大きな問題もなく不意を突かれることもなくなっていた。


 六から十階層は、一から五階層のランクを一つあげたDランクの魔物を使った階層だ。


 6~9階層は、やはり何もなく突破できていた。


 問題は、十階層だった。亜人系と獣系の混成パーティーは、かなり戦い難そうであった。よくよく考えれば、ダンジョンでも基本的に階層毎に同系統の魔物で、ジョブが違うもので組んでいるとの事。あのチビ神が書いたあの本にそんなようなことがかかれていた。


 理由としては、召喚魔法陣でも個別召喚でも違う系統がいると、少しDPの消費が上がってしまうから、単一の方がコスパがいいよ! みたいに書かれてた。二つ目の系統の場合およそ五割増し、三つ目の系統で倍のDPがかかる。


 少しじゃねえなこれは。だけど、DPを湯水のように使える俺には、この制限は無意味だった。違う種族を召喚して実験をしているのだ。


 十階層では娘たちの半数が何かしら小さな傷を負わされていた。他にも六から九階層の一戦闘にかける平均時間は、2分かからなかったのだが、十階層は一戦闘に三倍以上の六分以上かかっていた。魔物の数が違うわけじゃないが、違う種族ってことで警戒の仕方が違うから、戦いにくいのではないかと結論付けた。


 ちなみに一日目は、全パーティー八階層まで降りて、ダンジョン内での野宿をしていた。


 今回帰る原因になった十五階層を含む十一から十五階層は、六から十階層のランクを一つあげてCランクの魔物が出るようにしてあった。

 

 魔物のDランクとCランクは大分強さが違うように見えた。十一から十四階層では、六から九階層でかかっていた平均時間が二倍に伸びていた。Dランクの混成パーティーの様にダメージを負う事は無かったが、タフになっていたり、素早かったりで止めをさすまでに結構な時間がかかっいたようだ。


 そして問題の十五階層。Cランクの魔物の亜人系・獣系の混成パーティーの階層だ。


 ここでは、一戦闘に十五分近くかかることがあった。そして、今までは戦闘中にヒールは使っていなかったが、この階層ではかなりの頻度で戦闘中に回復をしていた。ヒーラーのいなかった年少組は、ポーションをかなりの数使ってしまっていた。


 ヒーラーがいなかったので念のため、持てるだけポーションを持たせていたのだ。この世界のポーションは、かけても飲んでも効果が出る。ただ、クールタイムというか再使用までに結構時間がかかるのだ。


 内臓系にダメージが出たなら飲んだ方がいいし、外傷系ならかけた方が効果がしっかりと出る。どういう原理か知らないが、傷がきれいに消えるので娘たち全員に五個は持たせている。


 可愛い顔や綺麗な体に傷が残ったら大変だもんね! だったら戦闘させるな、とかいうクレームは受け付けませんけどね!


 連戦をしていて感じたのだろう、ヒーラーの負担が増えて回復が回らなくなってきていることに、年少組はポーションの消費が増え、クールタイムが終わらない内にもらうダメージが増えてきたのだ。


 ヒーラーのピーチとキリエはこれ以上続けていると危険な領域に突入する前に、引き返すことを提案して、半々くらいに引き返す組と続行組に分かれて意見をかわしていた。年少組は、これ以上は危ないと全員が判断していた。一番の説得材料は、シェリルが泣きながら


『ひっくひっく、ごじゅじんざばに、ひっぐ、おねがいざれだじごどを、ひっく、やりどげれないのはくやじいげど、ひっぐ、わだじだぢがぎずづぐど、ひっく、ごじゅじんざばやざじいがらぜっだいにがなじいがおずるの……ぞんなのみだぐないの』


 自分たちのことより俺のことを優先して物事を考えていた。シェリルはちっちゃいからか、たまに鋭い事をいう事があるんだよな。今回もシェリルが発言する前は、全員が続行する方法を考えていたけど、発言した後はそうだよねと全員が引き返すことを決めたのだった。


 ということで冒頭の話になるのだが、帰ってきて俺を見た途端泣き出してしまったのだ。みんなは悪いことをしていないのに、ごめんなさいと謝ってくるのだ。とりあえず今日は自由にさせてみんなで寝ようかな……


 シェリルとイリアはおそらく俺から離れないだろうし、お風呂も入れてやらなきゃいけないかな。変態紳士ロリコンじゃねえぞ! スリムがいいとは言っても違うからな?

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