第1話 異能探偵シャーロ

 この世の中には、絶対にありえないような難事件というものがある。常識では到底考えられないようなトリックが隠されているからこそ、難事件として認識されるのだろう。しかし、実はトリックなんてものは存在せず、単に天才がその才能を発揮した結果、そう見えているだけなのかもしれない。常人には考えつかないアプローチが、事件を解決できない理由であることは多い。そして、天才の中の天才である家達シャーロならどうだろうか。天才ならば、他の天才が起こした事件を解決できるのである。そう、僕ならね。


だが、それはさておき、君たちはこの都市伝説の一端を知っているだろうか。あるところに、心を読むことができる少年がいたという話だ。彼はテレビで名を馳せ、一躍有名になった。だが、その能力が周囲に恐怖をもたらし、やがては研究機関に閉じ込められることとなった。彼の能力は「ギフト」と呼ばれる異端の力であり、これを神からの贈り物とする者もいれば、悪魔の仕業と恐れる者もいた。だが、そんな話は今となっては忘れ去られ、死語のような存在だ。


だが、僕は知っている。天才と呼ばれる者の多くがこの「ギフト」を持っている可能性があることを。そして、僕もまたその一人だ。天才とはそういうものなのだ。しかし、そんな僕でも、今目の前にある難事件に頭を悩ませている。ギフトを持っていても、解決できないことがあるなんて、皮肉なものだ。


「あの、そろそろ……」


僕は東都銀行の窓口に立っていた。隣には中学生ぐらいの身長の女の子がいる。彼女は僕の助手、和登ソーカだ。僕は二十歳になったばかりだが、彼女も実は同い年である。見た目にはその差があるが、彼女の落ち着いた表情には歳相応の成熟を感じさせる。目の前には、焦った表情を浮かべる銀行員の女性がいる。こちらの手違いとはいえ、彼女がこれほどまでに焦る理由がわからない。


「そう焦らなくていいじゃないか。せっかくの美人が、そんなにせっかちだと台無しになる」


僕は冗談めかして彼女をなだめたが、彼女の焦りは収まらなかった。


「焦るに決まってるじゃないですか!」


彼女は苛立ちを隠さずに言い放ったが、僕はそれでも平然と構えていた。


「シャーロ、まだ?お腹空いた」


ソーカが少し退屈そうに、こちらに目を向けていた。彼女のクールな態度はいつも通りだ。


「いや、だから後ろをもっと気にしてください。この状況で送金ができていないことなんて、どうでもいいじゃないですか」


銀行員の女性が苛立ちながら言い続けているが、僕にはそれがどうしても理解できなかった。今この場でお金を下ろせないこと以上に気にするべきことなどあるはずがない。今日の宿代や食事代もあるし、お金がないというのは困るものだ。


「金が下せないことより気にすることなんてあるわけない」


僕はそう言い放ったが、彼女はますます焦った様子を見せた。


「いや、この状況でまだそんなこと言っているんですか。とりあえず後ろを見てくださいよ!」


しびれを切らした彼女に言われ、僕はようやく後ろを振り返った。そこに映ったのは、床に縛られている客たちの姿だった。彼らを脅しているのは、サブマシンガンを構えた目出し帽の男たちだ。そして、すぐ背後には最も屈強そうな男が拳銃を向けていた。


「そういうことか。だから、君はそんなに焦っていたのか」


僕は納得し、彼女に向けて冷静な顔を向けたが、彼女は逆に苛立ったようだった。


「いや、なんでそんなに冷静なんですか!」


彼女の問いかけに、僕はただ微笑むだけだった。この程度の状況では、僕の心は乱されない。それが、家達シャーロという天才探偵のやり方だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る