第34話 娘たちのシンクロ

 ミドリについていった年長組は、知らない言葉とこんな細かいことにまで気を使っていたのかと驚きを隠せずいたが、ミドリの言葉をしっかりと覚えて動作を盗んでいた。


 ミドリは娘たちにレクチャーしながらお茶を淹れていく。


「まずは、紅茶を入れるには軟水が適しているのです」


「ミドリさん、なんすいって何ですか?」


「アリス君、いいことを聞いてくれたです。軟水っていうのは柔らかい水のことを言うのですが、そういっても意味は解らないですよね。そこで、この水差しに入っている水を飲み比べてみるのです。


 軟水の反対は、硬い水と書いて硬水というです。どっちがどっちか飲めばわかるので答えるのであります。詳しい話は難しくなるので、機会があったら教えるですよ。飲み比べ終わりましたですね。ではアリス君、どっちがどっちだと思ったですか?」


「えっと、こっちの水差しが軟水でそっち側の水差しが硬水だと思います」


「正解です。みなさんも解りましたか? どんな感じがしたか説明をしてみるのです」


「はい。こちらの硬水というお水は、飲んだ瞬間に重たいというか抵抗があるような感じがして、それが硬水なのではないかと思いました。軟水の方は、何の抵抗もなくするっと飲めたので軟水だと思いました」


「うんうん、そんな感じで間違ってないのですよ。他にもいろいろ理由はありますが、飲みやすいっていうところが大事ですよ。では、次に行きますよ」


 一呼吸おいて、


「軟水を使って火にかけお湯を作りますが、このときに長く沸騰させてはいけません。水の中にも空気が含まれていて、その空気は沸騰させることによって少なくなっていってしまうのです。それが少なくなると紅茶の醍醐味の一つである香りがしっかりとたたないのです」


「ミドリさん、水の中に空気が含まれているってどういうことですか? 水は水じゃないんですか?」


「マリー君、私も完璧ではないということだけ頭に入れて聞くのです。水の中には、目で確認できない位小さな泡がいっぱい含まれているんです。ですが沸騰させると火に近い鍋の底とかから、ブクブクと泡が出ますよね?


 その泡に水の中に含まれている小さな泡がふれると吸収されてしまって、そのまま水の上に出て行ってしまうんです。どういう理由で水の中に空気が入っているかはわからないですが、そういうものだと覚えてください」


「目に見えない小さな泡があるんですね……でもそれがあるのとないのではどう違うんですか?」


「そうですね、香りに差が出るのです。理屈より実際体験してみましょう」


 ミドリはそういって、2つの銀製のポットを取り出して同じように火にかけた。


「ミドリさん、それって銀製のポットですよね? お湯沸かすならやかんとかではいけないんですか? 銀製品は高価で毒とか調べるのに使ったりするのではないですか?」


「もっともな疑問だね、やかんで沸かしたお湯も使ってみるのです」


 そういってミドリは、やかんに水をいれ沸かしていった。


 銀のポットがちょうどいい温度のところまできたので火から離して、準備しておいた強化プラスティックで出来たポットを取り出して、その中に茶葉を入れて少し高めの位置からお湯を注ぐ。


「お湯を注ぐときは冷めないように注意して一気に注いでください。注ぎ終わったら、蓋を閉めて3~5分蒸らして完成です。蒸らしている最中ですが、茶葉がポットの中でクルクルと踊ります。


 この状態をジャンピングと言ってこの状態にならない場合は、空気が含まれてなかったり古いお湯を使っている可能性があるので、くみたての水を使ってください」


 説明が終わった後に、沸騰してぼこぼこ泡が立ったお湯を使って紅茶を入れていく。その後にやかんで沸かしたお湯を使って紅茶を入れていく。


 十分に蒸らしの終わった、初めの紅茶から年長組の前に置かれていく。


「はい、皆さん準備ができました。カップの数が4つずつなので、二人一組で飲んでください」


 年長組のメンバーは、ミドリに出された紅茶のカップ3つを飲み比べし始める。


 まず、紅茶の色の違いに驚き、次に香りの違いに驚き、最後に味の違いに驚いた。


「ミドリさん、どうしてこんなに色や香り味に違いが出るんですか?」


「正直なところ私も解ってないのです。ご主人様に教わって、説明を受けたけど理解できなかったのです。ですが、おいしい紅茶の入れ方は覚えられたので、理論の方はどうでもいいと思っているのです」


 ミドリは教えてもらったと言っているが、シュウは何も教えていない。シュウの知識の一部とDPで出した『紅茶を上手に淹れられるようになる本』を出して読んで、シルキーの権能『ハウスメイドの嗜み』を全力で使用して、数日でここまで淹れられるようになったのだ。


「紅茶の淹れ方のレクチャーはこの辺で終わり。食堂の片付けも終わっているはずだから早めに紅茶を淹れて戻りましょう」


「「「「「「「はい」」」」」」」


 年長組は紅茶とミルクとはちみつを運んで食堂へもどる。


「お姉ちゃんたち遅いよ~早く話し合い始めようよ! あれ? 昨日の美味しい飲み物のにおいがする!」


 最年少のシェリルは、待ちくたびれたのか年長組にブーブー言っていたが、紅茶の香りをかいで満面の笑みをうかべる。


 その様子を見ていた他の娘たちは、笑いながら話しやすいように机の位置をずらして、紅茶を配っていく。


 紅茶を配り終えたら、みんな席に着き話し合いが始まった。司会はもちろんピーチである。


 一人ひとりに今日の体験の感想を聞いていった。初めての戦闘の娘も多く、怖かったという意見が多かったが、最後にはみんな揃って『ご主人様のためになるならこのくらい何の問題もありません』と言い加えていた。


 もともと戦闘を経験していた娘たちは口をそろえて『私が初めて戦闘をした時よりみなさんの方が全然動けていました』と少し落ち込んだ顔で話していた。


 それを聞いていたピーチは、


「戦闘経験者から見たらそう感じたかもしれませんが、ここにいる全員が一つの思いを抱いて戦闘してたんですよ。『すべてはご主人様のために』です。あなたたちも同じでしょ? 私たちはご主人様の奴隷なんだから、みんなで強くなっていきましょう」


 そのセリフを聞いていた全員が『おーー!!』と声を上げていた。


 次に、体験が終わって自分が本当にやってみたい役割をはっきりさせようという流れになった。


 まずは年長組

ピーチは、ヒーラー兼バッファー

ライムは、魔法アタッカー

シュリは、タンク

アリスは、魔法剣士

マリーは、斥候兼双剣の物理デバッファー

ライラは、シーフ兼バッファー

メアリーは、弓で遠距離物理アタッカー

ケイティは、両手剣の近距離物理アタッカー


 次に年中組

リリーは、タンク

チェルシーは、双剣の物理デバッファー

シャルロットは、タンク

ジュリエットは、魔法アタッカー

マリアは、弓とレイピアで近遠距離物理アタッカー(とにかく魔物を倒したいらしい)

キリエは、ヒーラー兼バッファー

クシュリナは、斧槍の物理アタッカー


 最後に年少組

イリアは、精霊魔法で魔法アタッカー兼魔法デバッファー

シェリルは、ご主人様と同じ武器! というので、薙刀で物理アタッカー

エレノアは、おっきい武器がいいとカエデに相談したら、斧槍を進められたので物理アタッカー

サーシャは、紹介の時と変わらず、攻撃を避けたり逸らしたりして魔物を倒したいといっており、避けタンク

ソフィーは、斥候兼シーフ

レミーは、魔法アタッカー

メルフィは、タンク


 初めとほとんど変わらない娘が多かった中、前衛が怖いと言っていたアリスが魔法剣士という魔法も物理もいける難しい役割を希望していて、ケイティが両手剣の近距離物理アタッカーを希望していた。体験したことにより気持ちが変わったのだろう。


 ピーチは、希望している役割が程よくばらけており3パーティーで組むには、バランスがいいのではないかと思っていた。考えがあってるか確認するために、レイリーに尋ねる。


「そうじゃな。年長組は、タンクが1人だから欲をかくなら、アリスが魔法剣士だから盾と片手武器でサブタンクを兼ねたら、もっとバランスがよくなるかもしれぬ。


 年中組のバランスは今のままで悪くないと思う。それに対して年少組は、物理アタッカーが2人とも長物の上に、変わり種が多いからうまく噛み合ったら化けるかもしれないな」


「希望している役割はバラけましたが、適性や才能の問題もあります。ご主人様はどのようにして私たちを戦闘奴隷にするのでしょうか?」


「すまないが、ワシもまだ詳しくは聞いておらぬのだ。ただ、希望に沿った役割で戦闘訓練をしてもらうとしか聞いてないのだ」


 娘たちはレイリーの話を聞いて、努力をすれば希望した役割になれるのではないか……と全員が同じことを考えていた。

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