日が昇り、心は照らされる

岡山ユカ

第1話 日が昇る

 一日が始まる。

 目覚ましが鳴り、僕は起きた。寝坊することもなければ、早起きすることもない…なんてことない日常。そんな日常は誇るべきなのか、直すべきなのかよくわからない。スリルを求めている人ならこの日常は果てしなく「つまらない」ものなんだろう。だけど現状維持は少しの幸せでも喜べる人は「羨ましい」と思うのだろう。…僕はこんな日常好きではない。「つまらない」だけではなく僕は孤独だから。

 僕は幼い頃に交通事故で両親を亡くした。僕も交通事故を起こした車に居合わせたけど奇跡的に生き残った。病院にすぐさま搬送されて医者たちの賢明な手術により僕は命をとりとめたと当時の担当看護師さんから聞いた。だけど両親だけは手術をしても息を吹き返さなかったらしく、僕の知らない、見ていないところで死んでいった。 

 交通事故の原因は後方車両…もっと詳しく言うなら後ろにいたトラックの居眠り運転だった。トラックの運転手が眠ったことでブレーキ出来ずに衝突。他の車も巻き込む大事件になったという。他の車からも死者が出ており、僕はその大事件の唯一の生き残りだった。でも、唯一の生き残りと言っても決して無傷だったわけではなかった。片目の失明、数年かけて治った大火傷、頭部の出血…軽いものではなかったが、現在は失明以外治っている。しかし失明は治っていない(そもそも治せない)ため今でも見えない目の方に包帯を巻いて登校している。眼帯ではない理由は目をさらに悪くしてしまうからだという理由だけどそもそも目が見えないのだからどうでもいいのではないかと思っている。…ちなみに元凶である運転手も事件にて命を落とした。僕がその事が許せない。

 誰も僕の容姿について咎めることはなかった。だけど誰もそれを「触れることがなかった」…言い方を変えると誰も片目の失明を「心配してくれなかった」。へぇ〜程度にしか思われていないのだろう。彼らにとっては他人事だから。心配されない…怪我について。負傷している目に手が当たっても無言でその場を立ち去られてしまう。悪化の可能性もあるのに…何も言わず立ち去る。みんな僕の境遇についても僕の存在についても興味がないんだろう。僕は平凡でなんの取り柄もない空気なんだから。いじめられていないってだけで幸福に思うべきなのかもしれない、僕は。空虚な存在であることが幸せかどうかは…人それぞれだと思うが、僕自身は幸せではないと思う。誰にも興味を抱いてくれず…僕はずっと一人でいる。先生もいじめではないから何も言わずただ仕事をたんたんとこなしているだけ。

 友情も、家族愛も…僕にはない。というより知らない。友達との遊びの楽しさも、家族の暖かささえも。…僕はそれがずっとずっと知りたい。知りたいのに知ることが出来ない。知ろうとする努力をしても無駄になってしまう。みんなみんな、僕に注目してくれない。僕を見てくれない。僕を感じてくれない。…僕が何か言ってもどうせ数分後には忘れられてしまう。…空虚で孤独ななんの取り柄もない凡人。それが僕だ。

 「…準備しよう」

 学校の準備をしないといけない。まず歯を磨いて、顔を洗わないといけない。洗面台に行かなければ。

 洗面台に行く途中に朝食がテーブルに置かれていることを確認した。両親がいない中垂れが作っているのかは分かりきっている。…施設の人たちだ。僕にはおじいちゃんとおばあちゃんもいなかった。僕が生まれると同時に寿命で死んでしまったのだという。だからこそ僕には「引取先」がいなかった。いわゆる「孤児」というものであり、僕は孤児院に預かられることになった。

 孤児院も僕には空虚なものだった。みんなが孤児院の公園で遊んでいるのを窓から羨ましそうに見ることしか出来なかった。友だちになろうとしても「あ〜ごめん、無理」と言われて断られる。悪口を言われていないだけ嫌われていないと言えるかもしれないが、逆にこうも考えられて怖い。悪口を言えないぐらい取り柄もなく、興味もない存在。…僕には否定できない理由だった。孤児院の先生も学校の先生と同じだった。…僕を友達と認めてくれる誰かはこの世界にいるのだろうか。

 学校の支度を終え、僕は「孤児院での自分の部屋」を出た。自分の部屋は家でずっとそのままになる可能性もあって「自分の部屋感」がある。でも孤児院はいつかなくなる。というより移される。だから自分の部屋と言っていいのか分からない。自分に所有権があるのか分からない。

「…」

「ねぇねぇ。今日テストだよ」

「え〜嫌だなぁ〜…なんの教科のテストだったっけ?」

「英語と数学だよ〜…。英語はこの間やった単元のまとめテストだって」

「数学は小テスト…成績入るから頑張らないとだね!」

 みんなの嫌々そうだったり、嬉しそうだったり、退屈そうな声が聞こえる。でもこれらの様々な感情が入った声でも一つだけ全ての声に共通して入っている感情がある。

 …「楽しさ」。みんな楽しく登校している。誰か…いや友達と一緒に太陽が昇る中笑い合いながら話している。…あの太陽のように僕にとっては眩しすぎる人生だった。僕のような人間を現代用語で言うのであるのなら…「陰キャ」と言うべきなんだろう。

 …陰キャ。「陰キャ(いんキャ)」は、いわゆる「陰気なキャラクター(陰気な性格の人)」の略。言動や雰囲気が陰気・陰湿・暗い・後ろ向きな人。周りの人の気持ちを暗くさせるような人、コミュニケーション能力のない人、社会性の乏しい人という意味を込めて使われる場合もある。罵り文句として用いられることもあれば、自虐の意味で用いられることもある。

 そしてみんなのことは「陽キャ」と呼ばれる存在なんだろう。

 陽気な性格の人を意味する俗語。「陽気なキャラ」あるいは「陽気キャラ」の略語とされる。スクールカーストの文脈においては、実際の性格が陽気かどうかをさほど重要な条件とせず、スクールカーストの上位に位置する、いわゆるクラスの「イケてる」人やグループの総称として用いられることも多い。

 僕には考えられない世界だった。眩しい人生を歩んで…おとなになっても友達と一生に同窓会や遊びに行くのだろう。…そんな人生…僕に歩めるのだろうか。日が昇り…みんなは照らされているが…僕は知らない誰かの影にいる。日の当たらない僕に…人生を照らすことは出来るのだろうか?

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