最終話 心は照らされ、日に消える
「全く世話がかかる声だね」
「っ!?」
…聞き覚えのある声…僕の目の前に…今求めていた人がいる。
日向心晴…彼女が僕に現れた。
「君が強く私を望んだから、なんとか顕現することが出来た。まぁ、これで最後になるだろうけど」
…最後…。それは君がこの世には存在しない「人」だから?僕の空想だから?…どちらでもある。だけど一つだけ言わせて。僕に言わせて。
「…ありがとう」
「…お礼を言うためにわざわざね…。私は君の心みたいなものなんだからお礼なら心のなかですればいいのに」
それだけだったら僕の心は満たされない。僕の心みたいな存在である君なら薄々気づいていたことだよね。…僕はお礼は直接言いたいから。言えなかったら言えなかったという後悔に溺れてしまうから。
「僕に直接言わせてくれよ。僕は君がいたから日に照らされる事ができたんだ」
君がいなかったら僕は気づくことが出来なかった。
君がいなかったら僕は何もしないままだった。
君がいなかったら日に照らされないままだった。
君がたとえ僕の心だったとしても僕にとって君は命の恩人だから。お礼の一つぐらい言わないと失礼だ。
「…礼儀正しい人だこと。分かっていたことだけど」
「僕のこと、全部知っていたんだね」
「うん。だって私は、君の心みたいなもので君のイマジナリーフレンドなんだから」
…そっか。本当に君はこの世界にはいないのか。僕の中だけにいる僕の友達。それが君だったんだ。
「私の役目。それは君を日当へと連れて行く事。君の才能に君自身を気づかせるのが目的だった。…私の役目はもう終わった。君が私の正体に気づき、役目が終わったのなら私は君の見る世界から消えるのみ」
世界から消えると表現しないのは君が僕の見る世界にしか存在しないから。本当の世界には君は存在しないから。…君と僕は同じだから。意味深な事を言えるのかな、小説を書けるから。…小説が書けるから意味深なことを言えるのか分からないけど伏線というのは存在する。君は僕との会話で伏線をちゃんと張っていたんだね。
「…ほら。地平線が輝いているよ」
「本当だね」
海の向こう側、本当の向こう側が輝いている。一日が始まる。そして君は消える。
「一日の中で一番輝いて綺麗なのは夜明けと夕暮れだと思うんだよ」
「夕暮れと…夜明け…?」
「うん。始まりと終わりだから」
始まりと…終わり?
「人間は日が出ている間に活発に活動する。一部の動物も日の出ている間に活動する。活動時間の始まりと終わり、それを象徴しているのが夜明けと夕暮れ」
昼性の動物は活動の始まりと終わりを象徴するのが夜明けと夕暮れ…か…。
「創真くんは今日の夜明けで照らされるんだよ」
「これも君のおかげ…だよ」
「…そうだ。もう消える私の最期の言葉」
「それは…」
「…日陰はいつか日に当たる時が来る。ずっと日陰のままでいられることはない。日は動いているのだから自分で日に当たろうと努力すれば日当になれるよ」
…僕はそれを僕の最期まで忘れないでいよう。命の恩人の最期の言葉を僕の最期まで忘れない。一生紡いでみせるから…。
夜明けが来る。僕は隣にいる彼女に向かってこう言う。
「君のことは忘れない。君の恩も忘れない。君がいなくても絶対に僕の世界に君はいたという事実を忘れない」
「…ありがとう」
風が吹いた。潮風なのか、山の風なのか分からない。だけど風が吹いて彼女の髪がなびいた。そして涙を浮かべて…静かに消えていった。彼女がいた場所はまるで誰もいなかったかのようになっていたけど、僕は否定する。彼女は確実に僕の見える世界にいた。僕の心を照らしてくれた人なのだから。僕の人生を照らしてくれた人なのだから。僕は彼女が照らしてくれた人生を大切にしていく。彼女の存在を否定しないために、明るく生きていこう。大丈夫、きっと見えないけど彼女は見守ってくれるはずだから、独りじゃない。色もいる。僕はもう空虚ではないのだから。
僕は彼女のおかげで自分の心と一緒になれたのだから。
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