HIDDEN GIFT
虎野離人
第1話 プロローグ
最後に見えたのは、燃え盛る炎の向こう側に立つ弟の姿だった。薄暗い炎の明かりが彼の輪郭を照らし出し、その瞳に映るのは恐怖と絶望。それでも、彼は最後まで逃げずにこちらを見つめていた。
最後に聞いたのは、同じ炎の向こう側から響く弟の声だった。何を言っているのかは聞き取れなかったが、あの声は確かに彼のものだった。絶望の中での最後の叫びだったのだろう。
そして、最後に発したのは、同じ炎の向こうにいる弟への言葉だった。しかし、その言葉は炎の轟音にかき消され、届かなかった。
そして、全てが黒く塗りつぶされると、俺には未練だけが残った。燃え尽きた肉体が消え去る中で、意識は不思議なほどに明確だった。
「んんんーん」
何故だろう。俺は死んだはずなのに、考えることができている。それに、何故か意識がある……。肉体が失われたのに、どうして思考が続いているのか。
「おおーーー、やっと起きた」
突然、暗闇の中に響く女の声が耳に届いた。だが、その声はこの世のものではない、異質な響きを持っていた。俺が既に死んでいるはずなのに、どうしてその声が聞こえるのか。
「誰だ……」
俺は恐る恐る目を開けた。視界に映ったのは、爆発によって焼け焦げたであろう廃墟の風景だった。おそらく、ここは俺が最後にいた場所だろう。焦げ臭い空気が、かつての惨劇を物語っていた。しかし、その廃墟の中に、場違いなほどに無邪気な少女が立っていた。年の頃は12、3といったところか。
「僕が起こしてあげたんだよ〜」
少女は微笑みながら言った。その言葉が耳に届くと、全身に寒気が走った。死んだはずの俺が、今ここに存在していることが理解できなかった。
「どういうことだ!俺は死んだはず……」
「これが僕のギフト」
「ギフトだと!!」
俺は彼女の言葉に驚きを隠せなかった。「ギフト」という言葉は、限られた者しか知らない言葉であり、ましてやこんな幼い少女が口にするとは思いもよらなかった。
「そうそう。あなたも持ってるでしょ。あなたという支配者と、あなたのギフトが必要だったから起こしてあげたの〜」
支配者だと……?その言葉に、俺は言葉を失った。少女の突飛な言葉に戸惑いながらも、心のどこかでそれが真実であると感じていた。
「俺はそんなものになるつもりはない」
俺は断固として拒絶した。だが、少女は不敵な笑みを浮かべながら、一枚の写真を俺の目の前に差し出してきた。
「こいつは……」
写真に映っていたのは、間違いなく弟の姿だった。彼がまだ無事であることを示していた。
「やる気になった?」
少女の言葉は、無邪気さの裏にある冷酷さを感じさせた。
「ああ」
俺は答えた。弟を救うために、俺は再び立ち上がる決意を固めた。異能の世界に再び足を踏み入れる覚悟を決めた瞬間だった。
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