第7話 光に気づき始める
放課後、僕は文芸部の部室に向かった。文芸部は僕を覗いて四人しかいない小さい部活で秋だからもう三年生はやめてしまっている。つまり一年生と二年生合わせて四人しかいない。そして二年生の僕が新しく入る。…本当に大丈夫かな…いや、頑張ろう。心晴さんを信じよう。
「あ、日影さん」
「日和さん…えっと…」
「部室に着いたら簡単に文芸部のことを紹介してあげるから。見学もしていない異例な子だからね」
「あ、…えっと…よろしく…お願いします」
なんか遠回しに面倒だと言われている気がする。「見学していない異例な子」辺りがそうだと思う。…まぁ他人から見たら面倒この上ないとは思うが…いや、本当にごめんなさい…。顧問の先生にも見ていないけど驚かれていたのかな…顧問の先生である「日毬(ひまり)先生」…机が入り口から遠いから見れないんだよね…表情やら何をしているのやら。…本琴先生と関わるのは初めて…だなぁ。どんな先生なんだろう…名前ぐらいは知っていたけど…。
「みんな〜今日から入部する子だよ〜」
「え!?そんなの聞いていないけど!?」
「いきなり…?しかもその子…見学すらもしていない子じゃ…」
「先輩…いきなりは困りますよぉ…」
みんな困った目で僕の方を見ている。恥ずかしいと思ったほうがいいのか、申し訳ないと思ったほうがいいのか。…申し訳ないと思っている、みんなが見ているから恥ずかしいとも思っている。そしてみんなの視線が怖いとも思っている。みんなの前にいるから緊張もしている。…色々な感情が混じり合って心がパンクしそう…。
「とりあえず自己紹介をお願い」
「あ、はい…二年一組の日影…創真です…よろしくおねがいします…」
「みんなの自己紹介。あ、私は文芸部の部長の日和色。知っていると思うけど」
日和さんって部長だったのか…知らなかった…。文芸部に入っているってことは知っていたけど…部長会なんて僕には縁のない話だったから部長が誰なんて知らない。部活入っていない人にとっては部長が誰なんてほぼ覚えていないだろう。
「それじゃあ私から…二年三組の…美空彩日(みそら あやか)と言います…」
「次は私。彩日と同じ二年三組の虹羅日暖(にじら かのん)よ。覚えてちょうだい」
「最後は…私ですね。一年一組の朝日彩葉(あさひ いろは)と申しますぅ…。これからよろしくおねがいします、日影先輩」
…全員知らない。そりゃあクラスも違うし、学年までも違う人までいるから…仕方のないことだろうけど。違う学年の人は部活以外ほとんど関わる機会がない。だから卒業生の半分以上は知らない人。部活をやっていない人はほぼ全員知らない。…これからちゃんと名前は覚えていこう。四人だけだからちゃんと覚えないと…。
「…よろしくおねがいします…」
僕はここで…変われるのかな、心晴さん…。
「それじゃあみんな、いつものように小説とか書いて〜。五時に部活を終了させるから」
「部長。顧問は?どこに言ったの」
虹羅さんは結構自信家なのかな…結構偉そうな口調だから。この人…どんな小説書くんだろう…。というかみんなどんな小説を書くのかな…。僕では考えられないような凄い小説を書くのかな…。
「顧問は出張中でいませ〜ん。ほら、二年生ってもうすぐ職場体験じゃん。その関係でいないってこと」
…あぁそういえばそうなんだっけ。職場体験…今年はどこになるんだろう…どこになっても僕はどこでもいいと思うんだろうなぁ…はぁ…。
「だから私が指示をするからよろしく」
「分かりました…」
「各自自由に書いてね〜。他のことをしてもいいし」
…部室の隅に紙束がおいてある。あれで書けという意味なのだろうか。この学校にはパソコン室以外パソコンがないから…そのパソコンも別の部活が使っている。だからルーズリーフで代用するしかないんだろう。
…とりあえず席について小説について考えてみようかな…内容とか設定とか色々考えないと…。
「あ、そうだ。完成したら教えて。みんなに見せて感想を言うから。そこまで辛口コメントは言わないから安心していいよ〜」
…なんだか信用できない。心晴さんの時は信用できたのに…基準がわからないなぁ。自分の信用できるできないの基準が…。
…思いついた物語を小説にしていけばいいかな。…。
カキカキ・・・
「え?もう思いついたの?早くない?」
「わぁ!?」
虹羅さんが僕のところへ来た。シャープペンシルを走らせた音だけでまさかこんなにも過剰に反応するとは思わなかった。どうやら僕が結構早く小説を思いついた事に驚いているらしい。…出来るのは多分面白くもない、つまらない作品だと思うけどね。
僕が書いていた小説はこうだ。一人の女の子と猫のお話。家族に捨てられて家もないあてなき少女は雨が降る中、路地裏で雨宿りしていた。だけどその路地裏は猫たちの住処だった。少女はお金もなければ誰か助けてくれるわけではなかった。いつもいつも生きるためにまだ食べられそうな食べ物をゴミ箱から漁る。不味くても、健康に悪くても…食べるしかない。そんなときに猫の路地裏に来てまだ食べられそうなアーモンドと小魚のパックを食べていた少女に猫たちが羨ましそうに見つめている。少女は小魚を一つ置くと一匹の子猫が歩み寄ってきた。そして硬い小魚を食べて嬉しそうにした。毎日、少女が漁ってとってきた食べ物を分けて、猫たちは少女に心を開いた。猫たちは少女と同じく人間に買われ、捨てられたのだとダンボールから少女は予測できた。猫や犬などのペットを捨てないように、責任を持って飼ってほしいと願った少女は誰も味方がいない中、世間を変えていく…そんなストーリーだ。かなりありがちだと思っている。
「…書き終わりました」
「おつかれ〜って多くない?」
ルーズリーフの量が凄いと遠回しに言っているのだろうか。…確かに他のみんなと比べると多いかもしれないが…小説って大体こんな感じなんじゃないの?
「…凄いぃ…。私…短編しか書けないのにぃ…」
「私もです。基本的に1、2枚で終わってしまうのに…凄い才能ですね」
「でも内容次第よ。つまらないかもしれないわ」
「はいは〜い。そんなことは言わないの。とりあえず見せてもらうね。読むのに時間かかるかもしれないけど」
…みんなの評価はどうなんだろう。僕の作品…どう思われるんだろう。…辛口コメントの覚悟をしておかなくては…。
「え!?めちゃくちゃ良くない!?」
…え?
「ストーリーしっかりしている…くっ…悔しいわ!」
「これ登場人物の名前全てに由来があるんですか!?間違っていなければ由来はこれだと思うのですが…!」
「だんのうちゃん…檀王法林寺…由来かもぉ…」
「あ…はい…そうです…」
名前には一つ一つ由来がある。だから小説、つまり空想だとしても由来は考えないといけないと思った。場所の名前も、人物の名前も…戦闘系ではないからこの小説にはないけど技の名前…名称には全て由来がある。だから…せめてちゃんと考えないといけない。子猫の名前も、少女の名前も。主要キャラクター全てに名前がなければいけない。モブは…まぁ、大丈夫だけど…。
「凄いね〜。初めてでこんな凄い小説書けるなんて。「才能」あるんじゃない〜?」
「…さい…のう…?」
才能?僕に…小説を書く才能が…?今まで一回も小説を書いたことがない僕が?書いたことも書くやる気すらもなかった。…だって書いてもつまらない作品ばかり書くと思っていたから何もやらなかった…。…でも本当は才能はあったの?平凡な僕にもあったの?天才には及ばないかもしれない。でも普通よりも秀でている部分があったの?…。
心晴さん…やっぱり貴方を信じてよかった…。
「そうだ!もうすぐ県内の中学専用コンテストがあるんだよね。私達の学校も対象内だからこれ代表作として出してもいい〜?」
「え…あ、別に…大丈夫ですよ」
「なら決まり〜。代表作はこれで決定!」
「「「わ〜!」」」
…ここまで楽しい感情が入ったオーケストラを聞くことはなかった。そしてこのオーケストラにはには…。
「…やった〜!」
僕の声も入っていた。僕は観客だけではなくなったんだ。
…とても…嬉しい…。
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