第5話 夜明けを夢見る

 電気が消えている僕の部屋に戻った。電気をつけて明るくさせる。…人工的ではあるが、眩しい。人工のものでこれなら天然、つまり太陽の光はどれだけ眩しいのか。ある程度分かってはいるが、細かいことは知らない。…太陽の光が一番低くなる夕暮れは僕でも太陽の光を感じることが出来る。みんなが輝いていた昼では僕には眩しすぎる。…いつか僕も昼に混じることが出来たらいいなと夢見てた。

 「…部活の入部届…」

 僕の引き出しに古い入部届があった。中学1年生にもらい、今の今まで出していない入部届だった。元々部活に入るつもりはなかったが、これは新一年生が必ず全員受け取らないといけないらしく僕もついで感覚で渡された。使うことがないがもしかしたらの可能性を考慮して保管していた。…まさか本当に使うことになろうとは思わなかった。部活なんて僕にはハードルが高すぎると思っていたのに。

 「あとは…担任の先生の許可と顧問の先生の許可…」

 一通り書き終わりあとは許可のみ。…明日、僕は文芸部に入部することになる。…大丈夫かな。自分の作品をなかったことに…されないかな。…。心晴さんは言った。文芸部に入ったら僕の悩みが解決するかもしれないと…。まぁ可能性があるというのなら信じるしかないのかな。

 晩ごはんを食べて消灯時間になったから僕は横になった。「寝た」と表現しないのはまだ眠っていないからだ。ただベッドで横になっているだけ。眠気がないから…眠れない。こういう日はよくある。だからベッドで横になっている時眠れるためにただ目を閉じて何かを考えたりしている。何かを考えるとそれが夢になるような気がする。将来の夢という夢ではない。眠るときに見る夢のことだ。僕には将来なりたい職業なんてない。

 考えていること、それは心晴さんについてだ。あの謎多い僕と同じくらいの女の子。どうして僕のことをあそこまで知っていたのか、僕のことを心配してくれるのだろうか。心配してほしいと言いながら、心配されると疑ってしまう。完全に矛盾しているというのは分かっている。だけどあそこまで僕のことを知っている人をいきなり信頼しろと言われても無理がある。彼女と僕は初対面だ。初対面なのに彼女はあれだけ知っていた。…本当に何者か分からない。

 夢を見ていた。僕があの女の子のことを考えたからか分からないけど、夢の中にあの女の子が現れた。場所はいつもの展望台ではなかった。裏に神社がある。しかし参道がないから神社の裏…ということ。そこはベンチもない。神社の裏手にこんな開けた場所があるなんて知らなかった。…崖ではあったが海が遠くに見えて水平線が見える。暗い、けどなんだか…少しだけ真夜中より明るい気がする。…夜明けが近いのだろうか。少しだけ海の向こうが明るい気がする。日が沈む場所と真反対の場所。ここは日が昇る場所。

 「いつか夕暮れを見るだけではなく創真くんが綺麗な夜明けを見れるといいね」

 「…夜明け…孤児院を勝手に出たら怒られてしまうよ」

 「別に一回だけいいじゃない。一回でも挑戦しないと綺麗な風景や何かを得る事ができないから」

 「何かを得る…」

 「…私は創真くんと一回だけ一緒に夜明けを見たい。その時の前日になったら誘うよ」

 「…僕でいいの?僕は何も取り柄がない…」

 「取り柄はあるよ。もう見つけていると思うけどな」

 また言った。僕の取り柄のことを…言ってきた。どうしてそんな事が言えるの?僕と君は初対面…知らない。僕は君のことを知らない、だけど君は僕のことを「僕より」知っていそうな雰囲気が出ている。僕以上に僕のことを知っている…おかしいな。自分のことを一番知っているのは自分のはずなのに。今は…それが否定されている。

 「…君はどうしてそんなに僕のことを知っているの?君は…何者なの?」

 「…何者だと思う?少なくとも私は創真くんと関係があるとだけ言っておこうかな」

 まさかの答えをはぐらかしてくるタイプだった。これじゃあこの子の正体が分からない…。僕と関係がある「人物」…?そんなの両親しかいないよ…?学校のみんなは…僕とはあまり関わりがないから、というか僕のことを「覚えている」のか…。だから学校のみんなでもない。両親は死んだから違う。そもそも名前が違う。だから…君が何者か僕にはわからない。

 「…それじゃあヒント。というより答えを入手するには「どうするべきか」だね」

 「…それって?」

 「数日後精神科に行くんでしょ?そこで私の正体を先生から教えてもらえると思うよ」

 なんで僕が数日後精神科に行く予定があると知っているのか。まるで…君は僕の「心を読んでいる」みたいだ。僕の心を読んで僕が孤児院に住んでいることも、僕が…数日後、精神科に行くことも。カウンセラーだけではなくメンタリストにも向いていそうな子だな…。

 「さてそろそろ目が覚める時間だよ。もしかしたら「現実世界」でも会えるかもね。創真くんが「望む」のなら」

 「…分からない。君はどうしてそこまで僕を意識するの?」

 「それも私の正体と関係している。だけど安心して。私は創真くんの完全なる味方。裏切ることがない。そもそも裏切る事が「出来ない」絶対的忠誠を誓う人物だってことを知っていてね」

 …完全なる味方。それは友達という意味なのか、それとも従者という意味なのか。でもどちらでもいい。僕は味方が一人だけでもいるだけでこの孤独な世界でも生きていけような気がする。孤独で生きていくのは難しいけど、誰か一人、味方がいる世界に生きていくのは孤独より難易度が低いはずだから。

 「…ありがとう」

 「どういたしまして」

 君の言葉を信じる。初対面のはずで本来なら疑ってしまうけど。君の言葉だけは何故か信用できる気がする。君が僕の人生に…日を照らしてくれるのだろうか。君の存在だけでも僕の人生は日が照らされているんだ。

 そう言うと水平線の向こうはさっきよりも少し光り始めた。日が昇り、僕はいつか見える夜明けを夢見る。その日を夢見る。

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