第4話 日は沈み、夜が来る
「…いきなり…なんですか?」
「いや、悩みを抱えていそうな顔をしていたから。私…困っている人は見過ごせない性格だから」
カウンセラーに向いていそうな人だ。悩みを抱えていることを一瞬で見抜いたり、その悩みを解決しようとしている…本当にカウンセラーに向いている人だ。…知らない人ではあるけど誰かに僕の話を聞いてくれるなんて今までなかったから…やっと僕が抱え続けた不満を少しでも解消できるのかもしれない。…知らない人でも気が合い、仲良くなっていく…それが友達というものなんだと思う。友達でも最初に出会った頃はお互いに「知らない人」だ。…だけどお互いを知ろうと思ったら友達になれるんだと思う…。…僕もそんなふうになれたらいいな。
「…僕…いつも一人なんだ。みんな僕に興味がないし…僕を覚えてくれない」
「…そうなんだ。…う〜ん…それなら…原因とか分かる?そうなっている原因とか。心当たりはある?」
「…あるよ。僕は何も取り柄がないから…何もかもが平凡だから…みんな興味が沸かないのだと思う」
取り柄がない、特技もない、趣味もない。そんな人と何を語ることが出来るのか。話題のものにすら興味を抱かない。別に特別面白くもない。馬鹿でも天才でもない平凡。中途半端。それこそ一番興味が沸かれにくい。…凡才から脱出出来ないから僕はいつまでも興味を抱かれないんだ。
「凡才だからか…。う〜ん…頑張って特技を見つければいいんじゃないかな?」
「…見つけられていないよ。いろんな頃に挑戦しても何もかも凡人」
スポーツも、読書も…何もかも凡人。僕には才能がない。努力してもうまくなる気配がない。勉強も努力しても何もうまくならないし得意にもならない。人に教えるほどの知能もない。…なんのメリットもない人材。会社は採用するのかしないのか。メリットがなく、デメリットもないのだから採用なのか不採用なのか…でも不採用のほうが多いかもしれない。…僕の未来は日が当たっていない。まだ日影のままだ。このままでは未来なんてない…早くなんとかしないと…そう思っているけどどうしようもならない…。
「そうかな?私はもう創真くんは特技を見つけていると思うけどな。創真くんにある才能は「今」見つけていると思うよ」
「え?何を根拠に…」
僕に特技が?才能が?あるというのか?ずっとずっと見つけられなかったのに。
国語は文章題が苦手だった。だけど語彙力はあると先生には言われた。
数学は式の計算自体は普通だった。分からないものもあれば分かるものもある。
社会は暗記が出来ない。最低限しか覚えることが出来ない。
理科も社会と同様の理由…計算式さえも僕には複雑すぎる。
英語は普通。難しい問題でミスったり、細かいところで減点される。
その他の教科も得意といえる実力ではなかった。家庭科は調理は出来るが普通。裁縫はうまくない。体育は凡人程度。技術はたまに怪我をして自慢できるほどのではない。情報は詳しくないし、タイピングも早くはない。…こんなので…こんなのが特技があるなんて…そんなわけ…。
「ちゃんと見つけているんだから安心して。まぁ、でも何をすればいいか分からないよね。…部活入っていないんだっけ?」
「…入っていない。どこに入っても何もしないような気がするから」
運動部は無理。恐らく出来ても補欠。どうあがいても選手にはなれない。そもそもスポーツ自体そこまでやらないから明らかに場違いだ。文化部も絵はうまくないし、楽器もうまくない…。小説は…思いつかない。…部活に入れというのだろうか?僕にリーダーシップなんてないし、生徒会なんて無理に決まっている。そもそも僕に誰も投票しないだろう。興味がないから。
「じゃあ…文芸部に入ったらいいんじゃないかな?」
「文芸部?…確か小説を書く部活」
小説だけではない。俳句や詩も書くという部活。そこに入部して…何をしたら?…何をしたらいいんだ。人に見せられない小説を書けばいいのだろうか?笑われるか、無視される、なかったことにされるのどちらかだろう。
「創真くんの才能を創真くん自身が気づくために…文芸部に入ったほうがいいんじゃないかな?」
「…何を根拠にしているかは分からないけど…分かった。一応入ってみるよ…」
「何かまた困ったことがあったら私に言って」
…頼もしいけど…また会えるかどうか分からない…。そもそもこの子僕とは初めて会った。今まで会ったことがなかった。…また会えるかな。
「君…いつもこの時間帯にいるの?」
「いるかもしれないしいないかもしれない。…だけど創真くんが望んだら「どんな時間帯」でもいるよ」
…どんな時間帯でも…?なんだか…怖いな。…それって僕がどんな時間帯に行っても心晴さんは必ずいるということ。心晴さんに会いたいと思ったら会えるということ。…なんだかストーカーみたい。ストーカー被害に遭えるほど僕が容姿端麗でも頭脳明晰なわけでもない。…ストーカーは通報するけど…対象を間違えているような気がする。
「…そろそろ夜になるよ。「孤児院」に帰ったほうががいいんじゃないかな?」
「うん…相談に乗ってくれてありがとう」
「これぐらい「当たり前」だから」
意味深なことをポンポン言う子だ。なんで僕が孤児院に住んでいるのを知っているのか。なんで僕の相談にのることが「当たり前」なんだろうか。…後者は性格故ということもあるが…前者は知ることが出来ない。もしかして同じ孤児院に住んでいるのか?それなら…知っているかもしれないけど…。
…彼女について悩んでいても仕方がない。もう戻らないと…
「それじゃあさようなら」
「また「望んでくれる」と嬉しいな」
また意味深なことを言い彼女は展望台に戻った。階段を降り展望台の方を見ると…そこには誰もいないような雰囲気が流れていた。…心晴さんは一体…何者なんだ?心晴さんの正体のことを考えつつ僕は孤児院に戻った。
「…」
孤児院に戻ってきた。…先生に話しかけるのは怖いけど…話すしかない。
「あの…」
「…ん?何?」
対応するのが面倒そうな顔をしていた。僕に構っている暇がないのか、それともまたもや興味がないからなんだろうか。…でも一つだけ聞きたい。どうしても聞きたいことがある。
「…日向心晴さんって知っていますか?」
「日向心晴?誰かしら、その子は」
…孤児院に…いないんだ。じゃあ彼女はどうして僕の住んでいるところを…?
「…ちょっと待ちなさい」
そう言って立ち去った。事務室に入り、仕事を片付けるつもりなんだろう。それで僕はいつまで待っても先生は僕の元へ戻ってこず…僕が待ちくたびれて部屋に戻ってしまう。…それの繰り返し…今日も恐らくそうだからもう僕の部屋に…。
「どこへ行くの?」
「え?あ…せん…せい…」
…戻って…きた?一体どうして?今まで放置していたのに。
「日向心晴という子の話で気になったことがあった。…それで市役所に話をしていたのよ。…市役所は貴方を精神科へ行かせろと言った」
…精神科?確か心の病気専門の病院らしい施設だっけ?どうして?今の話にそこまで不思議なことがあったのか?…僕にはなんも問題もないと思うけど。
「精神科には数日後に行きます。そこで貴方の心の状態を診てもらいます」
「…分かりました…」
僕は先生の言うことを聞き、数日後に精神科に行く予定を立てた。…その理由はわからない。…けどなんだろう…嫌な予感がする。
「…どういうことですか」
「そのままの意味ですよ。そうなってくると彼は何かしらの精神的な病気にかかっている可能性があります。…これは一体どういうことでしょうか?」
「そ…それは…」
「カウンセラーもいるのに何をしているのですか。もし彼が精神的な病気を患っていた場合、何かしらの処罰はあると覚悟していてください」
「…分かりました…精神科の予約をしておきます…」
プツ、ツー…ツー…
「…違和感はあったけど…やはりね…。…やっぱり日向心晴なんて子は…」
…この町にいない
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