第10話 夕暮れの真実

 楽しかった時間が終わり、そして学校が終わり、孤児院に戻ると…孤児院の先生、向日葵先生が待っていた。

 「あ、創真くん…」

 「あれ?創真、先生になにかしたの?」

 「してないよ…。…もしかして」

 「…色ちゃん。ちょっと創真くんは出かけるから夜まで待ってちょうだい」

 「ん〜?分かった。待ってるね!創真!」

 「うん。待っていて」

 ついに来てしまったんだ。精神科へ…僕は行った。僕に何の異常があるのか…それを確かめないといけない。

 「さて、君が患者の創真くんかな?私は日戸明(ひのと あきら)と言うよ」

 「よろしくおねがいします」

 「先生…お願いします」

 何を診られるんだろう…僕自身何か精神的な病を持っているとは思えないんだけど…僕は正常だと思うんだけど…。

 「君…どうして文芸部に入ろうとしたんだい?嘘偽りなく真実を話して」

 …精神科だから嘘を言われると困るんだろう。…大丈夫かな。心晴のことを話して…多分大丈夫だから話そう。心晴のことを。

 「…文芸部に入った前日、夕方の時僕がいつも行っている場所があるんです」

 「なるほど」

 「そこは夕暮れが綺麗で色と出会う前は僕…心の穴が空いていたので…広がるのを止めるためにいつも見に来ていたんです」

 「それで…?」

 「…そこにいつもいない女の子がいたんです。名前は日向心晴と名乗って…なんだか言動が謎多い子でした」

 「…日向心晴…か…やっぱり…」

 やっぱり?それってどういうこと?心晴の話がなにか…変なの?

 「…創真くん。恐らくその日向心晴と言う子は現実には存在していない」

 …え?…何を…言っている…の?…先生は…。心晴が…現実には存在していない?じゃあ…じゃあ心晴は…幽霊?違う…そんなオカルト的なんて…!

 「この町に日向心晴という子は存在しない。そしてそんな子が出入りしたという情報も入っていない。…恐らくその子は…君の空想上の友達だ」

 …空想上の友達…?それってどういうこと…?心晴は…僕の空想…いや妄想だったということ…?

 「イマジナリーフレンドと言ってね。君の頭の中で作られた空想の友人…ということだよ」

 …そんなわけ…そんなわけない…心晴は…!

 「違う…心晴が…いないなんて…」

 「実際、心晴ちゃんがいないというのはもう証明されているんだ。…君には色ちゃんがいる…。もうイマジナリーフレンドを見続ける意味はないよ」

 …だめなんだ。心晴にお礼を言えないなんて…僕は…。嫌だ、嫌だ…「ありがとう」っていいたい…認めない…お礼を言うまで…本人の口から聞くまで…認めて溜まるか…。絶対に…!もう一度会うんだ!

 「…先生。創真くんはうちでしっかりと預かっておきます。イマジナリーフレンドを見ないように…」

 嫌だ、まだ見ていたい。まだお礼が言えていない。否定しないで。彼女を否定しないで。見れなくなる。聞こえなくなる。感じなくなる。彼女は命の恩人だから。人生を変えてくれた人だから…なんとしても…!会わないといけないんだから!

 「…行くよ。創真くん」

 …君と最後に会いたいから、僕は必ずあの場所へ向かう。夢で見た場所へ…。

 孤児院に戻ってきて、僕は色に色々心配された。「大丈夫?」といいながら何も詮索せず頭を撫でてくれた。

 「…ねぇ、色はどうする?大切な人が…もし遠くへ何も言わず行ってしまう事があれば」

 「いきなりどうしたの〜?…でもそうだなぁ…私なら絶対に追いかけると思うなぁ。そこまでして離れたくない人なら〜」

 「…追いかける…」

 「別に大人の人の言う通りしなくてもいいんだよ?子供はたまに反抗するものだから。反抗してようやく見えるものがあるかもしれないんだから」

 …。…そっか。…色には助けられてばかりだ。僕は…決意した。

 「ありがとう、色」

 「どういたしまして☆」

 今日の夜に実行する。僕は孤児院を無断で出る。深夜に…暗い夜道を通っていつもの場所へ行こう。君は言った、「僕が望むのなら」と。…望むから心から望むからまた会おう…。夜明けを…。

 …君と会おう、夜明けを一緒に見よう。あの夢の場所で、君を見届けよう。

 誰もいない深夜。まるで前の僕みたいに静かで何もなかった。僕は寝間着脱ぎ、私服に着替えた。もうすぐ夜明けだ。全速力でいつもの場所へ行こう。神社の裏手…夢の場所へと。…君と会うために。

 暗い夜道は街灯ぐらいしか照らすものがなく光が極端になかった。日光もあまりない。月光は日光だけど…日が出ている間に比べて極端に明るくない。暗くても道は分かる。だって…いつも行っていたのだから。道ぐらい暗くても分かるよ。…夜明けには間に合うから、待っていて。僕は体力の限界さえも超えるぐらいの勢いでいつもの場所へ向かった。

 「はぁ…はぁ…」

きつい階段も相変わらずだった。だけどどうにか夜明け前に来ることが出来た。…この神社の裏手…そこに…いるよね?お願い、言わせて。僕に…君へのお礼を…!

 夢の中で見た光景がある。…だけど彼女はどこにもいない。

 「…いるよね?お願いだから…僕の前に…」

 知ってしまったから?僕が…君の正体を。…僕はお礼が言えないの?君は僕の人生を照らしてくれた人なのに言えないの?僕は君を望んでいるのにどうして…どうして…。…お願いだから…。

 「…お願いだから…僕の前に…僕に言わせてよぉ…!」

 「全く世話がかける子だね」

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