第31話 娘たちはシュウの信者っぽい

 朝食の準備ができて、アマレロが


「ご主人様~朝食できたの~食堂まできてください~」


 ちょっと気の抜ける呼びかけだったが、変にかたくなられているよりはこっちの方が断然いい。アマレロが呼びに来たので、食堂へ向かう。


 イリアを除いた12歳以上の娘たちが食堂で朝食の配膳を行っており、11歳以下の娘たちは机を拭いていた。


「みんな早いね、ゆっくり寝た?」


 ピーチが前に出て俺の質問に答えてくれた。


「昨日はみんなで寝る前に、文字の勉強とご主人様に教わった内容の復習をしました。その後に寝ましたが、奴隷には過分な程にゆっくりさせていただきました。


 朝も早く目が覚めましたので文字の勉強の後、スカーレットさm……さんに何か仕事がないかお聞きして、洗濯と調理の手伝い部屋の掃除などを行っていました」


 スカーレットを呼ぶ際のピーチの言い直しが気になったが、


「それって休めてるの? 俺はしばらくメイドの様なことをさせるつもりはなかったんだけどな。勉強に戦闘訓練もあるから疲れるだろうし、カエデどう思う?」


 少し遅れて食堂に入ってきたカエデに質問をなげる。


「本人たちが自分でやるっていうなら止める必要はないんじゃない? ここ以外では奴隷なんて寝る時間以外ずっと働かされてるしね。シュウの言葉を借りるなら、無理をしてないなら問題ないんじゃないかな?」


「そうなのかな?」


「ご主人様、僭越ながら申し上げます。まだ買われてから一日しか経っていませんが、私ども全員最高のご主人様に買っていただけたと思っております。そんなご主人様に少しでも返せることがあればと思っています。シルキーさんたちの手伝いや家の掃除など、できることはやらせていただきたいと思っております」


 一日しか経っていないのに全員がキラキラした目で俺を見ている。この目は、日本にいた時にも見たことがある。憧れの人や尊敬できる人を心酔している際に見せる、信者的な危ない目だ……どうしたものだか。


「そ、そうか。カエデも言ったように無理だけは絶対するなよ。君たちは戦闘奴隷候補としてここに来てることを忘れちゃいけないよ。体調を崩して戦闘訓練に出れなくなれば、自分が損することを忘れない様に!」


「かしこまりました。そろそろ朝食の準備ができましたので、どうぞお席へ」


 朝食のメニューは、食パンのシュガーバタートーストにポタージュスープ、サラダだった。久々に食パン食べたな、これってDPで出したんだろうか? ポタージュスープもどうやって作ったんだろ? そんなことを考えていると、スカーレットがふよふよと飛んで近付いてきた。


「ご主人様、今日の食パンはいかがでしょうか? ご主人様に教わった酵母をつかって、ここで売られている普通の小麦粉を篩にかけて、使用してみましたがどうでしたか?」


 シルキーおそるべし! 俺から得た少しの知識をもとに食パンを自分たちで作ったようだった。さすがに酵母はDPで出しただろうが、それ以外はこの世界の物を使ったようだ。


「初めて作ったとは思えない位おいしいよ。ポタージュスープも美味しいし文句なしだよ」


 シルキーたちがハイタッチして喜んでいる姿を和みながらみていた。にしてもシルキーのやる気はどこから来てるんだろうな?


「そういえば、海が近くにないせいか魚とかの魚介系最近食べてないな~」


 何気なくつぶやいたセリフが、シルキーたちに聞こえていたとは思いもしなかった。このセリフがシルキーたちの暴走に拍車をかけたことに気付くことはなかった。


「じゃぁみんな、裏庭の方へいこうか。俺は、戦闘訓練については自慢じゃないが自信がない! という事で、レイリーと話し合ってプログラムを決めてみた。


 みんなには一通りの武器を使ってもらって武器の特性は、言い過ぎだけどどんな武器か理解してもらおうと思っている。武器を一通り体験したら希望している立ち位置を含めていろいろな立ち位置を経験してもらおうと思っているから、経験したことをしっかり覚えておくように」


 俺はオンラインゲームをやる際には、一通りの職業は体験してからメインの職業を決めていた。理由は簡単、ゲームによって立ち回りが大きく変わることがあり、その特徴をしっかり把握していないと連携が取れなくなってしまうのだ。


 フレンドリーファイアがあるオンラインゲームでは特に誤射・誤爆は問題になってくるのだ。特にこの世界は、現実なのでフレンドリーファイアに気を付けて攻撃する必要が出てくる。一通りの武器に触れてもらうのは俺の提案でやってもらうことにした。


「片手剣と盾のタンク・両手武器のアタッカー・二刀流のアタッカー・魔法アタッカー・ヒーラー・弓の六個を体験してもらおうかな。


 魔法とヒーラーに関してはカエデが持っていた杖で、魔力を込めると魔法を発動することができる魔道具の杖を提供してもらったから、立ち位置を経験することはできるぞ。貴重な体験だから大切にするように」


 魔法を発動する杖の出どころはうそをついている。娘たちに体験をさせるために、DPで出した逸品である。魔力消費が少なくなる補正付きだ。


「ご主人様、体験するようにと言ってもどうすればいいんですか? 魔物がいるわけじゃないですし」


「そういえばそうだったな、失念してたよ」


 この際ダンジョンの存在を教えてしまうか? うん、そうしよう。奴隷は俺の命令に従うから、話すなといえば話さないだろう。


「というのは冗談で、実はあの木の根元にダンジョンがあるんだ。ダンジョンなので魔物がいます。洞窟的なダンジョンじゃなくて、平原みたいなダンジョンです。


 元々ダンジョンなんてなかったけど、建てた後いきなりできたんだよね。戦闘奴隷としてここで鍛えるとともに、この中で農業や畜産ができないかなって考えてたりするんだよね」


 かなり無理くさい言い訳をしてみたが、娘たちは疑うことなく信じてくれた。カエデにドリアードやノームたちに姿を見せない様に伝言を頼むことにした。


 娘たちを連れてダンジョンの入り口がある木の根元へ向かう。


 ダンジョンの中に初めて入った娘たちは、よくわからないがワイワイキャーキャー言いながら俺の後をついてきていた。


「はーい、みんな落ち着いて。あんまり騒いでると魔物が襲ってくるかもしれないよ?」


 今さっきまで騒いでいたのが嘘のように静かになって、思わず笑ってしまった。


「プッ、素直でよろしい。ここら辺はほとんど魔物が出てこないからなまだいいけど、もし出てきても俺やカエデの敵にならないから安心していいよ」


 このダンジョンは、今のところ魔物は1匹もいなかったりする。この娘たちでもちょっと苦戦するだろうけど、倒せる魔物を召喚しようと考えている。召喚する際にLvが設定できるので、下げることもできるのは実験済みだ。


 簡単に装備品の説明をレイリーにしてもらってから、索敵してるふりして召喚すれば娘たちの役割体験ができるだろう。

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