第2話 日は昇り、頂上に着く
様々な楽しい声を聞きながら、学校に着いた。僕がいる教室は二階にある。一階は中学1年生の教室があり、二階が中学二年生、三階が中学三年生。田舎の小さな学校だから規模は他と比べると見劣りしてしまうかもしれない。実際、一年生は一クラス、二年生は三クラス、三年生は一クラスしかいない。全校生徒は100人以上200人未満の年が多い。
僕の学年は二年一組で、32人だった。出席番号は27番、素数である辺りが目立たない要因になっているのかもしれない。いや、そんなわけはないが。ただ、そう思ってしまうだけ。どんな細かいことでも気にしてしまうのは悪いところだと思うからすぐにでも直さないといけない。だけど悩みを言える人物なんていないのだから…直せるかどうかさえも分からない。
「課題終わった〜?」
「終わったよ!ちゃんとしないと成績入らないしね!」
「え!?課題あったの!?」
「昨日の夜にクラスルームに送られてきたよ。…もしかして見ていないの?」
「私、毎日クラスルームを見ていないんだよ〜!急いでやらないと!成績が落ちちゃうよ!」
「私も手伝うから頑張って!」
…課題…僕にはほとんどやることがないから帰って少ししたらやっている。僕の部屋には一応ゲームはある。だけど本数は少ないし、エンジョイ勢ではあるが特別うまくもない。…そして執着できないためにゲームを数十分で飽きてしまう。何かのせいで課題を忘れることもない。僕は塾も、友達などの人たちと遊ぶ予定がない。…友達と遊べて課題をやっていないと言って…焦られることも僕には羨ましい事だった。みんなは嫌いなのかもしれないけど僕には…欲しいもの一つでもある。みんなにとっての日常が僕にとっての「非日常」だから。
「はい。皆さん着席してください」
先生が入ってきた。僕の席は一番前の列。…そして一番前の列で唯一朝のホームルームの前に着席をしている生徒。他は当然、他の子の席に行っている。世間話や最近の流行りなど笑いながら。そして僕は一人…ただ座っているだけ。
普通の先生ならこの状況をどう対処するのだろうか。この状況を何も言わず放置するのだろうか。一人でいることを心配しないのだろうか。確かに一人でいたいときもあるだろう。友達と話したくない時もあるにはある。…でも…いつも一人でいることは先生でも分かっているのにそれを放置するのだろうか?このことは二者面談に大体言われるだろう。…僕にも二者面談はあった。
「えっと…創真くんは…普通にいいと思います」
…それだけで終わった。僕の面談は数分だけで終わった。先生にとっても僕は興味のない存在なんだろう。適当に考えたような僕の言葉。でもそれは証明することが出来ないのだから…僕は何も言えない。三者面談も数分で終わる。隣の両親代理の孤児院の先生も…「早く帰りたい」という目をして、またもや先生の適当に考えた僕に対しての評価に返事は…。
「あ〜そうですか。よかったです」
「それでは。ありがとうございました」
…僕は誰からも興味のない存在なんだから。取り柄がないというのもあるのだろうか…僕には特技も趣味も…ない。誰かと語り合えることがないから興味が沸かれないんだろうか。…そのことには少し前に思い始めて、僕にも出来る特技を詮索しようとした。…だけど…なかった。僕は何も執着することが出来なかった。ゲームにも、スポーツにも、勉強にも、読書にも…。
「出席番号27番。日影創真(ひかげ そうま)さん」
「はい…」
「出席番号28番。火野俊英(ひの しゅんえい)さん」
「はい!先生!」
「今日も元気そうで良かったです。体調を崩さないようにしてくださいね」
…僕も心配されたかった。
ホームルームが終わった。一時間目の授業の準備をしないといけない。次の授業は…確か数学だったはず。…鞄の中に教科書とノートがある。
「…取りに行かないと」
「ねぇ。最初の授業なんだっけ?」
「えっと…時間割によると数学みたいだね。でもまだ時間あるし、引き出しの中に置き勉しているからここで話していよ?」
「あ〜いけないんだ〜!」
「いいでしょ。これぐらい。そもそも置き勉の何が悪いのよ?と先生に聞きたいぐらい。置き勉しないとカバンが重くなるばかりなんだから」
「確かにわかるかも〜」
ホームルームが終わると僕以外の生徒たちはすぐさま立ち上がり友達の元へ行く。次の授業のことを話しながら先生に対する反感や、校則についての不満。…そんな不満を解消している。「誰かに共感される」ということで不満を少しでも解消出来ているのだろうか。僕は今の学校生活には不満ばかりだ。…だけどそれを話せる人がいないから結局一人で抱え込んでそれが大きくなり…まだ起こっていないがいつか暴走する。悩みを誰にも打ち明けられない。悩みを話せる「誰か」すらもいない。だから僕の不満は「誰か」が現れるまで永久に残るばかりだ。
カウンセラーに話したこともあった。学校生活に対しての不満も。…話を聞いてくれただけでもいいのかもしれない。大人になっていくと話を聞いてくれただけでも満足する人もいるらしい。でも解決方法を提示してくれるわけではなかった。…僕が強欲なのがいけないのか、それともカウンセラーが怠惰すぎるのが悪いのか。話を聞いてくれる大切さというのは大人になって実感してくると…ネットで見たことがある。だから僕は…あの結果で満足するべきなんだろう。カウンセラーが「話だけしか聞いてくれなかった」あの結果に。
〜キーンコーンカーンコーン〜…
「あ〜やっと終わったよ。さ、みんなでお弁当食べよ」
「今日はいい天気だからさ、屋上で食べようよ。もうそろそろ冬だから少し寒いかもしれないけど厚着すれば大丈夫」
「それいいね。みんなで誘っていこ」
「じゃあ私、男子誘うね〜」
そしてみんなは屋上へ向かった。
「僕」だけを残して…
教室は僕だけ。僕は一人で孤児院の先生からもらった弁当を食べている。昼休みの学校はとても騒がしくて楽しいという感情が入り混じっている。だけど…それは他の教室の話。僕の教室だけはこの騒がしく楽しい音の合唱に混じっていない。無音。僕はどちらかというと観客の方だ。たくさんいる観客の中の一人。「たくさん」と表現したのは僕以外にも騒がしい人にもこの合唱は聞こえている。だからこそ僕以外の生徒たちは観客でもあり、合唱団の一員でもある。僕は何もしていない、ただの聞いているだけの観客。会場でたまに一緒に踊ろうと舞台の人が言う時がある。僕はそのお願いに永遠に当てられない「ファン」と言ったところだろうか。ファンと表現したのは僕もこの合唱団の一員になりたいから。だから「ファン」という表現の仕方をした。羨ましく、嫌いでもあるが一員となれたのなら話は別。どれだけ夢見がちの未来なのかは自分でよく理解している。でも一員になれたのなら…恐らくこの合唱自体も好きになれるだろう。好きの裏返し…みたいなものだ。
弁当が食べ終わった。僕は教室の窓から校庭の様子を見ていた。みんな制服だけど一人一人に個性があって、みんな日に当たっている。対して僕は教室の中。日が当たらない影。日に当たる場所に行きたいが僕には眩しすぎる。青空の日はみんなが眩しくキラキラしているように見える。雨の日でもみんなは教室内で光っている。笑顔が光を作っている。雨の日はみんな外に行けないから友達同時で話し合っている。耳は普通だったから後ろで笑い合っている女子の声は聞こえた。
「ねぇねぇ。今話題のアイスクリーム知ってる!?」
「あぁ!近くにオープンしたばかりのお店!ニュースで話題になっていたから行きたいんだよね!」
「じゃあ、今度行こうよ!あそこのアイスクリーム甘すぎない絶妙な味だってニュースで言っていたから。本当かどうか確かめるわよ!」
「ニュースは信用にならない時があるからね〜。そんな事言ったら悪いけど」
…僕は話題なんて興味なかった。美味しければ何でもいいという価値観を持つから。アイスクリームが話題になっても、行けたら行くという感覚でしか行かなかった。…話題の食べ物や場所などは一人で行くには眩しすぎるから。一人で行くと虚しいと思ってしまうから…行かなかった。僕はいつも普通の食事をしているし、場所はいつもの場所しか行かなかった。
いつもの場所…そこは僕が毎日行っている誰もいない廃墟になった神社。山の方にあって階段が長くてきついけど運動にもなるし…そして展望台があって…美しい街並みを見ることが出来た。誰にも教えたことがない、秘密の場所。教えようとは思ったけど…みんな僕には興味がないから…話しかけても「忙しいから今度」で済まされてしまった。だからずっと一人で綺麗な町並みを見ていた。あの場所は夕暮れ時が一番綺麗で学校が終わり、夕暮れの時間帯になる前にそこへ行き…ちょうど日が沈むときが見れた。空が夕日に染まり、町並みも染まる。廃墟で取り壊される予定がない神社だったことが幸福だった。…そして僕がこの場所を好む理由はもう一つある。
それはこの神社が僕と同じような境遇をしていたから。この神社は呪われていると言われていた。この神社に努めていた巫女と神主が一斉に殺人犯に殺された事件が起きたからだ。そんな怖い神社に行きたくないと事件をきっかけに神社は参拝客を失っていった。そして誰からも忘れ去られていった…誰にも興味を抱いてもらえず、廃墟マニアやオカルトマニアにも話題にされない…忘れ去られた場所でもあるから。重ねることが出来るから僕はあの場所に安堵を感じているのかもしれない。…しかし夕暮れの美しい景色を見ただけで僕の心の空白は埋まらない。だけど見ないとどんどん広がっていくような気がするから。これは或る種の「応急処置」なのだ。
〜キーンコーンカーンコーン〜…
「終わった〜。ねぇこの後ゲーセン行こ」
「いいね。私はお金に余裕あるけど、他は?」
「私もいいよ。でも門限あるから長くはいられないかも」
「あ〜そうだったね。まぁ、そこまで遅くならないでしょ!」
「じゃあ!集合ね!ショッピングモール前に!」
みんなは学校が終わった後必ず「終わった〜」と友達に向かって言う。そしてこの後の予定さえも埋めるのだ。一日一日の楽しさを感じるために。心の奥底にしまっておくために…。僕には他人から見ればなんてことのない予定が毎日ある。だけど僕にとっては死活問題になるかもしれない。…だから今日も見に行こう。
この町の夕暮れを…
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