第44話 秘密を知った

「「「「「ただいま~」」」」」


 玄関から、ガヤガヤと娘たちが帰ってきた声がした。


 俺の部屋から玄関までは遠いので、食事の時にでもおかえりって声でもかけるかな。後で、どんなところに行ったとか聞いてみようか。若い娘たちがどこに行くとかよく分からないしな。王都みたいにもっと広ければ遊びに行く場所や見て回る場所も多いんだろうけど。


 コバルトが夕食の準備ができたと呼びに来た。


 コバルトについて食堂に入ると、いつものように娘たちがメイド修行の様に食事の配膳をしていた。


 準備も終わり、「いただきます」の掛け声をして食事を始める。


「遅くなったけど、みんな、おかえり。今日は楽しめた?」


「シェリルね、色んなとこ見て回ったの! 色んな食べ物があるところや、お洋服の売ってるとこや、武器防具の売ってるとことか、色んなところ見て回ったの!」


「へ~色々見て回ったんだね、楽しかったかい?」


「ん~楽しかったけど、ご飯はシルキーお姉ちゃんたちの方が全然おいしかったし、お洋服はご主人様がくれたお洋服の方が全然可愛かったし、武器防具もカエデお姉ちゃんが作ってくれたものの方が全然よかったの!」


 シェリルの発言を聞いて、他の娘たちの様子を見てみるとみんな苦笑していた。確かにシルキーたちの飯は美味い! この世界の食事と比べる必要もないくらいに美味い! 調味料の少ないこの世界で、地球の調味料や香辛料を使って作っているのだから不味いわけがない。こう考えると、満腹亭の食事ってレベル高かったな。


「ここの食事は美味しいもんな。それにあの洋服は、伝手で手に入れたもので、そんなに高い物じゃないんだよ。みんなに似合ってるからよかったけどね。武器防具に関してはカエデが作ったものがいいのは当然なんだよ。知らないものを知るっていうのは、大切なことだから色々経験するといい」


 楽しく食事が終わると、ピーチが俺に声をかけてきた。


「ご主人様、お聞きしたいことがあります。私たちは明日からどうすればよろしいのですか? 以前にダンジョンの中で、のうえん? や、ちくさん? を手伝ってもらうような話をしていましたがどういった物なのでしょうか?」


「先日言った様にメイド修行・冒険者活動・休日のローテーションで三つのグループに分かれてもらおうと思ってる。戦闘に問題がないのなら、農園や畜産はしてもらう予定は無かったりするんだけどね」


「ダンジョンの中で、のうえんやちくさんをするから戦闘技術が必要だったのではないですか?」


「そっか、みんなにはそういう風に見えてるわけか、これは失敗したな。どうするかな……ちょっとみんなは食事の片付けをしておいて、終わったらそのまま食堂で待っていてくれ」


 娘たちが返事をすると、カエデとシルキーを連れて廊下に出た。


「どうすっかな、カエデやシルキーはあの娘たちに本当の事教えてもいいと思うか?」


「私は、判断しかねるかな。あんまり深く話してたわけじゃないから何とも言えないかな」


 シルキーたちも何やら簡単に話し合ってスカーレットが代表で口を開く。


「私たちも、判断しかねますね。敵意があるか無いかまではさすがに完全に把握しきれるものではないですからね。判別する方法があれば問題ないのですが」


 敵意を判別する方法か……そういえば、ツルペタのチビ神が『もう! それ言わないでってば! ツルペタで何が悪いのよ! グスン』また覗いてやがったのか、神出鬼没なチビ神だな。


 っていうのは置いといて、チビ神が奴隷について何か言ってた気がするんだよな……解放しても悪意がない限りDPが得られないとかなんとかだっけ? ってことは開放すればわかるのか?


 最悪裏切られたら信用できる娘だけ連れて、どこかに逃げればいいか。そういうことがあれば、次はそうならない様に考えればいいだけだしやってみるか?


「悪意があるか無いかを判別する方法はある。チビ神に召喚されたときに、奴隷から解放しても悪意が無ければDPが発生しないって聞いたのを思い出した。だけど一つ問題がある。解放する方法が分からないんだがどうしたらいいんだ?」


「解放する方法は、首輪を外せばいいだけよ。でも、解放してもし裏切られたらどうするの?」


「そのことだけど、最悪この街を出ればいっかなって思ってる。精霊たちを連れて出るのは目立つだろうけど、この家は潰して世界樹は回収して、ダンジョンは入口塞いで少し深いとこまで移動させれば痕跡は消せるかな? って思ってる。外に出るのは、DPで地下通路でも作って埋めれば問題ないだろうしね」


「この家は気に入ってるけど、他のとこでも専用を作ってくれてシュウと一緒にいられるなら問題はないけどね」


「私達は、ご主人様に仕えることができれば幸せなのであります!」


「じゃぁ解放してDPのチェックしてみるか、それでダンマスの話もしてみてDPが発生するようだったらその時に改めて考えるか」


 カエデとシルキーたちは、俺の意見を聞いて首を縦に振った。話がまとまったので食堂へ戻り娘達を席につかせる。


「えっと、みんなに報告があります。今現在をもって君たちを奴隷から解放したいと思います」


 そう宣言すると、一斉に「私たち捨てられちゃうんですか?」「ご主人様の役に立てないと判断されたのですか?」「シェリル、ご主人様の近くにいたいよ~」などと騒ぎ始めた。


 解放されると聞いて喜んでいる娘は一人もいなかった。何故だろう?


「シュウ、その言い方だとこの娘たちが慌てるのも無理ないわ。この娘たちにとって解放されるってことは、死を意味するようなものだからもうちょっと詳しく説明してあげないとこういう反応になるわよ」


「お、おぅ、そうなのか。言葉が足らなかったようだ。君たちを解放して調べたいことがあるんだ。それで問題が無ければ俺の秘密も話して、今度は自分の意志で俺に仕えてくれると嬉しいな」


「あの、ご主人様。確認が終わったらまた奴隷に戻してもらう事はできないのですか?」


「え? 戻りたいの?」


「はい、ご主人様ほどの方の奴隷であれば、貴族なんかよりよっぽどいい待遇ですし、何より奴隷という身分があると連れ去られたりして奴隷にされる心配がないです。


 一度奴隷になったことある人間は軽く見られますが、奴隷として仕えている主がご主人様のようなお方であればむしろ奴隷という立場でも喜んで仕える人は多いと思います」


「そうなのか、みんなも同じ考えなのかな? 普通に俺に仕えるより奴隷の方がいいのか?」


 見渡すと全員が首を縦に振っていた。


「そうなのか、分かった。奴隷という身分があることで君たちを守れるなら、君たちの願い通りにしよう。でも、俺は奴隷として扱うつもりはないからな。今まで通り一緒に冒険する仲間であったり、一緒の家に住む家族として接するつもりだ」


 娘たちは、声を上げて喜んでいた。奴隷って本当は大変なんだろうな……奴隷商には連れ去られた人はいないから、闇市とかで売りに出されるのだろうか? 値段は解らんがいい扱いを受けないのは間違いないだろ。


 娘たちの首輪をとって奴隷から解放して、DPが発生していないか確認する。誰も発生する事は無かった。


 そのまま俺がダンジョンマスターであることを話すと、娘たちの目がキラキラと光って神様を称えるように恍惚とした表情をしていた。この話を聞いてもDPは0のまま、俺に悪意を持っている娘はいないようだった。


 気は進まないが、娘達が奴隷の首輪を付け直してほしいとお願いしてくるので仕方がなくつけることにした。だけど奴隷の首輪は可愛くないので、見た目の可愛いチョーカータイプの物を新しく召喚してつけることにした。


 首輪を付け直した娘たち全員が、愛おしそうに首輪を撫でていた……危ない人たちに見えなくもないな。


 ピーチから質問のあった農園と畜産について簡単に説明すると、自分たちが食べていたものに使われてる調味料や食材を作っている場所だと知って、「休日は自由な時間なんですよね? その時間で農園や畜産を手伝っても問題ないですよね?」と問われ、無理しない程度なら問題ないことを伝えた。


 あのダンジョンには魔物が出てこないことを伝え、みんなのために召喚していたことも話す。近いうちに、戦闘訓練をかねてレベルを上げるダンジョンも作る事を話したら、シェリルは弾けそうなくらいの笑顔で体全体を使い喜びを表していた。

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