第9話 誰でも日に当たる事は出来る

 朝だった。僕は昨日より明るく感じる日を見た。明るいはずなのに眩しいと感じない。いつもならこんな光は僕には眩しすぎるのに…。日に…馴染んできているのかな。…それならとても嬉しいな。いつか僕もみんなと一緒になれるんだから。

 「お〜い!創真〜!」

 「色?」

 扉の向こうから色の声が聞こえてきた。朝からとても元気な声を出して…早く準備しないと。多分、僕が来るまで待つつもりだ。あれは。

 「早く来てよ〜!一緒に登校しようよ〜!」

 「分かったからちょっとまって〜!」

 せっかちでもあるなぁ…。でも楽しいから…僕は嫌いじゃないよ。むしろ好きだよ。この日常生活は。まだ僕の理想の日常には少しだけ遠いかもしれないけど…。でも理想の普通の日常を送れる日はそう遠くないように感じる。…ありがとう、心晴、色。君たちがいるから僕は…。

 「おいて行っちゃうよ〜!」

 「待って!今行く!」

 僕も楽しい騒音の中に入れるのかな。オーケストラの一つの音に…。

 「やっと来たよ〜。学校に行くよ!」

 「色は何時起きなの?」

 「六時起き」

 「学校始まるの八時10分ぐらいでしょ!?早すぎない!?僕、七時起きなんだけど!?しかもそこまで学校遠くないからこれでも早く着いてしまうんだけど…」

 「まぁまぁ。早く着いても損なんてないから☆行こ」

 「分かった」

 …色と出会ってとても自分が色と同じく明るくなれたような気がする。誰かいるってとても救われる。誰か自分を受け入れてくれる人がいるだけで人はこんなにも生きることが出来る。明るくなれる。やっぱり…一人は辛いのだと思った。一人でいたら僕はずっと空虚だったんだろう。色も…恐らく。孤独は辛い…その事実を訴える小説を今度部活の日に…書いてみようかな。

 「やっぱりだ〜れもいないや」

 「いつもこの時間帯に来ているの?色」

 「うん。いつも私が一番乗りだよ」

 やっぱりせっかちだ。みんなが登校する時間帯よりかなり前に登校する…。とても元気そうで僕は安心しているけど。早起きは三文の徳?ということわざがあったような気がするし。

 「さぁ〜今日も一日頑張ろ〜!」

 「まだ朝のホームルームすら始まっていないよ…言うのがちょっと早いと思う」

 「太陽に向かって言っているの〜」

 日に向かって…か。凄い青春っぽいなぁ。僕達まだ中学生だけど。

 「そういえば今日席替えがあったんだっけ」

 「確かそうだったね。くじ引きで決めるって…」

 前の僕は別に誰の隣とかそんなに気にしなかったけど…今は色の隣ならいいな〜と思ってしまっている。こんな気持ちになるのも初めて。友達の暖かさを知るのも初めて。…色は僕に初めてのものを教えてくれたから僕の恩人でもあり、大切な友人だ。

 「私は創真の隣がいいな〜。今月の運全て使い果たしそうだけど〜」

 「…奇遇だね。僕も色の隣がいいな〜と思っていたんだよ」

 「確率アップするかもね☆」

 「そんな効果あるのかなぁ」

 部活の時はあんなにも何もかも面倒そうな口調だったのにとても明るくなっている。これが彼女の素なのだろうか。元気で明るい彼女の素。…知れてよかったと思っている。

 「次の文芸部活動日は火曜日だからよろしくね☆」

 「今日は金曜日だから…来週だね」

 「うん。それまでいい小説を思いついてね☆」

 「頑張るよ」

 憧れの人になるのは初めてだから僕は憧れでいるために…頑張らないと。誰かのために頑張るなんてやったことないけど…色のためだからなんだか頑張れるような気がする。色のためなら…なんだって出来るかもしれない。まぁ、殺人とかは無理だけど。…言葉の例えの話だからね。

 「あっ!今日、六時間目の総合に職場体験の職場選択があったんだった!」

 「そういえばあった…僕まだ決まっていない」

 「一緒になろ〜。そしたら楽しいと思うから☆」

 「だね。いいよ」

 「やった〜!」

 色には泣かないために笑うんじゃない。幸せを感じて笑うそんな子になってほしいから。一緒にいよう。僕が…泣かせないから。

 「はい。それでは朝のホームルームを開始します」

 は〜い

 一番二番と先生が読み上げる。…みんな元気そうでよかった。

 「出席番号27番。日影創真さん」

 「はい。おはようございます」

 「…あれ?今日はとても元気ですね」

 「そ、そうですか?」

 「はい…何かいいことがあったんですね」

 いいことはあった。いい人に出会えたという良いことが…。

 「出席番号29番。日和色さん」

 「は〜い!」

 「あれ?色さんもとても明るいですね…創真さん同様、何か良い事でもあったのでしょうか」

 「うん!とても良い事があった〜」

 「それは良かったですね」

 明るく輝いている彼女の笑顔は僕にとっての宝物。僕は…色のことが大好き。そして色と出会わせてくれた心晴のことも大好き。

 「はい。それでは今日は席替え…」

 「あの!」

 …ん?あれは日毬先生…日矢先生に何のようなんだろう…。

 「どうかしましたか?日毬先生」

 「実は…えっと創真さん!」

 「え?…なんでしょうか?」

 「創真さんの作った小説が…コンテストで最優秀賞となりまして…!」

「「「「「「「「え〜!?」」」」」」」」

 「…え?」

 まさか…あの作品が最優秀賞に選ばれるなんて思いもしなかった。普通に参加賞ぐらいでいいかな〜と思っていたのに。…僕にも…やっぱり才能は…あったんだ…。

 「それでなんと…出版社から本にさせてくれないかとオファーが…!」

 え?そんな大事になっているの!?僕の作品…。

 「よかったじゃん!創真!」

 「色…」

 「日に自分から当たることが出来るチャンスだよ!」

 …日に…自分から…当たる…。

 …そっか…僕が今まで日に当たることが出来なかったのは何もしなかったからなんだ…。僕は挑戦して自分の才能を見つけ出すことを諦めていたんだ…。探していけば僕の才能は自分で見つけることが出来た。僕は…自分から自分は日に当たるなんて出来ないと思っていた…。…でもちゃんと…誰にでも日は当たることが出来る。みんな自分から行動して日が当たれるように人生に…日が当たれるように…出来るんだ…。

 なんで簡単なことに気づかなかったの?自分から気づくことが出来ず、諦めていただけだったなんて…僕は…大馬鹿だ。

 「どうしますか?オファーを受けますか?」

 「…受けます」

 「分かりました!今から返答を…!」

 「…創真さん」

 「日矢先生…?」

 「…変わることが出来て良かったですね」

 「っ!…。…ありがとう…ございます」

 僕自身が変わろうとしなかったから自分を空虚な存在にしていた。誰でも普通より秀でている才能を持っているのに。…僕はその才能をなかったことにしていた。気づくことが出来て…本当に良かった。

 今日は出版社のオファーを受けて僕の作品の書籍化が決まった。そしてその後は…。

 「やった〜!創真の隣だ〜!」

 「え〜!話してみたかったのに!」

 「俺も!話したことなかったから話してみたかったのに!」

 最優秀賞を取ったからか、クラス中のみんなが僕に興味をいだいた。そしてホームルームが終わった後、みんなこっちに来て色も僕も笑って話していた。僕は楽しい騒音の一つの音にやっとなれた事を実感して涙がこぼれそうだったけどぐっと我慢した。部屋でたくさん泣こうと思う。

 職場体験の選択のときに僕は色と同じ職場になりたくて、そしてお互い文芸部だということから漫画や小説を書いている出版社の職場を選んだ。色はとても楽しみに待っていると伝えてくれた。…とても楽しかった…。

 けど…その時間は永久に続くわけじゃない。そう僕は自覚した。

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