第30話 娘たちの勉強のターン

「今から勉強を始めるけど、机を並べ替えよう。こっち側が前になるようにして三列にしようか。前列から小さい娘に座ってもらって年長者は後ろ側ね」


 シュウが声をかけるとみんなが一斉に動き出して、年長者は机を運んで小さい娘たちは椅子を運んでいる。声掛けしなくても役割分担してるんだな。関心関心。


 みんなが席に着くと、いつの間にか、みんなに頼られている様子のピーチが少しオドオドしながら、


「ご主人様、準備できました」


 今の様子見ている限りでは、ピーチにこの娘たちのリーダーをさせても問題ないのではないだろうか?


「ありがとう。ピーチ、今からこの娘たちのリーダーとして任命するから、無理のない程度に頑張ってほしい」


「ひゃい!」


 急に名指しで声をかけられたことにビックリしているのだろうか? 声が裏返って、噛んでしまっている。


「そんなにかたくならないでもいいから、できる範囲でやってくれればいいよ」


 みんなの様子を見る。


「じゃぁ、勉強にしていこうかな。初めにパーティーの中で個人の役割について説明するね。パーティー戦において、タンク・ヒーラー・斥候・アタッカー・バッファー・デバッファーが主な役割になると俺は考えている。細かく分けると他にもあるけど、今言ったものを覚えてもらう予定だ。


 タンクとは、敵の注意をひき攻撃を受け止める役割だ。敵の注意を引き付けることをヘイトを稼ぐという。タンクはそのヘイト管理が重要になって、パーティーの盾役になるために体を張らないといけないんだ。パーティー戦の命綱になる役割なんだ。


 次に、ヒーラーは回復職だ。傷を負ってしまった味方を治療したりするのが主な仕事になる。ヒーラーはバッファーもしてもらう。バッファーとは、味方の能力を向上させるスキルを使って支援する役割だ。二つの役割を兼任してもらうから覚えることは増えるけど、ヒーラーも重要な役割だからね。


 斥候、って言ってるけど要は、シーフのような立ち位置かな。敵の偵察・道の安全確保・罠の発見・宝箱や扉の仕掛けの解除など、パーティーの目になる役割だ。斥候がしっかりと目の役割を果たさないと、罠や敵の不意打ちで全滅することもありえる。


 アタッカーは、文字のごとく攻撃担当の役割だ。アタッカーにも物理アタッカーと魔法アタッカーっていうのがあって、魔法に強い敵には物理が有効でその逆も一緒だ。遠距離と近距離の攻撃特徴の違いもあるから注意が必要かな。飛んでる敵に武器振り回しても当たらないよね?」


 一呼吸おき、


「後、固い皮膚をしてる魔物には弓は刺さりにくいよね。魔法アタッカーには属性に注意しないといけない。水に強い魔物に水で攻撃してもダメージが出なかったり、反対に体力が回復することがあったり、するからみんな覚えておくように。物理アタッカーだから相性を覚える必要が無いとか思わない様にね。


 最後にデバッファーについて。バッファーは味方の能力を上げて戦闘を有利に進ませるための役割に対して、デバッファーは敵の能力を下げて戦闘を有利に進める役割だな。


 今更だけど、能力を上げる効果をバフ、能力を下げることをデバフという。デバフには大きく分けて3つ、物理的に起こるもの、魔法で起こるもの、精神的に起こるものに分けれる。


 物理的というのは目潰しもそうだし、足や腕を傷付けて動きを鈍らせるのもそうだ。普通の攻撃でも起こるけど、意図的に狙うのが物理的なデバフかな。


 魔法で起こるデバフは、物理的に起こるものと同じ理由と魔法で直接能力を下げる方法がある。精神的に起こるものは、魔法も含まれますが圧倒的強者の咆哮で恐怖に支配されて動けなくなることがあったりする」


 娘たちの様子を見て、


「一気に話しましたけど、気になるところはあるかな?」


「はい、ご主人様!」


「お? メルフィなんだ?」


「えっと、タンクはパーティーの盾でみんなを守るのは解りました。でも、敵の注意をひく? ヘイトを稼ぐ? っていうのはどうしたらいいんでしょうか?」


「簡単に言うと、敵を攻撃するかスキルでヘイトを稼ぐんだよ。ただの挑発では魔物に効かないけど、スキルで挑発を行うと魔物にも効果があるんだよ。今は役割を覚えるだけでいいよ。


 一通り勉強が終わったら戦闘訓練を受けてもらって、ある程度武器の使い方を覚えたり体の動かし方を覚えてもらう。専門的な役割は分かれて訓練をしようと思う。役割を覚えるだけと言いましたが、気になることがあったらどんどん聞きてくれ。分かる範囲で答えます」


「はいは~い、ご主人様!」


「ん? シェリルも聞きたいことあるのかい、何かな?」


「えっと、シェリルはご主人様の役に立ちたいの! どの役割がいいのか教えてほしいの!」


「そうだな~、どんな役割でも俺の役には立てるんだよ。問題なのは自分にあった役割が重要なんだ。でも、シェリルはまだ7歳だから戦闘は難しいかもしれないね」


「え~シェリルはご主人様と一緒に戦えないの?」


「そうは言ってないけど、体がまだ成長していないシェリルは、みんなより頑張らないといけないかもしれないね。


 よく覚えておくんだよ、俺は無理や無茶をする娘とは一緒に戦いたくない。一人の無茶によってパーティーが危険になるからね。自分のできることをしっかり見極めて、できることを堅実に行える娘がいいな」


「わかった! シェリルは自分のできる事しっかり探すの! それでご主人様の役に立つの!」


「体がちっちゃいから無理しちゃだめだよ。他には聞いておきたいことあるかな?」


「はぃ! ご主人様」


「今度はイリアか、なんだい?」


「エルフが得意とする精霊魔法は、分類するとどの役割に入るんですか?」


「確か精霊魔法は契約する精霊によって得意な部類が違うから、きちんと特性を把握して使役できるようになることが大切だって、四大精霊の誰かが言ってた気がするな。貧乏器用になるかオールマイティーになるかは努力次第かな?」


「え? 四大精霊と話したことあるんですか?」


「あぁ~、イリアもきっとそのうち話せるようになるよ」


「イリアも話せるようになるといいな! 頑張る」


「頑張るのはいいけど、無茶や無理はいけないからね」


 娘たちから色々な質問を受け、答えていく。一人ひとりがしっかり考えているようで、予想外のところをついてくる質問もあった。


 特にマリーがしてきた質問に、攻撃の弱さを手数以外で補う方法が無いのかということだ。戦闘訓練が終わったら話そうかと思ってた内容の一つであった内容だ。自分でそこへたどり着けたのは正直関心するしかなかった。


 マリーへの答えとしては、付与魔法と魔法剣があることを教えた。付与魔法はバフと属性攻撃をできるもので、魔法剣は一撃を重たくして弱点をつけば普通の攻撃の何倍もの威力になることを話した。


 それを聞いたマリーは一撃の重くなる魔法剣を使おうとしていたが、カエデが俺が付与魔法を使ってることをぽろっというと、付与魔法に一気に傾いていた。というか、全員が付与魔法の事をもっと教えてほしいと言わんばかりの顔で俺の方を見ていた。


「付与魔法についての話は、戦闘訓練が一通り済んでからにする予定だからな。それまでに文字を覚えられれば、もっと理解できるようになると思うから、文字の読み書きができる娘はできない娘に教えてあげるようにね。


 覚えられなくても説明できるようにするつもりではいるから、無理はしないようにね。とりあえず、今日はこの辺で勉強は終わりにします」


 一呼吸おき、


「範囲は狭いですが、この家の中のプライベートエリア以外であれば、夕食まで自由してかまわないよ。またお風呂に入るのもよし、シルキーたちに色々教わるのもよし、部屋で寝るのもよし、食事の時間になったら呼ぶから家の中にいるように!」


「「「「「はい」」」」」


 年少組は、さすがに眠い様子だったのでお部屋まで連れて行くようにピーチにお願いする。みんなを見送った後にレイリーを呼んで明日からの戦闘訓練について相談する。

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