第2話 フリシア
その夜。
ダスはようやく地下室へ姿を現した。
「おかえり.......なさい」
呟くような声で、ダスは少女の存在に気づいた。
「なんだおめぇ、逃げてなかったのか」
ダスはコンクリートにあぐらをかくと、辺りを見回した。そこら中に氷の刃が突き刺さっていた。
「ずっと練習してたのかよ?」
少女は小さく頷く。
「酔狂な奴だなァ?ま、いいや」
そう言うと、ダスは持っていたビニール袋から惣菜を取り出し、手掴みで食べ始めた。暫く食べ続けていたダスだったが、視線を感じて顔を上げる。
「おいおい、こいつは俺のエサなんだぜ、おめぇにはやらねーよ」
少女は黙っていたが、目の前の食べ物から目を離せなかった。
「あーっ!わあったよ!ほら!やるから見てんじゃねえよ!」
視線に耐えきれなくなったダスはビニール袋にあった適当なものを投げ渡す。しかし不幸な事にそれはダスの好物である白身魚のフライであった。少女は嬉しそうにそれを食べ始める。
「あっおめぇそれは.......!」
ダスは慌てて止めようとするが、余程空腹だったのであろう。少女はペロリと平らげてしまった。
「どんだけ腹減ってたんだよ.......ったく」
ダスは舌打ちし、今一度辺りを見渡す。壁に刺さっていた氷を一つ引き抜き、じっと見つめた。
「にしても、コイツのこの能力はなんなんだ?明日ヤツに聞いてみるとするか」
ダスは独り言のようにそう呟くと、少女の方を向いた。
「お前、コイツはいつから覚えたんだ?」
氷を指差しながらダスは言う。
「分かり.......ません。気づいたら.......」
「あァ?」
少女が言うに、昼にダスがナイフで切りつけた時に、殺される、死にたくない、と思ったら作り出せたらしい。
「なんだよソレ?意味わかんねぇわな」
ダスは質問を続ける。
「で、お前、名前は?」
「名前.......無いです」
やっぱりか。この返答に対してはダスは妙に納得した。
「ならお前の名はフリシアだ。適当につけた、文句言うなよ」
「はっ、はい」
こうしてダスとフリシアの奇妙な生活が始まった.......。
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